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17.長柄ダム(村田川)の建設

 村田川は千葉市土気町板倉を上流端とし、瀬又川、支川村田川を併合し、千葉市村田町で東京湾へ注ぐ流路延長17.48qの二級河川である。

 長柄ダム(市津湖)は、東金ダムと同様に房総導水路建設事業の基幹施設として、村田川水系支川村田川に、千葉県長生郡長柄町山之郷(右岸)、市原市犬成(左岸)地先に昭和48年着手し、昭和60年に完成した。
このダム建設記録については、水資源開発公団房総導水路建設所編・発行「長柄ダム工事誌」(平成3年)がある。

(撮影:sio)

「長柄ダム工事誌」

「水資源開発公団二十年史」
 長柄ダムの目的は、東金ダムと相まって利根川の余剰水を貯留調達し、千葉県等に都市用水を供給することは既に述べてきた。

 ダムの諸元は、堤高52m、堤頂長250m、堤体積145.5万m3、総貯水容量1 000万m3、有効貯水容量960万m3、型式は傾斜コアフィルダムである。

 なお、補償関係は土地取得面積166.5ha、公共補償として茂原市所有の水道水源施設補償、町道付替道路の補償を行った。

 長柄ダム建設の経過、設計、施工の特徴について、水資源開発公団編・発行「水資源開発公団二十年史」(昭和59年)により、追ってみる。

 昭和47年に着工し、転流用トンネル、仮締切、本体掘削と進行したが昭和51年アメリカのティートンダムの決壊事故が起こったため、同タイプのダムの総点検がなされることになって、建設中の長柄ダムは設計上の見直しがなされ、その期間本体工事の施工が一時中止となった。そして堤体の安全性を高めるためにゾーンV(泥岩)を追加し、副堤の長さを延長する等の修正を行い、昭和55年10月第2期工事として再開し、基礎地盤検査を経て、昭和60年に完成した。

 さらに、この書では設計、施工上の特徴について、次のことが挙げられている。

設計上の特徴

(1)迂回浸透に対する処置としてブランケット工法を採用

(2)アバット部砂地盤の液状化を防止するため、ブランケットを兼ねたフェーシングを施工し、地山ドレーンで水位を下げることとした。

(3)砂質材料の盛土の液状化を防止するため、表面しゃ水型のしゃ水ゾーンと傾斜ドレーンを配置とした。

(4)特に長柄ダムでは天端幅を広くとり(20m)、しゃ水膜で堤敷を被い、集水工を設置する等、耐震性と浸透水対策に配慮した。

(5)洪水吐が透水性地盤に設置されたために、水理的、耐震性を考慮した。

施工上の特徴

(1)関東ロームは含水比100%を越す特殊土であり、設計値の確保、施工性の確保、含水比の管理、間隙水圧の発生と変形に特に留意した。

(2)砂質土は、最大粒径100%以下の均一な細砂であり、地震時に液状化のおそれがあるため十分締め固める必要がある。そのため最適含水比付近で締め固めができるように散水等の処理を行った。

(3)泥岩は飽和状態で強度が低下するため、十分締め固めるとともに岩塊の破砕に努めた。

(4)泥岩、捨石、ドレーン材は遠方より運搬するため、運搬途中の苦情や安定供給に十分配慮した。

(5)基礎地盤の判定基準をスウェーデン貫入試験の結果を基に行った。

(6)遮水シート(吹付施工)の下処理等、基礎の整形と基礎地盤面の維持を図った。

 このようにみてくると、長柄ダムは地震対策に十分に考慮されて築造されたことが分かる。実際に、昭和62年12月17日千葉県東方沖地震マグニチュード6.7が起こった。地震発生後の巡視点検、計測データをチェックした結果、ダム天端舗装面にヘアークラックが生じた程度の影響であったという。
東金ダム、長柄ダムを基幹施設とした房総導水建設事業は昭和45年〜平成17年にかけて、35年の歳月を経て完了し、総事業費1 416.7億円を要した。

 今日、東金ダム、長柄ダムの兄弟ダムは千葉県内に都市用水を供給する重要な施設として位置づけられる。


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