◇ １. 美しいダムづくり
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沢田敏男著「美しいダムと水環境づくり」（国際高等研究所・平成11年）には、これまで取り組まれたダム工学上の修景問題、水利施設と不可分の関係にある水環境づくりについてコンパクトに論じてある。
沢田氏は、21世紀はサイエンス アンド アートの時代だという。それは科学技術的な理性と芸術的な感性との融合による新しい文化の創造であるとして、「ダムや水路のような水利構造物の計画、設計に携わる科学者としても貯水、取水、導水、分水路等といった水利施設として本来具備すべき機能のほかに景観上からも人々に心地よい感動を与えることのできるような構造物、つまり理性と感性を融合させたような文化的工作物を創造するよう心がけることが大切である」と主張する。
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「美しいダムと水環境づくり」 |
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そして、その美しい貯水ダム造りについて考慮すべき項目を次のように挙げる。
(1) 計画、設計の理念
計画 技術的機能性＋経済性＋環境保全性
設計 合理性＋芸術的アプローチ（動物行動学的アプローチを含む）
(2) 計画・設計の具現化
計画 水利構造物の地域環境に及ぼす影響
設計 ①構造物自体の美的デザイン
形状、寸法と安定感、色彩の調和、彫刻、照明
②付帯施設の修景
周回道路、橋、小公園
③水環境づくり
親水施設（噴水、プール、釣り場）、水質保全施設、ダム湖周辺の森林公園、
湖岸法面の緑化、野鳥飛来池、バードウォッチングの施設等
④維持管理
管理施設、ダム資料館（小博物館）の設置
沢田氏の印象に残っている美しいダムとして、ローズランダム（フランス・1961年完成）、永源寺ダム、呑吐ダム、浪岡ダム、刀利ダム、大迫アーチダム、深山ダム、笹ケ峰ダム、日中ダム、江川ダム、日出生ダム、清願寺ダム、底原ダム等を挙げている。
次の３つのダムから景観美を追ってみたい。
ローズランダムはサボア州のアルプス寄りに造られた堤高150m、堤頂長806m、堤体積94万m3、総貯水容量18 700万m3、型式はアーチとバットレスタイプの複合ダムである。谷の中央部に高さ150mのアーチ部を設計、その両側にバットレスタイプの堤体を配置した美しい景観のダムであるという。さらに、地下発電所のホールには素晴らしい壁画が飾られていた。ダムや発電所の公共事業においても、その事業費の一部を施設の修景や環境整備に投資する施策が行われていることを見聞し、感銘を受け、その後のダム景観設計に関心を持つようになった、とある。
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永源寺ダムは堤高73m、堤頂長392m、堤体積：コンクリート部38万m3・フィル部３万m3・総貯水容量2 300万m3、1972年完成、近畿農政局愛知川農業水利事業の水源施設として滋賀県永源寺町に建設された複合ダムである。このダムサイトは右岸部にリバーテラス（河岸段丘）が発達しているため、ここにコンクリートダムを建設すると膨大なコンクリートが必要となる。そこでダムの安全性、経済性、景観面等を総合的に考えて、リバーテラスにコンクリートカットオフを挿入することにし、これとコンクリートダムをフィルダムでつなぐという景観上も優れ、かつ安定感のある複合ダムの形態を採用した。この接合部の構造、接合面の形状について技術的、理論的に研究され、難題の克服がなされている。ダムの景観からはダム左岸のウィング部形状の工夫や両岸に小公園の整備、周回道路等の形式、色彩の選定、削られた山腹の緑化や山腹工が入念に行われた。名刹永源寺に近接し、この一帯が紅葉名所であることから水環境にも格別の配慮がなされ、ダムが完成した。
呑吐ダムは堤高71.5m、堤頂長260m、堤体積37万m3、総貯水容量1 860万m3、型式は重力式コンクリートダムで、近畿農政局東播用水農業水利事業の水源施設として、兵庫県三木市志染町に平成元年に建設された。
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このダムの特徴は、
①断層破砕帯の処理に基礎工を行ったこと
②景観設計や水環境づくりに取り組んだこと
である。
ダム湖の景観については、
①ダム湖の周回道路に沿って散策道、小公園を設置
②優れた景観を持つ橋の設計
③重要文化財である千年家（箱本家）の地上げ整備
④東播用水の通水によって押部地区に造成された葡萄畑、梨園に隣接して神戸市がワイン工場や農業公園を開設
⑤西神ニュータウンに建設された噴水
といったことが実施されている。
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以上、これらの水環境の施設は憩いの場を提供し、広く市民に親しまれている。また呑吐ダムの水は平成７年１月に起こった兵庫県南部地震に際し、被災地に緊急に供給され、多くの市民から「命の水」として感謝された。このように災害時における危機管理上からも評価された。なお、呑吐ダムに関する詳細な設計、施工については、東播用水農業水利事業所編・発行「呑吐ダム技術誌」（平成元年）がある。
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