これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事を一部修正して転載したものです。著者は、古賀邦雄氏(水・河川・湖沼関係文献研究会、ダムマイスター 01-014)です。
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◆ 6. 大和ダムの建設
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大和ダムは、九州南方海上にある面積712.39km2を有する奄美大島内にあり、そのダムの位置は大和川水系三田川の鹿児島県大島郡大和村字思勝地内である。生活貯水池としての大和ダムは多目的ダムとして、河川管理者である鹿児島県と簡易水道事業者である大和村との共同事業により、平成2年建設事業が採択され、平成19年6月に完成した。このダムの建設については、八千代エンジニヤリング(株)編『大和ダム工事誌(CD版も含む)』(鹿児島県大島支庁建設部建設課・平成20年、写真645)が発行されている。この書と大和ダムパンフレットにより、ダム建設について、追ってみたい。
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大和川は、鹿児島県大島郡大和村に位置し、その源を奄美市住用町境の標高410.2mの山に発し、山間部を北流し、途中三田川、思勝川を合流しながら流下し、思勝湾(東シナ海)に注ぐ流域面積10.2km2、流路延長5.9qの二級河川である。大和川流域は、亜熱帯性の気候を示し、降雨量は年間を通じて多いが、梅雨期、台風期に特に多く、台風期の豪雨によって災害が発生している。
大和ダムは、洪水調節、河川環境、水道用水の確保のために築造された。起業者は鹿児島県、施工者は前田建設工業・丸福建設・町田建設特定建設工事共同企業体、事業費71億円、施工期間平成2年〜19年の17年間を要した。
なお、主なる補償関係は土地取得13.6ha、補償工事は村道付替435m、橋梁9.1mである。
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◆ 7. 大和ダムの目的と諸元
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大和ダムは3つの目的を持って建設された。
(1) 大和ダムの目的
@ 洪水調節 ダム地点の計画高水流量54m3/sのうち、42m3/sの洪水調節を行い、三田川及び大和下流域の水害を防除する。 A 流水の正常な機能の維持 ダム地点下流の三田川の既得用水の補給を行う等、流水の正常な機能の維持と増進を図る。 B 水道用水 大和村に対し、ダム地点において水道用水として新たに750m3/日(0.0087m3/s)の取水を可能ならしめる。 大和村では、大金来地区、大棚地区、大和地区、湯湾釜地区、国直地区の簡易水道を統合して、地区住民の生活環境整備と保健衛生の向上を図るために簡易水道事業を進め、この簡易水道の水源を大和ダムに確保をはかったものである。
(2) 大和ダムの諸元
ダムの諸元は、型式 重力式コンクリートダムで、堤高45.0m、堤頂長90.0m、堤頂標高EL.50.0m、堤体積49,000m3である。
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貯水池については、集水面積2.08km2、湛水面積0.067km2、総貯水容量784,000m3、有効貯水容量721,000m3、洪水調節容量517,000m3、不特定用水111,000m3、新規水道容量93,000m3、堆砂容量63,000m3、設計洪水位EL.48.5m、サーチャージ水位EL.47.0m、常時満水位EL.37.1m、最低水位EL.30.6mとなっている。
放流設備として、常用洪水吐き オリフィスによる自然調節方式 高1.1m×幅1.10m 1門、非常用洪水吐き 台形型越流頂 自由越流式 高1.5m×幅15.0m 2門が設置されている。なお、計画高水流量54m3/s、ダム設計洪水流量115m3/sとなっている。
また、利水放流管(多孔式)として、取水管φ300o 3門、取水管φ400o 1門(水位低下用)、放流管φ600o 1条が設置されている。
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◆ 8. 大和ダムの自然環境保全対策
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大和ダムは、自然環境検討会を設置して、環境に配慮したダム造りを行った。
@ 改変面積の縮小 大和ダムでは、現地に生息する動植物への影響を軽減するために、風化した岩盤をコンクリートで置き換えるアバットメント造成工法を採用することにより、掘削する斜面の改変面積を縮小した。 A ダム湖管理用周回道路 大和ダム上流の周回道路は、周辺に生息する動植物への影響を軽減するために、計画地内から発生する木材を利用した1m程度の道路を設置して、改変面積を小さくした。 B 自然林への復元 ダム湖左岸側に隣接する耕作地(果樹園)は、伐採区域の在来の植物を移植し、自然林に復元した。 C 小動物への配慮 小動物が側溝に落ちても、這いだせるよう、側溝に工夫を行った。 D 樹木伐採計画 工事を始める際の樹木の伐採は、計画地内に生息するアカヒゲ等の繁殖時期(2月〜8月)、アマミノクロウサギの繁殖期(晩秋から初冬)をさけて、9月〜10月に行った。また、伐採は、計画地内の動物が山側に逃げられるよう、入口や沢から徐々に進めた。 E 残存植生の保護 計画地周辺の樹木を保護するため、本格伐採の前に、保護する樹木と計画地内との間を一定間隔で先行伐採し、乾燥害や風害を防ぐためのマント群落(低木やつる植物からなる植生帯)を形成した。 F 保護上重要な植物の移植 現地調査で確認された保護上貴重な植物シマオオタニワタリ、ヤエヤマネコノチチ、シマサルスベリについては、移植の時期に掘り上げや剪定を行い、適地へ移植した。 G 赤土等流出防止対策 奄美大島には、粘板岩等を母材とした赤土等が広く分布していることから、公共工事も赤土等流出防止対策に取り組んだ。 H 騒音・漏光対策 ダム建設工事現場から発生する騒音及び漏光については、遮音壁及び漏光シートを設置することにより、周辺に生息する動植物への影響を軽減した。 I 伐採樹木等の有効活用・在来植生の回復 伐採樹木は、木材へ再利用したり、チップにして、法面保護材として、有効活用した。また、法面保護工の材料は、無種子とし、伐採樹木のチップと現地の表土などを練り混ぜ使用することで、在来植生を復元した。
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