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1.はじめに
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京都府船井郡京丹波町豊田という所には、2つの位置未確認ダムがありました。1つが「新北谷池」でもう1つが「谷口池」です。「新北谷池」には「シンキダニイケ」というルビがふってあります。この読み方は少し珍しいものだと思います。 ダム便覧では、新北谷池は北緯35度10分59秒,東経135度24分36秒 【位置未確認】と記載され、谷口池は、位置情報が全くない【位置未確認】となっていました。谷口池の手掛かりは「豊田」という地名のみになります。個人的には、谷口池は書類上残っているものの、すでに埋め立てられ事実上消滅している公算が強いものと推測していました。
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2.京丹波町
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京都府のほぼ中央部に位置する京丹波町は、平成17年に旧丹波町が近隣2町と合併して誕生しました。現在、本格的な多目的ダムはありませんが、京都府が由良川水系畑川に「畑川ダム」の建設を進めています。平成21年秋の段階で、水路(転流工)などが着手されています。
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建設中の畑川ダムは、いわゆる143ダムの1つにリストアップされていますが、府知事が『地元の期待に応えたい』という意向を示し、今後も建設が進められて行く方針が打ち出されています。
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3.新北谷池
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新北谷池とされる場所には、地図にも貯水池のようなものが描かれており、上記の位置に行けば恐らく存在が確認できるものと思われました。ところが、実際に目的地に到着してみると、「三条池管理組合」という文字が書かれた看板が設置されていました。
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もちろん、「三条池管理組合」が管理する「新北谷池」という可能性も否定はできません。しかし、「新北谷池」は、別の位置に存在すると考えたほうが合理的です。 付近で農作業中の方に尋ねてみますと、「『シンキダニイケ』というのは向こうの方だ。」と指をさして教えてくれました。やはり、「新北谷池」は別の所に存在していたのです。
手持ちの地図で簡単に教えてもらうと、 「これとこの池のことだ。」 と2か所を指さしました。 私は「新北谷池」という1つのアースダムの場所を尋ねたつもりだったのですが、不思議なことに相手の方は2か所を指し示したのです。 再度、確認すると、 「だから、これが『シングウ池』でこっちが『キダニ池』だ。」 と答えが返ってきました。 相手の方は、私が2つのため池の位置を尋ねたものと思っていたようです。どうやら「シンキダニ池」を「シングウ池とキダニ池」と聞き違えたようです。 結論からいえば、この近辺には「漢字で『新北谷池』と書く」アースダムの存在は確認できませんでした。あきらめ半分で、「谷口池」について尋ねてみると、驚いたことに「谷口池は知っている。」ということです。しかも、「谷口池」は、現在地からもそう遠くはない場所に存在しているようです。捨てる神あれば拾う神ありとはこの事です。
位置関係を整理しますと、
三条池の位置
新宮(シングウ)池の位置
木谷(キダニ)池の位置
谷口池の位置
となります。
なお、ダム便覧の兄貴分にあたる『ダム年鑑2009』(財団法人日本ダム協会)によれば、京丹波町豊田にはもう1つ「三条橋池」という着工・竣工年不詳のアースダム(堤高20m)が存在していることになっています。「三条池」と「三条橋池」の関係は不明ですが、「三条池」の堤高は20mには程足りないと思います。
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4.谷口池
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「新北谷池」については、少し迷宮入りしてしまいましたが、一方で確認が非常に難しいと思われていた「谷口池」の位置が明らかになりましたので、その場所に向かうことにしました。 谷口池への道は、「自動車も通れるが、道がとても狭いので初めて行くのであれば、車は広い所に止めて歩いて行った方がよい。そこから、歩いても5分くらいだ。」ということでした。5分や10分程度であれば、危険を冒すよりも歩くべきです。その指示に従いました。これは確かに正解でした。
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山道を進み、しだいに堤体の姿が明らかになるにつれ期待感が失望感に変化するのを感じました。どう見ても数メートルの高さです。とても、アースダムではありません。
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池を取り囲むフェンスには「谷口池水利組合」の看板が付けられていました。この場所が谷口池であることが確定したと同時に、堤高不足からアースダムでないことも決定したようです。
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ダムの堤高は基礎岩盤からの堤頂までの高さを意味するため、地上に見える部分が必ずしも堤高ではないのですが、この谷口池の場合はやはり致命的に堤高が低すぎます。谷口池がアースダムに該当しないことが確認できたことで、未確認ダムが1つ減少します。それはそれで意味のある調査結果であったのかもしれません。
