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位置未確認ダムを探して…牛の池田ダムほか

安 部  塁
1. はじめに

 最後の清流と言われている四万十川が流れる高知県西南部には、4つの位置未確認ダムがありました。ダム便覧2010の記載によると位置情報は、

■牛の池田ダム 北緯32度49分50秒,東経132度41分13秒 【位置未確認】
■姫ノ井池 北緯32度48分46秒,東経132度44分29秒 【位置未確認】
■池の谷池 北緯32度50分16秒,東経132度42分58秒 【位置未確認】
■春遠ダム 位置情報なし

となっていました。

 四万十川が、最後の清流とされる所以は、本流に本格的なダムが建設されていないためであるとされています。それにしても、なぜダムが建設されていないことが「清流」である条件なのか。ダムがあるというだけで、水がきれいでも「清流」と称することが許されないのか。これは永遠の謎です。
 「清流」の根拠は河川構造物の有無ではなく、その基準は一様にその河川の水質に求められるべきです。
 ところで「牛の池田ダム」などがある高知県西南部の大月町は、やはり中央からは隔絶した感を否めません。
 高知県大月町役場付近から最も近い鉄道の駅は、車で30分ほどの所にある土佐くろしお鉄道宿毛駅です。ちなみに、この駅から東京へ向かう場合、

 宿毛(発)5:55=特急南風6号=岡山(着)10:33
 岡山(発)10:49=のぞみ18号=東京(着)14:13

という行程になります。
 航空機利用であっても、この町から高知龍馬空港へ行くためには自動車利用で3時間程度を要するはずです。東京(羽田・成田)からは、東アジア主要都市に、3時間前後で行くことができる昨今です。国内で未整備のインフラに相当の税金を投入することに、納税者として異論はないと思います。
 この地域に位置未確認ダムが密集しているのは、この地域を訪れることが交通上不便であるということも少なからず影響しているようです。
 なお、春遠ダムは、本体未着工(平成22年現在)であるために位置未確認(未確定)とされているようです。一方で、牛の池田ダムほか2基のアースダムについては所在位置である可能性が高い位置情報が便覧に記載されていました。ついては現地で実際に堤体を確認し真相を明確にしたいと思い当地を訪れることにしました。

2. 牛の池田ダム

 上述の通り、牛の池田ダムについては、推測される位置がダム便覧に掲載されているため比較的簡単に行けるはずでした。しかし、便覧上の位置情報付近に到着してみると、意外にも地図に記載されていない私道のような道路が何本も枝分かれしていました。それぞれ簡易舗装されており、牛の池田ダムへのルートが確定できません。ナビもこのエリアはフォローしていませんでした。右往左往していたところ、幸い前方から軽トラックがやって来ました。この車とすれ違うときに、牛の池田ダムへ行く分岐点を教えてもらうことができました。この方の話によれば、牛の池田ダムは、地元では「長沢ダム」とも呼ばれているそうです。「長沢」はこのダムの所在地区名であるということです。



 堤体付近で確認した限りダム名を示す標識・石碑等は見当たりませんでした。便覧では、堤高20mとされています。目測でも十分20m程度の堤高があると判断できました。なお、牛の池田ダムは、竣工が昭和40年(1965年)とされています。しかし余水吐や堤体の現況から得られる印象では、近年に大規模な改修工事が加えられているものと見受けられます。


 物的資料は乏しいものの、この堤体の規模(堤高・堤長)は、ほぼダム便覧掲載の諸元と一致すると思われます。また、現地の方の間で、「牛の池田ダム(長沢ダム)」として知られていること等から、この堤体が目的地であると断定してよいと考えられます。


 実のところ私自身、現地では「牛の池田ダム」は『ダム』というよりも農業用の『溜池』として認識されているのではないかという先入観もあって、

□すみません、この先に「牛の池田」という溜池があると思うのですが…?

