最近ダム好きが元気だ。写真集や本を出版し、展覧会を開催し、トークショーに出演する。そしてダム好き人口も増加。ダムガールも珍しくない。裾野も広がり、旅行社がダム巡りツアーを開催するまでになった。ダムが好きなどと言うと白い目で見られた10年前とは様変わりだ。実際にダム巡りをして、ダムを間近に見る人も増えている。
個別ダムについて情報提供
ダム巡りに欠かせないのが個別ダムの情報だ。協会のホームページ中にある「ダム便覧」では、ダム情報を広く提供しているが、その一環として、個別ダムの諸元などの情報を公開している。ネット上で手軽にダム情報が得られ、大変便利だ。諸元等のデータは、「ダム年鑑」と同じデータを使用しており、従って、原則的に「ダム年鑑」と整合性がとれている。
全国のダム数について、ダム便覧に集計表が掲載されている。ダム便覧には(ダム年鑑も同様だが)、ダムのほか大規模な堰なども含まれており、それらを含めて全国で2801あり、そのうち竣工時期が江戸以前のものが312あるので、明治以降に竣工したものは、2489。この2489のダム等について、個別に紹介ページ(「全項目表」と呼んでいる、例えば宮ヶ瀬ダム)を設けて諸元等の情報を掲載している。ダムに限ってみれば、「全項目表」があるダムは2460ある。
位置未確認ダムとは
大きなダムならどこにあるかはよく知られている。しかし、溜池のような小さなものについては、ダム便覧に諸元等が載っていて、河川名や住所がわかっていたとしても、その位置が地図上で確認できないこともある。データではダムがあることになっているが、実のところ所在がわからない、そんなダムがかなり存在する。ダム便覧では、地図上で位置が確認されたダムを「位置確認済ダム」と呼び、位置が確認できていないダムを「位置未確認ダム」と呼んでいる。 表にあるように、2460ダムのうち、位置確認済が2277、位置未確認が183(うち既設が132、新設が51)となっている。「新設」というのは、未完成のダムであって、その中にはまだ計画が固まっていないものもかなり含まれるので、位置が確認できないのもやむを得ないが、既設に限っても未確認が132ダムもある。都道府県別に見れば、北日本はほとんどが位置確認済で、西日本などに未確認が多い。これは、西日本に溜池が多く、溜池の位置が見つかりにくいことによっている。ちなみに、現在位置未確認となっている既設のダムは、そのほとんどが溜池(小規模な農業用アースダム)だ。
位置探しの歴史
位置未確認ダムの数を、多いか少ないかという観点でどう評価したらいいだろうか。そんなにあるのかという印象もあるかもしれないが、やっとここまで来た、というのが私の実感だ。過去を振り返ると、平成16年には918もの位置未確認ダムがあったが、それが現在では183、この8年間で約2割に急減した。自動的に減少したのではなく、この間、多くの方々の大変な努力があって、ここまで減らすことができた。大げさに言えば、そこにはダムの位置探しの歴史があった。
多くの方々が位置情報をもたらしてくれた。初期の頃は、多数のダムを巡ることに熱心なタイプのダム好きが、ダム巡りの過程でわかった情報を提供してくれることが、位置確認に大いに役立った。かつて灰エースさんは、短期間のうちに約1000のダムを巡り、その過程で位置情報を提供してくれた。その後、ふかちゃんがバイクで急速に訪問ダム数を増やし、情報提供をしてくれた。このタイプは、今なら、だいさん、marcさんなどだろう。これは、ダム巡りの際のいわば副産物だ。
そのうちに、意識して位置探しをしてくれる人たちが現れた。数年前、岡山県在住のcantamさんは、県内の未確認ダムの位置探しを実行。岡山県は溜池が多く、当時位置未確認(計画が固まっていないものを除く)が20ほどあったと記憶しているが、現地調査や市町村へ行くなどしてそのすべてについて位置を突き止めた。安部塁さんは近畿や四国などで、位置の見つかりにくい古い溜池について、詳細に調査し、その結果をレポートにまとめた。これはダム便覧の「テーマページ」に「位置未確認ダムを探して」というシリーズで16の記事が掲載されている。北海道のFさんは、長年にわたって全国のダムの位置探しをしてくれている。おそらく、ネットや文献によって調査しているものと思われ、現地に行かなくとも綿密に探せば相当の情報が得られることがわかる。
(参考)安部塁さんのレポートの例 「位置未確認ダムを探して・・・岩坂池」
情報提供に感謝
位置探しの効果は、単に位置がわかると言うことにとどまらず、それを契機にデータの信頼性が高まるという点を忘れてはならない。安部塁さんのレポートを見ると、中には、存在しないとか、位置が見つかったが堤高が15m未満のためダムではなかったという例がいくつかある。位置がわかってはじめて存在が確認され、その際に諸元等のデータも調査されることになるので、データの信頼性が確保されることになる。現在でも位置がわからないダムは、不存在やデータの誤りが相当程度含まれているのではないかと想像される。 位置未確認ダムはここまで減ってきた。それだけデータの信頼性は高まったが、一方では、ダムの位置探しという「楽しみ」の機会が残り少なくなってしまったと言うことかもしれない。位置探しができるのは、今のうちだ。
位置探しが基本だ。ずっとそう信じてきた。そして位置探しをしていただいた多くの方々に感謝している。
(ダム協会内部資料用の原稿を転載した。)
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