第19回 日本ダム協会 写真コンテスト
"D-shot contest"
入賞作品および選評


各委員の全体評

第19回D-shotコンテストは、333点の作品応募がありました。これらの作品を対象に、最優秀賞、優秀賞、入選作品の選考を2022年3月18日に日本ダム協会にて行いました。
その結果、今回は下記の作品が選ばれました。
なお、今回は残念ながら「最優秀賞」該当作品はございませんでした。


写真展開催
優秀賞・特別賞作品は、ダム博物館写真館(浦山ダム資料館 うららぴあ)に展示予定です。

写真をクリックすると大きな写真を見ることが出来ます





「ダム本体」部門

優秀賞
優秀賞
「私を映す「鏡」」
兵庫県・千苅ダム
撮影者:HAMTIY
<選評・西山 芳一>

下流に溜まった水面に堤体を映して逆像で見せるという撮影手法は今までにも何度か見られましたが、水に映ってはいない部分での岩石が画面を囲むことによって尚一層の違和感を醸し出し、見事な作品に仕上がっています。ここは流水のきれいなダムなのですが、狙いどおりに越流していなかった場合はこのような見方も出来るといった参考になる作品ですね。風もなく鏡のような水面が必要ですが、他のダムでも応用できそうです。





入選入選
入選 入選
「原色大図鑑」
大阪府・箕面川ダム
「昇龍」
奈良県・二津野ダム
撮影者:HAMTIY 撮影者:moto
<選評・西山 芳一>

紅葉はダム本体を引き立てる脇役としてはうってつけの存在ですが、なんとなくダムの存在が弱くなりがちな紅葉時のダム写真の中では群を抜いた作品です。おそらくですが彩度とコントラストを鬱陶しくないギリギリの状態まで上げているというのがニクイですね。まずは真っ赤な紅葉に目が行きますがダム堤体のリップラップ(岩石)の存在感も負けていません。まるで美女に囲まれた俳優の登場シーンのようですね。

<選評・西山 芳一>

おそらく撮影ポイントを熟知し「雪が降ったら撮ってやろう」と思い、天気予報での降雪の情報を頼りに奈良の山奥まで駆けつけたのでしょう。タイトルどおり確かに朝日を浴びた下流側の霧が天に向かって昇ってゆく龍のようにも見えてきますね。何度も通いつめること、気象や季節の情報を的確に捉えること、そして即座に駆けつけることで、この霧のようなご褒美までいただける素晴らしい写真がゲット出来るのですね。



入選入選
入選 入選
「放流音だけが響く星夜」
三重県・蓮ダム
「まるで砲台」
岐阜県・久瀬ダム
撮影者:HAMTIY 撮影者:enma
<選評・西山 芳一>

ダムにはライトが煌々と点いているので星空との光量の差にはかなり苦労されたかと思います。技術的に申し分なく敬服いたします。星空の中心の北極星をバックにして長時間露光して撮影しているのですが、国内には堤体下流面が真南に向いているダムは太平洋側にはいくつもございますので、これを機に何十基か回られて星空ダム写真集でも出版されたらいかがですか。ついでに星空タイムラプスもあったら嬉しいですね。

<選評・西山 芳一>

久瀬ダムといえば以前、幾度か通っていた工事中の徳山ダムの撮影の折に車窓に突然現れる普通のダムのはずですが、ここまでゲートが開ききった姿は記憶にありません。何か工事でもしているタイミングでしょうか。たしかにビーム砲か何かの砲台のように見えますね。ダムを見慣れたマニアの方であるからこそちょっとした姿の変化にも気づき、いろいろな物に見えてきてそれを擬態的に表現出来るのかもしれませんね。







「ダム湖」部門

優秀賞
優秀賞
「静寂の朝」
三重県・室生ダム
撮影者:玉井 勝典
<選評・八馬 智>

鏡のように張りつめた湖面から、心地よい緊張感が感じ取れる幻想的な作品です。水の中から生えている立派な枝振りの樹木、左手前にある新緑、右背景にある濃い緑の樹林が、奥行き感を伴う絶妙なバランスの構図で捉えられています。やや紫がかったしっとりとした色味も手伝って、タイトルにあるような朝に特有の静寂感が、完成度が高い状態でとてもよく伝わってきます。



