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19.横川ダム(荒川水系横川)の建設

 荒川は「あらがわ」、「あらかわ」と呼ばれ、荒れる川、暴れる川の意味であり、栃木県、埼玉県、山梨県など全国に荒川という名の川は30余り流れている。

 山形県、新潟県内を流れる荒川は、朝日山地の大朝日岳(標高1870m)に源を発し、南西に流下し、五味沢付近で石滝川を合わせ長沢付近から小国盆地の西側の平野を南下して赤芝付近において横川と合流し、新潟県に入り大石ダム(昭和53年完成)のある大石川、さらに鍬江沢川、女川を合流し、関川村、神林村、荒川町を貫流し日本海へ注ぐ流路延長73km、流域面積1150km2の一級河川である。

 荒川に合流する横川は、飯豊山系の地蔵岳(標高1539m)に源を発し、北流し、西滝、叶水、市野々を経て箱ノ口において明沢川を合わせて西流し、赤芝において荒川に合流する流路延長47km、流域面積289km2の河川である。荒川流域は名のとおり暴れ川で、古くから豪雨のたびに大洪水が発生し、人々の暮らしと財産を脅かし続けてきた。

 昭和42年8月28日、数日前から本州に停滞していた前線の活動がピークに達し、山形県置賜地方、新潟県下越地方に記録的な豪雨をもたらし、8月26日〜30日にかけて総雨量は多いところで700mmを越えた。この豪雨により、荒川流域沿いの山形県小国町、新潟県関川村、神林村、荒川町に対し、多大な被害を及ぼした。この水害を羽越水害という。荒川流域の被害は、死者行方不明者90名、浸水面積5875ha、全壊・流失家屋1056戸、半壊・床上浸水8081戸、床下浸水1958戸、被害額225億円に達した。

 この羽越水害を契機として、横川ダムは荒川上流域の山形県西置賜郡小国町大字綱木箱口に平成20年3月に完成の予定で建設が進んでいる。 横川ダムに関する書として、横川ダム工事事務所監修『ふるさとへの想ひ市野々・下叶水』(北陸建設弘済会坂町支所・平成13年)が発行された。


『ふるさとへの想ひ市野々・下叶水』
 横川ダムの建設過程を追ってみる

昭和42年 8月 羽越大水害発生
     10月 羽越工事事務所発足、災害復旧に着手
  43年 4月 荒川が一級河川に指定、国の直轄事業を開始
  44年 3月 荒川が水系工事実施基本計画の決定
  47年 5月 大石ダム(大石川)建設に着手
  53年 8月 大石ダム竣工
  56年 4月 横川ダムの予備調査に着手
  62年 5月 横川ダムの実施計画調査に着手
平成 2年 6月 横川ダム工事事務所発足
   3年 2月 水源地域対策特別措置法に基づくダム指定
     12月 横川ダム建設事業に伴う損失補償に関する協定調印
   4年 6月 付替道路工事に着手
  13年 2月 転流工仮排水トンネル工事)に着手
  15年 3月 本体工事に着手
  17年 5月 定礎式
  18年 6月 コンクリート打設完了
  20年 3月 横川ダムの完成の予定

 続いて、横川ダムの目的、諸元、特徴を見てみたい。

 ダムは4つの目的を持って造らている。

洪水調節は、ダム地点流入量880m3/Sのうち570m3/Sをダムに貯めこみ、洪水時の流量の低減を図ることで、水位の上昇を抑え家屋を浸水、流水から守る。洪水調節方法は、自然調節方式で6月16日〜9月30日ではダムの真ん中にあるオリフィスゲートを開けたままにして洪水を調節する。このとき上部のクレスゲートは閉じておき、ダム湖へ流入する水がだんだん増え、孔から流れ出る量より多くなると水はダムに溜まる。このように横川ダムは沢山の水がダムに流入しても出口となるゲートで洪水調節を行い、一度に大量の水を流さないようにする。逆に非洪水期(10月1日〜6月15日)は、オリフィスゲートを閉じ、クレスゲートを開ける。洪水調節の仕組みは同じですが、平常時の水位が高いので夏場に比べれば洪水を治める容量は小さくなる。

◇横川ダムは、小国町の発展を支え産業の中心をなす工場や事業所に対し、7000m3/日の工業用水を供給する。これらの工場や事業所では最先端技術を駆使した水素吸蔵合金、半導体製品が生産されている。

◇横川ダムにより渇水期には、安定した量を流すことで、飲料水や農業用水、工業用水等地域で使われる水を確保する。また、川が本来持っている美しい景色や綺麗な水を保ち、川に暮らす動植物を守る。

◇新設される水力発電所において、最大出力6300kwの発電を行う。年間の発電利用は約2590万kwhで、これは一般家庭7000戸で使われる電気量に相当する。

 ダムの諸元は、堤高72.5m、堤頂長280m、堤体積25万m3、総貯水容量2460万m3、有効貯水容量1910万m3、型式重力式コンクリートダムである。起業者は国土交通省、施工者は飛島建設、戸田建設、福田組共同企業体、事業費は850億円を要する。なお、補償関係は水没戸数38戸、土地取得面積170haとなっている。

 横川ダムの特徴については、次のようなコスト縮減を図っている。

◇施工方法はケーブルクレン、拡張レヤー工法を採用

◇直轄ダムで初となる購入骨材を採用

◇発注では入札時VE(総合評価落札方式)を実施

仕上げ掘削厚の変更・標準歩掛の修正、掘削厚50┰を30┰に変更

◇残存型枠の施工(上流左右岸フーチング、下流左岸フーチング、左右岸導流壁下流面)により、足場の不安を解消、施工性、安全性の向上を図る。

◇非洪水期常用洪水吐クレストゲート)に、新ゲート型式の「リングゲート装置付回転式スライドゲート」を採用

◇ダム監査廊はブレキャスト施工を採用

 このように横川ダムの施工技術をみてみると、まさにダム造りは用強美の備わった、合理化と効率化によるコスト縮減が最優先される時代となってきた。

 昭和42年8月羽越水害が発生した。「その悲劇を二度と繰り返してはならない」と。このことを合言葉として横川ダムは、水害の惨状から40年の歳月を経て、いまここに完成する。ダムによって水没された38世帯の方々の協力を決して忘れてはならない。

 平成19年5月綱木川ダムは、最上川水系綱木川の山形県米沢市簗沢字糸畔地点に竣工した。

  謝辞の意の「おしょうしな湖」と名が決まる我が田潤す綱木川ダム(高橋まさじ)

 この歌に詠まれるように、山形県の全てのダムは、県民から感謝、愛される「おしょうしなダム」であって欲しいものだ。


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