平成25年10月12日、ダムマイスター研修会「大夕張ダム・夕張シューパロダム見学会」が行われました。夕張シューパロダムは、50年ほど前に完成した大夕張ダムを再開発するものです。北海道での見学会ということにはなりましたが、7名の参加者(ダムマイスター3名・一般2名・協会から2名)がありました。
大夕張ダム 1.シューパロ湖
見学者一行が最初に案内された場所は、付替国道のパーキングスペースです。この場所からは、2つの橋を望むことができます。
シューパロ湖 この橋は、国道から分岐して夕張岳へ向かう道路がシューパロ湖を渡るために設置されたものです。右下の白いローゼ(アーチ)橋は、現在供用されているもので、夕張シューパロダムが完成すると左上(上流側)の橋に付替えられます。新しいシューパロ湖の大きさを、あらためて実感することができました。完成後は、雨竜第一に次ぐ日本で2番目の湛水面積、総貯水量では御母衣を抜いて第4位を誇るダムとなります。 なお、湛水予定区域の森林については伐採せずそのまま水没させるということです。これは、コスト面から決定されたことであり、もちろん安全面でも十分検証された結論です。将来、水位が低いときには自然湖(長野県王滝村)のように立ち枯れた樹木が神秘的な姿を現すという観光スポットになるかもしれません。
2.大夕張ダム
夕張シューパロダムの完成によって、大夕張ダムは水没することになります。水没によって腐食する可能性のあるゲートや機器類はすべて撤去されます。また、直下の二股発電所(北海道企業局)は本年8月末で廃止されており、解体・撤去作業が進められていました。
撤去作業中の発電所 来年3月より開始される試験湛水に向けて、本来であればクレストゲートがすでに撤去されている予定でした。ところが、この夏の雨量が多かったため、水位が高く未着手の状態であるということです。この日は、クレスト1号ゲートとコンジットゲートから放流中でした。本日見学に来た部外者である私たちにとって大変嬉しいことですが、施工責任者の心中を察すると複雑なものがあるでしょう。 直下の夕張シューパロダムの堤内仮排水路と夕張川下流域への影響を考えるとこれ以上放流量を増やすことは無理なようです。
大夕張ダム監査廊入口(左岸) 大夕張ダムの監査廊は、この時代を反映して木材の型枠が使用されました。50年前の職人さんが造った監査廊は、そのままの姿で、水中で静かに眠り続けることになります。 試験湛水準備のため電気設備や配線等はすでに撤去されていました。監査廊内では、見学者のための白熱球(仮設)が私たちを迎えてくれました。しかし、この白熱球の仕事も、もうまもなく終了となります。
監査廊内部 夕張メロンも、このダムが安定した農業用水を確保してくれなかったら、今日ほど有名なものにはなかったはずです。50年間、本当にありがとうございました。
道の駅夕張メロード 3.三弦橋
三弦橋(大夕張ダム左岸付近より) 旧森林鉄道の鉄橋であった三弦橋は、そのまま水没させるということです。世界的にも珍しい型式の橋梁ですから、寂しい思いを拭い去ることはできません。しかし解体されるよりも水中で保存されていると思えば、これでよいのかもれません。
三弦橋(夕張シューパロダム右岸付近より) 三弦橋は、昭和33年から6年間、森林鉄道の鉄橋として使用されました。昭和38年にトラック輸送に切り替えられ、鉄橋としての役割を終えたということです。その後は、特に補修などは行われず半世紀にわたって風雪に晒されてきたはずです。
近くから見ると、昔の塗装の一部が残っており、枕木も一部残っていました。このような至近距離から三弦橋を見学することができ、とても感激しました。
平成24年10月12日の三弦橋 大夕張ダム左岸にあったトンネルは、その三弦橋から続く森林鉄道のものでした。このトンネルは、すでに内部で閉塞されており水が貫流しないようになっています。水がトンネル内をスルーしてもあまり影響はないように思いましたが、新堤体に近い所に位置しているため、このような処置が施されたのだと思います。
旧森林鉄道の廃トンネル 4.大夕張ダムから夕張シューパロダムへ
大夕張ダム(AP)は、国の直轄としては珍しく洪水調節機能を持たない利水専用ダムでした。新しく建設された夕張シューパロダム(FNAPW)は、北海道の最大都市である札幌市等を洪水から守る役割をも担うことになります。
ダムカード 私には札幌で大洪水が起きたという記憶はありません。(調べて見ると、過去に豪雨災害は数多くあります。)一方で、土砂災害が絶対に起きないと断言できる場所は、地球上には存在しないと思います。 記憶にも新しい台風18号が京都に甚大な被害をもたらした際、ご高齢の方が、「こんな経験は初めてだ」と話をされていました。この台風では天ヶ瀬ダムが竣工以来、初めてクレストゲートからの放流を行わざるを得なかったほどの流入量があったのです。 大野ダム・日吉ダム・天ヶ瀬ダムという京都を代表するダム群が、満杯で緊迫している様子をテレビが生中継していました。ハイドログラフの意味が解らないとしも、もしダムが無かったらあの膨大な洪水が由良川・淀川流域を直撃していたはずだということを日本国民は知っておくべきです。報道に接して、大戸川ダムがあったなら天ヶ瀬ダムの負担がどれほど軽減できたか…、そう感じたのは私一人だけではなかったはずです。
建設が進められる夕張シューパロダム いつ起こるとも知れない天災に備えて、一刻も早いダムの完成に期待したいと思います。
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[関連ダム] 大夕張ダム(元)
夕張シューパロダム(再)
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(2013.10.21、安部塁)
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