入選入選
入選 入選
「大移動」
岡山県・河本ダム
「早朝のダム湖」
静岡県・船明ダム
撮影者:小南 宣広 撮影者:田中 巧
<選評・八馬 智>

ダム湖の上を鳥の群れが列をなして飛ぶ姿が見事に捉えられており、鳥の躍動感と水面の静謐さのコントラストが印象的な作品です。背景には霞がかかっているにもかかわらず青空が見えることで開放感があり、紅葉した山々には奥行き感が与えられています。水平方向に位置する湖面の浮きやケーブルが、鳥の動きを強調する補助線になっているように感じました。

<選評・八馬 智>

静かに揺らぐ湖面、力強く進むボート、凛とした姿のアーチ橋、そして、靄がかかった山々が、まるで風景画のように描かれています。それらが重ねられた構図は見事で、最初に中心のボートに視線を集中させ、そこから全体を鑑賞するよう促されるものになっています。朝もやに包まれたダム湖がつくり出す静謐で幻想的な雰囲気が、とても印象的に描かれた作品です。








「工事中のダム」部門

優秀賞
優秀賞
「堤体越しに見える煌めく街」
大阪府・安威川ダム
撮影者:HAMTIY
<選評・森 日出夫>

これがダム工事を写したものであるという事を、すぐには理解できないと思います。安威川ダムは典型的な里ダムです。ダム工事は通常山奥で仕事をすることが多いのですが、こんなすばらしい夜景を見ながら仕事ができるなんて羨ましい限りです。夜空、夜景、堤体のバランスが絶妙で、堤体の灰色のリップラップが、下方の大きく広がる夜景にクッキリ浮かび上がる様は幻想的です。



入選入選
入選 入選
「段取り八分」
福島県・千五沢ダム
「コアが埋まる時」
大阪府・安威川ダム
撮影者:yfx 撮影者:HAMTIY
<選評・森 日出夫>

千五沢ダム改修工事はラビリンス型洪水吐を新設し、かんがい専用ダムに洪水調節機能を付加する工事です。それに伴い、旧洪水吐の巨大な可動式ゲート3門は、解体、撤去します。一つのゲートを6分割し、上部に配置した200tクローラクレーンで吊り上げて堤外に搬出する解体方法となります。解体に先立ち、職人が分割位置、手順を現地で打合せしている状況を撮影したもので、緊張感が写真越しでも伝わる作品です。

<選評・森 日出夫>

安威川ダムは中央遮水型のロックフィルダムで、堤体中央に粘土質のコア材を配置し遮水の役目をさせ、廻りのロック材で堤体の安定を保つ構造となっています。写真は、盛立が進捗し、堤頂部の狭いエリアでのコア盛立が行われている状況です。埋設計器の設置も同時に行われ重機や、作業員が安全を確保しながら生き生きと稼働している様が映し出され、躍動感があふれています。



入選
入選
「柱状打設」
熊本県・立野ダム
撮影者:yamasemi_K
<選評・森 日出夫>

ボコボコと段差がある、近年ではあまり見ないダム施工現場です。立野ダムは、曲線型重力式ダムという形式で、縦継目が構造上必要になります。ですから面状施工が主流のダム現場を見慣れている人には、柱上ブロック工法はかえって新鮮に映るのでしょう。 見ての通り、型枠で囲まれた部分が多く、機械化されずらい工事が多いことが容易に想像されます。一見レゴブロックで作られたかのような、整然とした現場が、逆に最盛期の忙しさを際立ててます。





「ダムに親しむ」部門

優秀賞
優秀賞
「ガブ飲み!」
大分県・大山ダム
撮影者:メガネ
<選評・中川 ちひろ>

今までありそうでなかった、合成ふうの写真です。「もうちょっと右、あ、もう少し上!」なんてやりとりが聞こえてきそうで、想像すると楽しくなりますね。

高さを合わせるために開かれた脚が、もし三角形をつくらず真っ直ぐだったなら、放流された水と繋がっているように見えてインパクトに欠けるかもしれません。偶然か意図してかわかりませんが、写真の中心にある、水の直線と脚の三角が、逆さのY字をつくり、視覚的に面白い効果を生んでいます。この一枚を撮るために、頑張って口を開け続けてくれた女の子にも賞をあげたいです。



