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◇ 7. 川俣ダム(鬼怒川)の完成

 川俣ダムは、五十里ダム完成10年後、昭和41年鬼怒川上流部栃木県塩谷郡栗山村川俣の瀬戸合峡に竣工した。

 川俣ダムについては、土木学会岩盤力学小委員会川俣アーチダム編集委員会編『工事報告川俣アーチダム』(土木学会・昭和40年)、鹿島建設株式会社川俣出張所編・発行『川俣ダム(写真集)』(昭和40年)、建設省川俣ダム工事事務所『川俣ダム工事誌』(昭和41年)の書がある。


『工事報告川俣アーチダム

『川俣ダム(写真集)』
 これらの書から、ダムの目的、諸元、特徴について述べてみたい。
 川俣ダムは次の3つの目的を持っている。

@ 洪水調節
 ダムサイトにおける計画高水流量1,350m3/sを、治水容量2,450万m3を利用して、1,000m3/sの洪水調節を行い、350m3/sに低減して放流する。これにより、鬼怒川の基準地点栃木県宇都宮市石井における基本高水流量8,800m3/sを五十里、川治ダム等の鬼怒川上流ダム群によって3,400m3/sを調節し、5,400m3/sとする。
A 灌漑用水
 灌漑用水の補給計画としては、下流佐貫頭首工において五十里ダムと併せて最大42.0m3/sの用水補給を発電を通して行っている。これによる補給対象面積は約8,941haとなっている。


B 発電
 鬼怒川筋の発電については、川俣ダム建設以前から、民間の発電業者により、栗山・鬼怒川発電所が運営されていたが、ダム建設に伴い東京電力鰍ノよる川俣発電所(最大発電量27,000kW)の新設、および下流の栗山(最大発電量42,000kW)・鬼怒川発電所(最大発電量127,000kW)の増強さらに塩谷発電所(最大発電量9,200kW)の新設により電力量の増加が図られている。

 川俣ダムの諸元は堤高117m、堤頂長131m、堤体積16.7万m3、総貯水容量8,760万m3、有効貯水容量7,310万m3、型式はドーム型アーチ式コンクリートダムである。起業者は建設省(国土交通省)、施工者は鹿島建設、事業費は78.4億円である。残念ながら11名の殉職者が出ている。なお補償は、家屋移転50戸、土地取得面積は約105haとなっている。


 『工事報告川俣アーチダムによれば、川俣ダム地点は外観的には、アーチダムサイトとしての好適の地点であるが、基礎岩盤(石英粗面岩質熔結凝灰岩)は断層クラック、シームなどが多く、地山は非常に不安定であった。特に左岸は圧砕著しく、大規模な岩盤改良工事が計画され、次のようにまれな特殊工法が採用されたとある。

@ ダムのアーチアバットメントをできるだけ山側へ追い込むと共にスラスト方向を山側に向ける。
A 岩盤内推力方向に杭状構造物を作り、荷重を地山奥深くへ伝達させる。
B 杭状構造物により2分される地山を高張力棒により堅結する。
C 地山外側をコンクリート押え壁により根固めを行い、これらも高張力鋼線、または高張力ワイヤーロープにより地山の2次的補強を行う。

 これらに基づき、地山安全率が高められた。
 また、この書では、次のようなダム建設の特徴を挙げている。

@ ダム型式が薄肉アーチダムであって、しかもその作用応力もかなり高くなるため、ダムコンクリートには高品質が要求され、使用セメントは中庸熱ポルトランドセメントに決定した。
A 川俣ダムは、鬼怒川の洪水調節がその建設目的の一つであり、計画高水流量に対して洪水調節を行う際の最大放流量は550m3/sである。この流量をダムから放流するため、主放水設備としてダム本体にコンジット2条(吐口断面・高さ3.22m×幅3.22m)を設けた。このコンジットの主ゲートとして下流面に、高圧バーチカルリフトゲートを採用した。
B 高水圧ゲートは吐口中心から貯水池の最高水位までの水深が64mであって、国内において最大の水深のものとなった。
C 川俣ダムサイトは日光国立公園の特別地域に指定されており、ダムの外観が自然の景観を損なうことなく、これと調和するようダム各部の設計及び施工に工夫した。

 川俣ダムの上流には、川俣温泉、下流には川治、鬼怒川温泉があって、清流渓谷美に恵まれており、四季を通じて訪れる人が多い。川俣ダムでは訪れる人の安全対策、河川敷地の適正管理のために環境整備事業が平成2年に完成し、水と緑の豊かなオープンスペースを提供している。


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