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手持ちの地図で確認すると、この池の上流に少し規模の大きい貯水池があります。こちらが、もしかすると「新北谷池」の可能性もあります。先ほど、谷口池の位置を聞いたときに、この名前も聞いておけばよかったのですが、「谷口池は知っている。」という想定外の展開に年甲斐もなく舞い上がってしまい聞きそびれてしまいました。
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谷口池右岸に急傾斜の細い道がありましたので気を取り直して登ることにしました。見えてきたものは、アースダムと認定できそうな堤高を持つ堤体です。
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さらに、池に近づくと、こちらにも「谷口池水利組合」の看板が設置されていました。この堤体も谷口池であったのです。
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むしろ、こちら(上流)の方が、谷口池の本体で、最初に見た(下流の)谷口池は、補助的な池であると思います。実際は、下池と上池が一体となって運用されており、受益者としては、両池を区別する理由は特にないようです。ついに、谷口池の存在を確認しました。谷口池は人知れず立派に職務を果たしていたのです。
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堤頂付近に「太田重義翁頌徳之碑」という石碑がありました、谷口池の建設に関係した方でしょうか。詳細は不明です。
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5.最後に
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今回は、新北谷池には到達できませんでしたが、その過程で遭遇した「新宮池」と「木谷池」の姿をご紹介します。
新宮池は、堤高の低いため池でした。周辺は農地や宅地が混在する区域です。
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木谷池は、小さな谷間に築造された比較的堤高の高いため池でした。
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新北谷池の確認を試みて、はからずも谷口池の位置を確認することができました。ところで、新北谷池の行方はどうなったのでしょうか? 谷口池を教えてくれた方の話によれば、 「『豊田』」という地名は、かつては現在の『豊田』よりも広範囲を示す地名であった。また、昔から数多くのため池が作られてきた地域である。ため池が多くありすぎて自分は『新北谷池』という池は知らないが、地元の人に聞いてみればわかるだろう。」 ということでした。私としては、この方も十分地元の人だと思っていたのですが…。 新北谷池はどこかに存在していると信じて、探索を継続したいと思います。
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【平成23年10月 追記】
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谷口池は、資料を精査した結果、堤高15m未満であることが判明したためダム便覧からは削除されることになりました。
一方、新北谷池については、その後、日本ダム協会さんの調査で、北緯35度13分35秒,東経135度25分34秒に位置する堤体であることが確認されました。
現地にあった石碑等から、1882年に竣工した北谷池は、老朽化のため1980年代(昭和55〜59年)に改修・整備され「新」北谷池とし生まれ変わったものだと推測できます。堤体は隣接する升谷大谷池と同じように、堤頂部の幅が広い構造となっていました。
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新北谷池堤体 |
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新北谷池貯水池 |
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新北谷池石碑 |
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新北谷池堤頂 |
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【平成25年12月 追記】
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なお、畑川ダムは、順調に建設が進められました。 平成24年12月31日には、試験湛水中最高水位に達し、非常用洪水吐からの越流が見られました。畑川ダムと畑川脇ダムが形成する貯水池は「下山四季彩湖」と命名されました。今後の活躍が期待されます。
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試験放流中の畑川ダム、右岸側から撮影。(撮影:ピンクのうさぎ) |
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[関連ダム]
新北谷池
畑川ダム
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(2009年11月作成、2011年10月追加、2014年1月追加)
ご意見、ご感想、情報提供などがございましたら、
までお願いします。
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