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◇ 9. 合角ダム(吉田川)の建設

 吉田川は荒川水系赤平川の支川で、群馬県堺二子山(標高1 166m)に源を発し、埼玉県西部の西秩父を東に流れ、途中で石間川、阿熊川を合わせて赤平川に合流する一級河川で、流路延長25q、流域面積78.8km2である。

 合角ダム(西秩父桃湖)は、吉田川総合開発事業の一環として吉田川の埼玉県秩父郡吉田町大字上吉田字松山地先に多目的ダムとして平成12年に完成した。

 埼玉県土木部合角ダム建設事務所編・発行「合角ダム工事誌」(平成12年)によれば、ダムは3つの目的をもって造られた。

@ 洪水調節
 ダム地点において、460m3/sの洪水に対し最大400m3/sの調節を行い、吉田川下流の洪水被害の軽減を図る。
A 河川環境の保全
 流域の漁業、景観、動植物の保護などのため、渇水時においても維持しなくてはならない流量と、ダム下流の吉田川及び赤平川で取水している潅漑用水、上水道のために必要な流量を確保する。
B 水道用水
 水需要の増大化に対処するため、埼玉県、川本町、寄居町、小鹿野町の水道用水として新たに1.0m3/sの取水を可能にする。


「合角ダム工事誌」
 合角ダムの諸元は、堤高60.9m、堤頂長195.0m、堤体積約17万m3、総貯水容量1 025万m3、有効貯水容量925万m3、洪水調節容量560万m3、型式重力式コンクリートダムで、起業者は埼玉県、施工者は、鹿島建設、間組、株木建設特別共同企業体である。事業費は471億円を要し、費用割振は、河川66.5%、水道33.5%である。
 なお、主なる補償は、移転世帯75戸、取得面積101.0ha、付替道路11.3qであった。



 合角ダムの事業の歩みを次のように追ってみた。

昭和45年4月 実施計画調査に着手
  48年4月 建設事業(補助事業)に採択
  54年4月 水源地域対策特別措置法に基づくダムに指定
  61年12月 損失補償基準妥結
平成4年2月 転流開始
  5年7月 本体コンクリート打設開始
  7年10月 本体コンクリート打設完了
  10年3月 合角漣大橋完成
  10年10月 試験湛水開始
  11年11月 竣工式
  14年6月 試験湛水完了
  15年3月 完成(ダム検査合格)
 合角ダムの特徴は、堤頂部のほとんどを非常用洪水吐きが占め、中央に1門のコンジットゲート、左右非対称のピア、それに減勢工は3段に分かれていることである。

 施工者側から鹿島・間・株木特別共同企業体合角ダム工事事務所編・発行「合角ダム工事誌」(平成11年)が刊行された。

 この書に、西岡比呂文所長は「平成2年12月着工以来、途中、無事故無災害記録100万時間達成、建設ステーションCCI表彰、竣工検査の優秀な成績等に代表されますように、大過なく完成を迎えることが出来ました」と記し、合角ダムの勇姿を見上げたときは感慨無量のものがあったという。


「合角ダム工事誌」
 ダムが造られる側の書もある。合角ダムでは水没者は75世帯に及ぶ。山口美智子著「村とダム」(すずさわ書店・平成9年)は水没者の主婦を取材し、目尾、合角、塚越、女形の各地区における秩父盆地の生活と風土を追っている。いくつか記してみる。

・底冷えする秩父で、凍死する蒟蒻をどう保存するかがここいらじゃ大きな課題だったんだよ。

・あの頃らぁなあ、何ぃするったって薪で火い燃したんだから薪がなんとも尊いもんだったいなあ。

・川の無い生活なんて考えられねえけど、これも時代の流れで仕方のねえことだいねえ。

・病気になって合角から一番はじめに秩父の街へ出て行った町田さんの家を壊すときの事、ふんとに嫌だったなあー。

・こっちぃ越して来ても、夢に見るのは合角の事や合角の人たちの事ばっかりですよ。せめて夢の中だけでも合角での思い出をくいつないでおきたいやねえー。


「村とダム」
 合角ダムの完成によって、水没者の生活も消え、さらにその歴史や文化、風習も水没する。「せめて記憶上だけでも故郷を遺さねば、心はいつも戻ってこれる」という水没者の支援をうけて、秩父・合角ダム水没地域総合調査団が昭和62年6月に発足した。

 そして、合角ダム水没地域総合調査会編・発行「秩父合角ダム水没地域総合調査報告書(上巻)自然編」、「秩父合角ダム水没地域総合調査報告書(下巻)人文編」、「秩父合角ダム水没地域総合調査報告書(別篇)近世・近代文書分類別目録」の3冊が平成4年に刊行され、水没地域の地形、地理、植物、歴史、石造遺物、民俗等がまとめられた。

「秩父合角ダム水没地域総合調査報告書(上巻)自然編」

「秩父合角ダム水没地域総合調査報告書(下巻)人文編」

「秩父合角ダム水没地域総合調査報告書(別篇)近世・近代文書分類別目録」

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