入選入選
入選 入選
「紅葉トンネル」
長野県・美和ダム
「サッカーが見えるようになったよ」
大阪府・安威川ダム
撮影者:ハル 撮影者:HAMTIY
<選評・中川 ちひろ>

見学会の一枚です。いいですね~。余計な要素がなく潔いし、空のブルー、山のイエロー、ダムのグレーのコントラストも美しく、とても目を引く作品です。

湖が鏡面となり画面を上下に二分していますが、この写真の面白いところは、さらに縦に三分しているところです。この日常にはない、万華鏡のような絵のなかに人がいるという状況。そしてひとり空を見上げているのもまた、力強さを表現するのにひと役買っています。美しい人工と自然のコラボレーションです。

<選評・中川 ちひろ>

ダムの隣でサッカーとは、まさにダムに親しむ光景です。わざわざ見に行ったわけではなく、サッカー場の近くにたまたまダムがあるというシチュエーションが、ダムをぐっと身近に感じさせますね。その様子をいいなと思って撮影している人がいる、というのもまた素敵です。

タイミングを狙ってシャッターを切ったのだと思いますが、人、クレーン車、空、地面の配置と色のバランスがとても気持ちがいいです。地面と空の切り取り方もとてもよく考えられていますし、全体にちりばめられている「白」も差し色として力を発揮しています。見た瞬間に「お!」と引っかかる作品でした。





「テーマ」部門 『激』

優秀賞
優秀賞
「不死鳥」
愛知県・新豊根ダム
撮影者:堰斎
<選評・宮島 咲>

ダムの天端から直下を見下ろした写真です。コンジットゲートから勢いよく放流された水を撮ったものです。減勢工内で跳ね返った水しぶきが漂い、まるで不死鳥の様に見えます。今回のテーマは「激」ですが、減勢工内で暴れまわっている水流は激そのもの。じつは、この手の放流シーンは結構簡単に撮れるものなのですが、その上で、不死鳥を連想し作品に仕上げた作者さんには恐れ入りました。



入選 入選
入選 入選
「激流に魅せられて」
島根県・尾原ダム
「どうどう」
岐阜県・丸山ダム
撮影者:門脇 正晃 撮影者:佳
<選評・宮島 咲>

尾原ダムのクレスト点検放流時に撮った作品でしょう。私もこのダムのクレスト点検放流を見に行っておりますが、その時の会場の雰囲気はお祭りの様に賑やかなのです。しかし、この作品には賑やかさを一切感じません。それどころか、哀愁や寂しさまで漂ってきます。スキージャンプから放たれた水は「激」。そして、その激を、写真から感じる寂しさがよりいっそ助長しているように感じた作品でした。

<選評・宮島 咲>

大迫力の放流ですね。水の力強さを感じ取ることができます。これはまさに「激」です。多分、夕暮れに撮った写真でしょうか。それほど光量が無い中で、時間が止まった様に水を止めて撮るのは大変です。スローシャッターで水流を表現するよりも、この様に撮った方が激を感じます。この丸山ダムは近いうちに無くなってしまうため、このダムからの放流を見られる機会は残りわずかです。






特別賞

特別賞
「similarity」
富山県・境川ダム
撮影者:中村 直人
<選評・宮島 咲>

個人的に一番好きな写真です。背景はクレスト部から続く導流部で、そこを流れ落ちる水流となっています。これを望遠で切り取った様に撮るとこの様になります。水の波紋の中央部が、樹木の先端に引き裂かれるように左右に分かれており、そこに作者さんのセンスを感じました。ただ、欲をいれば、もうちょっとだけ右に歩き、完全に中央を合わせてほしかったです。









全体評


審査委員プロフィール
西山 芳一 (土木写真家)

コロナ禍も3年目に入り、世間も行動も以前とは少しずつ変わってきたように思えます。昨今、ソロキャンプが流行っているようですが、ダム写真コンテストに応募するための撮影行は主に単独行動と思われますのでコロナ禍での趣味としては似たような部類に入るのでしょう。相変わらずの応募数を誇り、僅かながらですがクオリティが上がっているのはこの時期の写真審査としては嬉しい限りです。

