これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事を一部修正して転載したものです。著者は、古賀邦雄氏(水・河川・湖沼関係文献研究会、ダムマイスター 01-014)です。
|
|
◆ 4. 川辺ダムの建設
|
川辺ダムは、万之瀬川水系万之瀬川の鹿児島県川辺郡川辺町神殿地先に多目的ダムとして建設された。万之瀬川は、鹿児島県薩摩半島の南西部に位置し、その源を権現ヶ尾(標高484.5m)に発し、野崎川、神殿川、麓川、永里川の各支川と合流し、川辺町の市街地を貫流し、さらに長谷川、大谷川の各支川と合流し、加世田市、金峰町を貫流して東シナ海に注ぐ、流域面積372km2、流路延長35.7qの二級河川である。
万之瀬川流域の降雨量は、梅雨期、台風期に多く、特に梅雨期の豪雨により災害が発生している。万之瀬川の水利用は、流域一帯の灌漑用水及び発電等に利用されている。特に中流部は広大な耕地を有し、南薩地方の穀倉地帯となっている。なお、流域の年平均降雨量は2,400o、年平均気温は17℃である。
|
|
|
|
川辺ダムの建設については、(株)大進編『川辺ダム工事誌』(鹿児島県加世田土木事務所・平成15年)が刊行されており、この書及び川辺ダムパンフレットにより、川辺ダムに関してみてみたい。
川辺ダムの建設の必要性については、次のようなことが挙げられる。
万之瀬川は、過去、台風や梅雨期の集中豪雨等により多くの被害を受けてきた。特に、昭和46年8月の台風19号では浸水家屋2,036戸、浸水農地600ha、被害総額1,759百万円、昭和51年6月の梅雨前線豪雨では河岸の決壊、氾濫被害を受け、浸水家屋365戸、浸水農地502ha、被害総額1,863百万円、また昭和58年6月梅雨前線出水では、浸水家屋2,123戸、浸水農地220ha、被害総額4,919百万円に達した。昭和45年から着手している河川改修事業と合わせて、さらに治水の安全度を高めるために、ダムによる洪水調節を図ることとなった。
|
|
『川辺ダム工事誌』 |
|
|
|
また、万之瀬川は川辺町、金峰町、加世田市の耕地等の水源として広く利用されているが、昭和53年及び昭和56年は深刻な水不足に見舞われていることから、不特定用水の補給を行い、流水の正常な機能の維持を図る必要があった。
一方、鹿児島市においては、都市化の進展とともに、水道用水、工業用水の需要が見込まれているが、既存の水源には限度あることから、新たな水源の確保のため万之瀬川導水事業が実施されている。このように、治水はもとより利水においても早急な対策が望まれていることから、多目的ダムとして川辺ダムが建設された。
|
|
|
|
◆ 5. 川辺ダムの目的と諸元
|
川辺ダムは、3つの目的を持って建設された。
(1) ダムの目的
@ 洪水調節 ダム地点の計画高水流量300m3/sのうち、100m3/sを自然調節方式により洪水調節し、万之瀬川沿川流域の水害を防除する。なお、洪水調節容量は、過去の洪水で検討した結果、洪水調節必要水量は1,495,000m3となり、これに2割の余裕をもって、治水容量は1,800,000m3とした。 A 流水の正常な機能の維持 既得用水の補給等流水の正常な機能維持と増進を図るため、広瀬橋地点において、灌漑期最大おおむね1.71m3/s、非灌漑期最大おおむね0.85m3/sとした。昭和50年〜59年までの10年間の補給計算を行い、渇水第一位(昭和53年)を計画渇水年として補給することとし、これに要する容量は186,000m3である。 B 都市用水 鹿児島市及び鹿児島県に対し、加世田市花川橋地点において都市用水として、75,000m3/日(0.87m3/s)の安定取水を可能とする。都市用水の利水容量は474,000m3である。
|
|
|
|
|
(2) ダムの諸元
ダムの諸元は、型式は重力式コンクリートダムで、堤高53.5m、堤頂長147m、堤体積10.8万m3、非越流部標高EL.165.5m、越流部標高EL.160m、基礎岩盤標高EL.112mである。貯水池は、集水面積30.2km2、湛水面積0.23km2、総貯水容量292万m3、有効貯水容量246万m3、常時満水位EL.150m、サーチャージ水位EL.160m、設計洪水位EL.163.4mとなっている。 放流設備として、常用洪水吐き 高2.7m×幅4.6m×2門(ゲートレス)、非常用洪水吐き 高3.4m×幅14.5m×1門、高3.4m×幅12.5m×4門(ゲートレス)、利水放流管φ800o 一条が設置されている。左岸止水工として、地中連続壁工 延長310m、面積15,132m2、トンネル置換工49.3mが施工されている。 川辺ダムの起業者は鹿児島県、施工者は熊谷組・竹中土木・森山(清組)で、事業費244.25億円を要した。なお、主なる補償は、土地取得56.7ha、公共補償として県道3.35q、町道3.45qの付替を施工した。
|
|
|
|
|
|
|
(3) ダムサイトの地質
左岸部に2層の火砕流堆積層があり、遮水のために地中連続壁を施工したのが川辺ダムの一つの特徴といえる。 なお、ダムサイトの地質は、基盤岩が中生代の砂岩、頁岩からなる四万十層群であり、その上位に火山噴出物である伊作火砕流堆積物や阿多火砕流堆積物が被覆している。また、河床に面した急崖下の緩斜面では崖錐堆積物が、河床部には砂礫層が分布する。ダムサイト付近の地質は、右岸及び河床部は基礎岩の四万十層からなり、比較的風化、変質の少ない砂岩が主体となっている。
|
|
|
|
・・・→
全文はこちら
|