そもそもの始まりは、2008年のゴールデンウィーク中に千葉県のダムめぐりを計画していたときのことです。 ダム便覧を見ながら、手持ちの道路地図にダムの位置を丸印で書き写していると、丸印がつかないダムがあったのです。 それは千葉県いすみ市岬町の「岬ダム」でした。
ダム便覧に載っていないダムがある。まだ知られていないダムが他にもあるのでは。 そうは思いつつも、他県へダムを見に行ったり、違うダムへ興味が移ったりで、なかなか資料を探し出すことができません。 ダラダラ時間は過ぎたのですが、やっと図書館で1冊資料を見つけました。 それが、「平成20年度千葉県水防計画 資料編」でした。
この書籍の中身を見てゆくと、「ダム・堰・ため池一覧表」というページがあり、千葉県のダム・堰・ため池が147記載されています。 その中から堤高15m以上をピックアップし、ダム便覧にないものを拾い出します。 その結果、6基のダムが候補に挙がりました。
もちろんこの資料も完璧ということはなく、間違っているところもあるのでしょう。 掲載されているダムのなかには、ダム便覧のデータと差異があるダムもあります。 しかし、他の資料がまだ見当たらないため、いちおう信じて各ダムを見学に行ってきました。 以下にその6基を、写真とともにご覧ください(以下にあげる諸元は千葉県発行の同書より引用です)。
■伊戸堰(いとせき) 場所: 千葉県館山市伊戸 河川: 巴川 堤高: 20m 総貯水容量: 16,500m3 管理者:伊戸農家組合
ウォッちず:http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.aspx?b=345735&l=1394637 見た目:滝 感想:いきなり滝とはどういう事か、と思われるでしょうが、ダムサイトへ到達することができなかったため、県道から見上げることしかできませんでした。ゼンリンの住宅地図には点線で山越えのルートが記載されていたのですが、入口近くの藪の背丈が、早くも戦意喪失させるに十分な高さだったのです。 すぐ近くで農作業をされている方に話を伺うことができました。 ・稲作農家は生花栽培に切り替えたため、水を必要としなくなった。 ・水路自体も壊れ、修繕費を捻出できなかった。 ・5〜10年ぐらい前に、使わなくなったダムに水がたまらないよう、安全のため栓を抜いた。 ・雨が降った日は、水が川だけに流れず、畑のそばを流れてしまう。 ・房大山への登山も南側からはもうできない。昔は、質のよい萱が取れたのだが。 ・八坂神社の鳥居付近が登山道入り口。いい堰でした。 とのことでした。 簡単にまとめてしまえば、地元の方には廃ダム認定されているようです。
■小沢ダム(おざわだむ) 場所: 千葉県長生郡長南町小沢 河川: 一宮川 堤高: 23.9m 総貯水容量: 325,000m3 管理者:長南町
ウォッちず:http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.aspx?b=352133&l=1401450 見た目:調整池 感想:正直、ダムとは呼びづらい普通の調整池です。 見上げる堤体を想像していくと、肩透かしでがっかりしてしまいます。 地面から盛り上がった堤体らしきものはなく、むしろ周囲の工業用地のほうが盛り土されているため、窪地に溜まった池といった感じです。下流への水路は暗渠になっているようです。 なぜ、これがダムと呼ばれているんだろう思い、国土地理院で旧版地図を閲覧してみると、 昭和37年版、谷間に川が流れて、周辺には水田が広がる地域。現在の小沢ダムの場所に溜池はないが、盛土記号あり。 昭和43年版、盛土の上流側に、細長い池が記載される。 昭和62年版、水田がすべて消えて、工業団地造成中となる。川も無くなり、下流に調整池が出現。 平成4年版、工業団地に企業が立地。上流の細長い池は変わらない。 平成9年版、上流の細長い池の面積が広くなり、現状の大きさとなる。 という変遷が地図上で確認されました。 以上のことから、工業団地造成の前後で周辺状況は大きく変わり、昔にあったダムと今あるダムとは、作り変わっている可能性が考えられます。 以下千葉県総合企画部水政課 http://www.pref.chiba.lg.jp/syozoku/b_suisei/kennaisisetu.html
■山居堰(さんきょせき) 場所: 千葉県鴨川市西山 河川: 房川 堤高: 15.4m 総貯水容量: 14,400m3 管理者:西山耕地組合
ウォッちず:http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.aspx?b=350427&l=1400345 見た目:アースダム 感想:地元の方に場所を聞くときに「やまいせき」とたずねたら、「さんきょのせき」と教えてもらいました。 教えてくれた人も、最近は行っていないらしく「いけるかなぁ?」と話しており、あまり人気はないようです。 私が訪れたときは、堤体、及び堤頂部は背丈の高い草が生え放題。 また取水部も経年劣化しているため、使われているのか疑問を持ったのですが、 塩ビ管が堤頂部にあったのと、下流方面へとつながっているようなので、まだ活用されているダムと判断したく思います。 下流域には水田があったため、かんがい用として現役のダムでしょう。