と尋ねたところ、地元の方から、

■「牛の池田」は溜池ではない。あれはダムだ。

という一喝を受けました。現地では、農業用のダムとして地元民から誇りをもって大切に利用されているようです。

3. 姫ノ井池

 手持ちの地図では詳細が不明であったったため、地元の方に確認したところ「姫ノ井池」へのアクセスは最近になって改善されたことが解かりました。地元の方から聞いた国道321号線から左折する道を進みます。新しく開通した道路を車のナビは、飛行しているように表示しています。道路の行先は「春遠」という地区となります。この道路は、春遠ダム工事のために整備されたようです。そう遠くない将来、この道路を通って多くの建設資材が運ばれることになります。
 姫ノ井池は、ほぼ便覧記載の位置に存在していました。右岸に新設された道路から遠望しても20m程度の堤高は確保しているようです。
 堤頂に到着します。


 アースダム堤頂には石碑がいくつかありました。残念ながらこれら石碑には「姫ノ井池」の名称は確認できません。しかし、碑文中に「月灘土地改良区」という文字が確認できます。便覧によれば、姫ノ井池のダム事業者が「月灘土地改良区」となっておりますので矛盾はありません。昭和40年代に建てられた碑文の一部は漢字カナ混じりの文章です。文体はとても昭和40年代のものと思われないほど古いものです。碑文によれば昭和36年(1961年)に、堤体が竣工した内容が記載されています。ダム便覧では、姫ノ井池の竣工年が昭和35年(1960年)となっていますので、わずかな差があります。一般的に堤体完成から試験湛水を完了するまで約1年間を要します。この1年はそれほど問題になる大きな誤差ではありません。



 地元の方の話や、石碑の内容から総合的に判断してこの場所が「姫ノ井池」であると結論することに問題はないと思います。


4. 池の谷池

 「池の谷池」とされる位置情報の場所に到着します。堤体を遠望すると、高さが15mには少し足りない感じがしました。



 現地で確認できる余水吐の構造から、近年本格的な改修が行われたとものと思えます。堤頂には石柱があって、その側面には「本田地区白池整備竣工記念碑」という文字が刻まれていました。便覧では、ダム事業者が「広瀬地区」となっております。一方でまた、堤長部(アース本体部)も便覧記載の50mには、かなり不足しているようです。


 これらのことから、現段階ではこの場所を「池の谷池」と断定するには至らないと思います。当日は、近くの小学校で運動会が行われていたためか、田畑にも農家の方の姿を見かけません。「池の谷池」の位置確定については、もう少し時間がかかりそうです。

5. おわりに

 高知県西南部では、中筋川ダムが国の直轄として活躍しています。中筋川ダムは、四万十川支流の中筋川に建設されたダムです。ところが、ダム便覧やダムカードの記載は「渡川水系中筋川」となっています。「渡川」とは「四万十川」の旧名です。平成6年にこの河川名が「四万十川」と改称される以前は、「渡川」が正式名称でした。
 しかし、水系名で表記する場合には、「一級河川“四万十川”水系○○川」ではなく「一級河川“渡川”水系○○川」という表記が現在でも一部慣例的に行われているようです。このため中筋川ダムの「渡川水系中筋川」という表記は誤記ではありません。


夜間ライトアップされている中筋川ダム
 ダムが貯水することで水が腐敗するなどと言われます。水は水素と酸素が結合しただけの無機物です。それゆえ大量の水が長期間にわたり蓄積されたとしても、水が腐敗することは化学的にありえないことです。水が腐敗する原因は、人類を初めとする生命体が、水中に様々な有機物を混入させるからです。清流と言えるか否かは流域に住む人々が川を大切にするかどうかという基本姿勢によるものです。ほとんど全てのダム愛好家の方は、もちろん、きれいな水と流域住民との共存を望んでいるはずです。

 小里川ダム(岐阜県)で配布されているダムカード裏面「こだわり技術」には、次のような記載があります。
清水バイパス:ダム湖内にバイパス管を設置し、ダム湖内の水が濁っている時に上流のきれいな水を流します。』
 小里川ダムでは、ダム湖を迂回して上流の清水を下流に導水する技術が実現しています。建設中の大山ダム(大分県)においても上流で取水した清水をバイパス管経由で下流に直接放流できる設備が準備されているということを伺いました。

 四万十川が清流の一つであることは、紛れもない事実です。国民一人一人が身近な河川を大切に扱い、四万十川に負けない清流を目指して行くことが大切であると思います。

[関連ダム]  牛の池田ダム  姫ノ井池  池の谷池  春遠ダム  中筋川ダム
(平成22年12月作成)
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 (安部 塁)
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