《このごろ》
志津見ダムの試験放流

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2011.3.30 その日私は世紀のショーを見るために島根県東部、飯南町の志津見ダムサイトに来た。この日、志津見ダムで行われている試験湛水でダム湖の水が溢れそうだ(試験放流が始まる)というのを聞きつけて、馳せ参じたのだ。放流の期間は一般的に24時間程度と聞かされたことがあったが、念のため事務所に確認するとこちらでも計画では24時間程度だということだった。
ダムのてっぺんから水が流れ落ちてくる光景、それも85.5mの高さから、堤体下流面全体を使ってナメ滝のように静かに滑り落ちる光景を眺めることが出来るのはたった一日のチャンスなのだ。

さらに、運用が始まってしまえば、てっぺんから自然越流するのは150年に一度の確率と言われており、今後この光景を拝めるのは不可能に近い、まさに一日限りの世紀のショーなのだ。2009.9.10、堤体がほぼ完成していた志津見ダムサイトを訪れて以来、私は、是非ともこの場に居たいという淡い希望を抱いていた。それから約一年半、私は運よくこの場に居合わせることが出来ている。


しかし正味のところは、ビールのジョッキから泡がこぼれてくるような単純なお話であり、それを見るために何日も前からそわそわと心の準備をして、往復500km以上もある場所へ、諸経費1万円以上掛けて行く必然性を、家人のような凡人というか常識人に説明するのは非常に困難だ。
それが「キャンディーズ一夜限りの再結成」などという話であれば馳せ参じる心情は理解もされやすかろうが、ダムの放流では残念ながら理解は得られにくいのが現状である。


志津見ダムというのは一見異様な姿に見て取れる。一般的なコンクリートダムとは違い、天端橋梁は廃止されダムの最上部にクレストゲートなる穴・もしくはゲートの類がない。天端そのものが非常洪水吐きを兼ねているという形式だ。小規模な堤体であればこのようなものは見たことがあるが、堤高85.5mという大規模なダムを私は見たことがない。

堤体そのものは白っぽい色であり、堤体下流面に取り付けられた水位維持用の放流口が二つ。下流側から堤体を見れば、眉が二つ、つぶらな目が二つ、獅子鼻のような突起が二つに長い鼻の穴が二つ、どういう意図のデザインかは知らないが、「まだらの化粧をした愛嬌のあるヤツ」的な顔に見える。


私の車は上流からダムサイトに近づいた、見え隠れするダム湖の水位はこれが最高水位であるということを知らせるように満々と貯められており、それを興味深く眺め撮影をしている地元の人たちの姿も少なくなかった。
そして実際にその場に到着して放流が見えたとき、思わず「おおぉ〜」と感嘆の声を上げてしまった。独特の水紋を描きながら、静かに流れ落ちていく水の姿は、しばし時間を忘れて見入ってしまうに十分な光景だった。


下流側から上流に向けて左岸を歩いていくと、立派な管理事務所がある。通常はそのあたりから天端へ入って水の流れを真上から見ることになるのだが、さすがに天端は冠水して沈下橋のような状態になっているので立ち入るのはムリだ。どうぞといわれても私は遠慮する。さらにダム湖そばの広場まで進んでみると、地元の老若男女&ペットが満々とたたえられたダム湖を眺めていた。それぞれの人にそれぞれの感慨があるのだろうと察しながら、立ち去った。


気がつくと、約1時間40分ほどダムサイトにいたようだ。今回は堤体下流面全体を使った「大泣き」の光景で、中位にある水位維持用常用洪水吐きからの鼻水放流は見ることが出来なかった。試験放流が終わる頃にはここからも水が流されるのかもしれないが、それまで待っているわけにもいかなかった。この鼻水放流であれば、今後比較的簡単に見ることが出来るだろう。

ダムの必要性とか意義などという堅い話はさておき、私としてはダム放流の人工美をぜひとも多くの方に堪能していただきたいと思っている。同じく水が流れ落ちてくる自然美の滝もすばらしいが、ダムの放流も息を呑んで見入ってしまう光景だ。そして私はこのあと、近所にある日本の滝百選「八重滝&竜頭が滝」の雪融けの姿を眺めに行った。

[関連ダム] 志津見ダム
(2011.3.31、cantam)
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