■大六溜池(だいろくためいけ) 場所: 千葉県安房郡鋸南町大六 河川: 大六川 堤高: 20m 総貯水容量: 15,000m3 管理者:大六水利組合
ウォッちず:http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.aspx?b=350731&l=1395051 見た目:堰 感想:ぱっと見れば明らかに20mありません。高さ5mぐらいではないでしょうか。 すぐ後ろを振り返れば、館山道の高架盛土のほうが標高あります。 鋸南町史によると、井尻ヶ谷堰という名前で掲載されており、 昭和6年1月起工、昭和7年4月完成。工費は7250円。溜池面積5反歩、灌漑面積13町600歩です。 堤体そばの斜面で花を摘んでいる人に話を伺うと、 ・この斜面で、昔は田んぼをやっていた。が、もうここでお米は作っていない。 ・堤体まで消防車が乗り入れできるよう、道をつくる計画があったが、資金難で挫折した。 ・堤体の斜面はもっと長かった。子供がそりすべりをして遊んでいた。 ・堤頂部を削ったり、盛ったりはしていない。 ・周囲や堤体直下は田んぼだったが、高速道路建設で、盛り土をおこない埋め立てた。 ・さらに上流でもお米を作っていた。そこでとれたお米はおいしかった。 ・ダムの上流方面、山越えの道は、もう行っていないので、通り抜けできないらしい。 簡単にまとめてしまえば、周囲の盛り土によって見た目の高さがなくなってしまったようです。
■袋倉第一ダム(ふくろくらだいいちだむ) 場所: 千葉県鴨川市東町 河川: 袋倉川 堤高: 18.4m 総貯水容量: 150,000m3 管理者:東条地区環境保全の会
ウォッちず:http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.aspx?b=350833&l=1400746 見た目:アースダム 感想:ダム便覧には第2袋倉ダムが掲載されていますが、その下流にあるのがこのダムです。 ダムの名前の順番ですが、平成20年度千葉県水防計画には「袋倉」のほうが「第一」より先になっています。 湖畔の石碑によると、大正八年四月起工、大正十二年四月竣工。総工費三万八千円。 洪水吐流入部の壁が、ほかのアースダムと較べると、とても細く感じます。
■岬ダム(みさきだむ) 場所: 千葉県いすみ市岬町鴨根 河川: 海老川 堤高: 23.7m 総貯水容量: 540,000m3 管理者:いすみ市
ウォッちず:http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.aspx?b=351659&l=1402124 見た目:アースダム 文句なしのアースダムです。遠くから見ても、どーんと大きな存在感が感じられます。 ダムサイトには音羽浄水場が併設されていることから、上水道としての使用も考えられます。 また、いすみ市岬町庁舎の水道課には、「岬ダムの貯水率」を示すボードがありました。 ただ、訪問したのが休日だったため、詳しい話をうかがうことはできませんでした。 図書館へ行けばなにか資料があるのでは、とも思ったのですが、いすみ市には図書館がないそうです。残念。 以下いすみ市水道課ホームページ http://www.city.isumi.lg.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=1413
以上6基すべてのダムが農業用水目的となっており、岬ダムは農業用水に加えて、都市用水が目的に含まれています。 また、ダムサイトでお話を伺うできた農家の方々の話を考えると、つくられた当時は、必要に迫られて地元・集落の人々によって作られたダムだったが、維持・管理・農業の変化や周辺開発、高齢化などによって、存在価値が変わってきているのを感じさせられるダムでもありました。
「平成20年度千葉県水防計画 資料編」を信じれば、上記6基がダム便覧への掲載可能性を持っているとは思うのですが、個人的には、岬ダムは掲載確実、山居堰と袋倉第一ダムは堤高の調査続行、残りは掲載には要検討といった印象を持ちました。
皆さんも千葉県へおこしの際は、ぜひ各ダムを訪れていただき、「ダム」として○か×か、思索されてはいかがでしょうか。
【追記】 その後、日本ダム協会さんによって各ダムの調査が行われ、いくつかのダムが堤高15mを超えていることが確認されました。 詳細は、こちらをご覧ください。 伊戸堰はやはり機能廃止、大六溜池は堤高7m程度でありました。
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