コロナ以前は通りすがりにダムにカメラを向け、技術的にはイマイチでもシャッターチャンスにだけは恵まれたいわゆる「一期一会」的な写真の応募が多かったのですが、最近はコロナ禍の中、せっかくダムに行くのだからと綿密に計画し、敢えてシャッターチャンスを自分で作り出したような写真が増えてきたように思えます。時間とパソコンを駆使して写真技術などを勉強し、予めアングルや画面構成、仕上がりまでをも想定した計算されつくした写真ともいえます。今回はぱっと見も技術的にも素晴らしい写真が多かった割には抜きん出た写真が見つからず、最優秀賞が選出されなかったのはそのあたりに起因するのではないでしょうか。コロナが早く収束して、せっかく習得した技術ですから「一期一会」のタイミングでも即座に使えるようなダム撮影行が出来るようになると良いですね。

八馬 智 (都市鑑賞者/景観デザイン研究者)

今年の応募作も平均点がとても高いように感じました。撮影者の想いがたっぷり込められ、さまざまなアプローチで表現が工夫された作品群に向き合う審査会の時間は、楽しくもあり、悩ましくもあり、大いに動揺するものです。

そしてやはり、審査会での票は割れました。特に最優秀賞に関する議論では、委員の意見が一致する突き抜けた作品を見出すことができなかったため、「該当なし」という判断に至りました。全体的に優れた作品が多かっただけに、忸怩たる思いがあります。その一方で、特別賞に選ばれた作品はとてもユニークな魅力を持っており、多くの委員の目を引きました。ぜひ次回も、より自由なアプローチでダムに相対し、さまざまな表現方法に挑戦し、審査会にさらに大きな刺激を与えてください。楽しみにしております。

宮島 咲 (ダムマニア&ダムライター)

今回の応募集は昨年よりも約60作品少ない、330作品ほどとなりました。作品数は少なかったものの、非常に質が高かったコンテストでもありました。特に、ダム本体部門の作品の質はとてもハイレベルなものでした。今回、最優秀賞が無かった理由はそこにあります。どれも甲乙つけがたかったため、「最高」を選べなかったのです。優れた作品が無かったということではなく、全部優れていたということです。ということで、審査員として不本意ではありますが、この様な結果とさせていただきました。申し訳ございません。

そして、私自身、ダムの写真を撮り歩いておりますが、今回のコンテストの作品を見て、この様な撮り方もあるのだと大変参考になりました。その中で、特に印象に残った作品について書かせていただきます。

ダム本体部門の優秀賞作品である『私を映す「鏡」』。この作品は、他の審査委員が指摘するまで、天地がひっくり返っているとは気づかないほど、水鏡が美しい作品でした。また、工事中のダム部門の優秀賞作品である『堤体越しに見える煌めく街』は、街の明かりに負けずに輝く、ロックフィル堤体の石の光が魅力的な作品でした。

最後に。ご応募された皆様、大変ありがとうございました。次回のご応募も、審査員一同、心よりお待ちしております。アッと驚く作品を見せて下さい!

中川 ちひろ (編集者)

毎回選評でいろいろ書かせていただいていますが、その内容はすべて後付けです。私の場合、ですが、写真を見るときは「なんかいい」「なんか気になる」「記憶に残る」しかありません。そのため、選ぶのが早い(らしい)です。 選んだあとに、気になった理由を一所懸命考えます。そして言葉にすると、選評で書いているようなことからだったのだ、とわかるのです。

これは普段仕事で本の表紙を決める作業に近いです。書店で見た瞬間、スマホで見た瞬間に手にしてもらえる(クリックしてもらえる)「顔」になっているかどうか。瞬時に「気になる存在となっているか」を判断する必要があるので、むしろ、頭で考えないことが大事になってきます。そんなことを日々やっているので、今回もまた、見た瞬間に「キラッ」と光る写真を選ばせていただきました。毎回レベルが高いと同じようなことを言っている気がしたので、ちょっと今回は選ぶときのことに触れてみました。この次も、上手な写真ではなくていいので、感性に訴える写真を期待しています!

森 日出夫 (Web広報委員会 委員長)

様々なジャンルで、多数の応募ありがとうございました。いつもながら各審査員も悩みに悩んで、選考には十分な時間をかけました。今回特に感じた事は、いつもより色使いがカラフルな作品が多かったような気がします。時世を反映して、撮影者も自然と明るい構図を求めているのでしょうか。私の廻りにもこの写真コンテストのファンがたくさんいます。みなさんの作品が世の中に元気を与えているのは言うまでもありません。これからも、すばらしい作品を送り続けて下さい。


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