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綾北ダムは、第八景で紹介した鳴子ダムに遅れること約3年、昭和35年度に完成したアーチダムである。当初は鳴子ダムと同様に、仮排水トンネルを利用したトンネル式洪水吐きと越流頂を組み合わせた洪水吐きが計画されていた。しかし、アーチダムの堤体に放流管を設置するため構造上の検討や、高圧ゲートの製作の可能性の検討を経て、越流頂と放流管を組み合わせた洪水吐きへと変更された。高圧ラジアルゲートの採用は、第参景で紹介した二瀬ダムとほぼ同時期に検討されている。設計水頭が二瀬ダムの約69mに対して綾北ダムでは約30mであり、本邦初の摺動式が採用された。高圧ラジアルゲートの下流には、水脈を拡散させて減勢効果を高めつつ、堤体から離れた位置に着水させるためのシュート台が採用されている。シュート台の形状検討を含めて、土木研究所で水理模型実験が行われた。
次に建設されたアーチダムである室牧ダムでは、荷重を分散させる高圧ローラゲートが採用され、綾北ダムは高圧ラジアルゲートを有する唯一のアーチダムとなった。また、アーチダムの減勢工の設計に関する水理模型実験が積み重ねられ、シュート台を省略した設計が行われるようになった。そのため、綾北ダムは、高圧ラジアルゲートとシュート台を有する一風変わった他に例を見ないアーチダムとなったのである。
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