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13.日南ダム(酒谷川)の建設

 酒谷川は、宮崎県南部に位置し、その源を鰐塚山地の中央部の無名峰(標高 918m)に発し、転流を繰り返しながら東南に流れ、飫肥城下を流れ、日南市を貫流して油津港の北部で日向灘に出る前に、本川広渡川に合流する流路延長26.9km、流域面積 130.1km2の二級河川である。急峻な上流部より河川は東南に下って、標高 300mに至り、河床は緩傾斜となる。河道周辺は氾濫原が発達し、その周辺部にシラス台地が広く発達していて、氾濫原が谷底平野となっている。河川は北部からの支川を集めてシラス台地を浸食し、氾濫原を広げ、東流し、飫肥城下に達するここで河川は大きく蛇行し、治水基準点本町橋付近から東南へ流れ左岸に広く氾濫原を発達させ、河川は右岸の宮崎層郡よりなるやせ尾根に沿って流下し東光寺橋を経て広渡川に河口付近で合流する。

 酒谷川は、昭和32年から中小河川改良工事改修が進められてきたが、昭和36年10月25日、26日台風24号で、日南市飫肥地区の市街地が濁流に覆われ床上浸水 300戸、床下浸水1726戸の被害を受けた。その後も毎年のように中小洪水が発生している。このような水害を防ぐために日南ダムは昭和60年、広渡川水系酒谷川宮崎県日南市名尾地先に治水ダムとして建設された。

 宮崎県編・発行『日南ダム工事誌』(昭和60年)によると、日南ダムの目的は、

・ダム地先の計画高水流量1280m3/sのうち 710m3/sを調節し、その結果基準点(飫肥本町橋)の高水流量1660m3/sを1000m3に落として、名尾地点下流域の水害を防除し、
・ダム地先下流沿川 382haの耕地に灌漑用水、既得用水の補給を行う。


『日南ダム工事誌』

 この日南ダムの諸元は堤高47m、堤頂長 189m、堤体積19.1万m3、総貯水容量 600万m3、有効貯水容量 464万m3、型式重力式コンクリートダムである。起業者は宮崎県、施工者は飛島建設(株)、志多建設(株)共同企業体、事業費は 120億円を要した。

 非常用洪水吐として正面越流式堤趾導流型洪水吐(越流水深2m、越流頂長 147.5m)、常用洪水吐として型式オリフィス洪水吐(断面寸法幅 4.3m、高さ 4.3m2条)、減勢池として、型式水平水叩き踏水式減勢池(寸法幅35m、高さ15m、長さ47.2m)を備えている。なお、主なる補償関係は土地取得面積 45.13ha、移転家51戸、漁業補償等となっている。
 この工事誌によれば、ダムサイトの地質について「日南ダムの周辺部の地質構成は、古第三紀の日南層群、新第三紀の宮崎層群及びこれを被覆する姶良火山のシラス、熔結凝灰岩二次シラス、現河床堆積物等よりなっている。日南ダムサイトでは、古第三紀の日南層群が基盤をなしている。この日南層群は砂岩、頁岩及び砂岩頁岩互層よりなるが、著しい変動を受け、地質構造は極めて乱れている」と記されている。

 さらに、ダムサイトの止水処理の最大の問題点は左岸シラス台地の透水性地盤であるとして「止水処理計画ではグラウチングによる改良と、コンクリート置換(いわゆる止水壁)による方法が考えられるが、現状での水みちとなっている旧砂礫層とシラス層について掘削、置換えの工事は非常な困難を伴うことが予想され、グラウトテストの結果、ソレタンシュグラウトによる改良を選定した」とある。また、基礎岩盤止水処理には「地下水位がダム頂標高付近まで上ってくる範囲で、グラウチングギャラリーより、リムグラウトを採用した」と。このように、日南ダムサイト地質のシラス台地に対し、この止水処理に最大限技術力を持って対応された。

 管理体制について、日南ダムは治水単独ダムであり、それも人為が関与しない自然調節方式に拠るもので、治水の正常な機能維持するための放流操作に(不特定用水の補給)も満水時のごく限られた日が対象になるので、流水管理は極めて少ないという。しかし、日南ダムは平成16年〜18年にかけて、梅雨前線や台風の襲来による集中豪雨で流水管理は例年より多く、治水の役割を果たしている。


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