宮崎の位置未確認ダムを消滅させたのに味を占めて、他のダムも位置を確定してやろうとダム便覧の「位置未確認ダム」で近場の位置未確認ダムはないか探した。私は埼玉在住なので、関東近辺のダムだと日帰りで探索できる。 まず群馬に「増田川ダム」というのがある。調べてみると、まだ建設前。次に千葉県。大多喜ダムというのが掲載されている。が,調べてみると「事業中止」のようだ。静岡県の布沢川ダムもまだ本体建設には取りかかってないようだ。 あとは山梨県の「小篠溜池(こしのためいけ)」。住所で探すと、おそらくこれだろうと思われるダムが地図上に見つかった。交通の便も自宅から関越−圏央道−中央道と行けば1時間ほどで行けそうだ。 ということで、次のターゲットを小篠溜池に絞る。しかし一箇所では面白くないので、ついでに近くにある「大野ダム」も見学することにした。
土曜日の朝8時過ぎ。20年も乗っている愛車セラに乗り込み、まずは大野ダムを目指す。高速料金が安くなったとは言え、都市近郊では御利益はあまりない。それでも通常料金2,750円よりは若干安く、所沢インターから上野原インターまでは片道1650円であった。上野原インターを降りて20号を走る。実家のクラウンとは違い、ナビが付いているので割と楽である。すんなりと大野ダムに到着した。 ダム左岸天端附近は小さな公園のようになっており、四阿(あずまや)では初老のおじさんが3,4人で世間話に興じていた。堤体の方を見ると若い男が二人、ぶらぶらと散歩している。ダムの左岸付近には建物も建ち並び、湖とその近くの住宅地という感じであった。ダム湖やなだらかな堤体にはカルガモが数多くたむろしている。何とものどかな土曜の朝の風景である。 一応看板や周囲の風景、ダム湖と堤体をカメラに納めた後、堤体を渡り右岸の小高い丘に登る。桜の木もちらほらと立っていた。おそらく春先にはお花見の人出で賑わうのだろう。
さて次は、本命の小篠溜池である。一旦20号に戻り大月方面へと向かう。と、ここでちょっとしたアクシデント。ナビが曲がれと指示した道があまりに細くて見逃してしまった。仕方なくそのまま進むと、すぐに広い道が見えたので迷わずこの道へ入る。結果として、この道が正解であった。地図というものは結構間違いがある。地図上でダムを探していても、けっこう誤字があったりする。地図を見るときは、等高線などの地形を見つつ、地形や建物は変化するということを念頭に置かないと、しっぺ返しを食らうことにもなりかねない。 ナビを半分信じ、半分疑いながら,あとは「カン」と「経験」でダムの近くまで近づいた。が、行き着いた先には鉄の扉が道をふさいでいた。「立入禁止か?」と一瞬がっかりしたがとにかく門扉のすぐ前まで行ってみた。すると、枝折り戸ではないが、小さな逆三角形の鉄格子のドアが付いていて、ここから中に入れるらしい。注意書きからするとこれは登山者用の扉らしかった。
車を邪魔にならないように小さなお稲荷さん前に駐め、カメラを提げて門扉へと向かう。簡易の閂を開けて登山道っぽい道を歩くこと1〜2分。眼前にアースフィルらしき堤体が現れた。堤体下流面にはツツジか何かで文字が書いてある。「お」「し」「の」と読めた。「おしの?」……「小」は「こ」ではなく「お」と読むのか!?山梨でおしのといえば「忍野」のほうが思い浮かぶが、ここも「小篠」と書いて「おしの」と読むらしい。しかし「ダム便覧」には確かに「こしのためいけ」とフリガナが振ってあった。名前の読み自体が違っていたのか?これはちょっとした発見であった。
堤体下部に沿って続く道は,小川を渡ると直角に向きを変え、右岸沿いに上り坂になる。 曲がり角のところには「熊出没注意」の看板が。ひょっとすると入り口の鉄格子は「熊よけ」なのだろうか。
右岸沿いの上り坂脇にかわいらしい洪水吐が現れた。この洪水吐は水路につながり貯水池沿いにさらに延々と上流に続いている。つまりこの部分では水路と洪水吐が共用されているちょっと珍しい構造になっているのだ。
ダム堤体の上流面を見ると、一瞬銀色に輝いて見えた。あとでわかったが、上流面はどうやら遮水と表面保護のためにゴムシートを堤体上流全面に張ってあるようだ。そのゴムシートの上に、水位の変動した痕跡が縞模様となっている。 堤体を渡ろうとすると、「車輌通行禁止」の立て札がある。しかしこの道では通るにしてもせいぜい自転車がオフロードバイクくらいだろう。進入禁止の立て札があるくらいだから、誰かがそういった「車輌」で乗り入れて悪さをしたか、事故でも起こしたのかも知れない。 堤体を渡ると、石碑が建っていた。溜池をつくった「小俣孔元氏」を顕彰するもののようだ。石碑の脇の球体が何を意味するのか、その謎はまだ解明していないが、多分何らかの意味があるのだろう。
石版の文字や、湖面を写し、小篠溜池をあとにしたが、帰りの車で足やおしりにチクリとした痛みを感じた。翌日になると、これが1センチくらいの大きさで赤く腫れ上がってきた。どうやらダニに刺されたらしい。とんでもないお土産をもらってきたものだ。ダム探偵は、大なり小なり危険と隣り合わせなのかも知れない。
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