ダム湖に沈みゆく故郷の写真を撮り続けたことで知られる「カメラばあちゃん」こと増山たづ子さん(享年88歳)。テレビや新聞にもたびたび取り上げられ、徳山ダムに行ったことがある人なら必ず知っているであろうおばあちゃん。そんな増山さんの写真展「生き生き徳山〜揖斐川讃歌」が開かれていることを8月下旬にニュースサイトで知り、見に行こうと予定していた日に台風12号の襲来があり、かなり間が開いてしまったがようやく見に行くことができた。
開催場所は旧徳山村の下流にある大垣市の歴史民俗資料館。資料館が「ふるさとを知るきっかけになれば」と企画し、同じく旧徳山村の下流にある神戸町出身で滋賀県立大非常勤講師・「増山たづ子の遺志を継ぐ館」代表の野部博子さんが資料を提供したのだそうだ。
増山さんの写真はすべてフィルムのコンパクトカメラで撮影されており、決して画質が綺麗とは言いがたいが、それがまた素朴な良い味を出していて郷愁を誘う。また被写体に映る村民の顔が自然体で笑顔の写真が多い。「故郷がダム湖に沈む」というのはともすればネガティブになりがちだが、増山さんは悲しい写真は撮りたくなかったのだそうだ。そして村民は増山さんがカメラを向ければ自然に笑顔になったのだそうだ。増山さんの人柄がまるで被写体を通じて現れているかのようだ。
また村の子どもたちが写っている写真も多いが、懐かしいと思わせてしまう写真だ。昭和50年代の子どもたちといえば、写真パネルに写っている彼らは私と同世代のはずだ。恐らくそこに感情移入せずにはいられない理由があるのだと思う。
旧徳山村の風景を収めた写真も、単なる風景写真になりがちだが、増山さんが撮った風景写真は見ているだけで涙を誘う。人の息吹を感じるあの場所やこの風景が、すでに徳山ダムのダム湖に底に沈んでしまっているかと思うと、生まれも育ちも今もずっと同じ町で故郷と呼べる場所がなかった私ですら、この旧徳山村を故郷であるかのようになぜか恋しくなってしまう。
さらに写真展では写真だけでなく、増山さんが生前愛用していたカメラやポーチ、タオルや帽子などの遺品も展示されている。その遺品の上の写真パネルは「友だちの木」と題された写真がある。何十年と増山さんの話し相手になっていた「木」なのだそうだが、増山さんが村を離れた後に枯れてしまったそうだ。まるでこの「友だち」が沈みゆく運命を悟っていたかのように見えた。
そして、増山さんは徳山ダムが完成する直前に息を引き取る・・・。増山さん個人はダム建設には反対だったそうだが、「戦争もダムも国が決めたことだから」と事実を受け止め、以後決して声を大にして反対を唱えることもなく、むしろ国や水資源機構や建設会社の人とも笑顔を向けていたのだそうだが、「達観していた」というにはあまりにもコトバが稚拙すぎる気がした。
徳山ダムのことを知る人も知らない人も、故郷がある人もない人も、ぜひ一度写真展で増山さんの人柄に触れてみてはどうだろうか。開催は9月22日(木)まで。場所は大垣市歴史民俗資料館(大垣市青野町1180-1)の2階学習室にて入場料100円。高校生以下無料。休館日は毎週火曜日と祝日の翌日。
▲資料館ではポストカード(400円)なども販売している。
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