《このごろ》
東京近郊で行われたレアな放流

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ほとんど全てのダムでは、常に何らかの形で放流が行われています。しかし、その放流がいつもとは異なる方法で行われるときには本当に心を惹かれます。先ごろ東京近郊のダムで設備点検等による滅多に見られない放流が行われましたので、その状況を整理してご報告します。


  1. 浦山ダム
  2. 浦山ダムの常用洪水吐きからの断続放流は、平成31年2月4日から3月1日(予定)までの期間でした。

    浦山ダムでは河川維持放流設備の整備のため、代替放流として常用洪水吐きによる断続的な放流が行われることになりました。浦山ダムの常用洪水吐きゲートは、非洪水期に水位を上げておくための設備です。洪水期の浦山ダムは、事実上ゲートレスダムとして運用されています。運が良ければ、洪水期に流入量が多いときに常用洪水吐きからの越流を見ることができます。(あくまでも本当に運が良ければの話ですが…。)



    洪水期の常用洪水吐きからの越流

    この点検では、毎奇数正時から20分間ゲート放流が行われることになっていました。そして減勢池に貯留された水を2時間分の河川維持放流量として確保します。その副ダムが空になる2時間後、ゲート放流を再開させて副ダムを満杯にさせます。この操作を繰り返す前代稀に見る手法で河川維持放流が行われることになりました。かくて断続的に常用洪水吐きから放流することで、大切な水資源を1滴も無駄にすることがありません。
     ところが、下流において急遽利水補給が必要となりました。点検期間が比較的長いため、いつでも見学できるかと思っていたところ、2月15日から放流流量を増加するため連続放流に放流方法が変更されてしまいました。少雨が続いた平成最後の冬、下流の住民のために行われた措置ですから、文句を言うことは「天に唾を吐く」行為です。

    「ゲートを開けて放流が始まり、ゲートを閉めて放流が止まる。」というシーンは、私は実際に見ることができませんでした。それでも、昼夜を問わず、下流の人々に水を送ってくれていたのです。これは本当にありがたいことなのです。



    常用洪水吐きからの連続放流の状況

    断続放流こそ見ることができませんでした。しかし、通常は常用洪水吐きからの放流が行われない非洪水期の証として葉のない樹木とのコラボの写真を撮影することができました。もうこれだけで大満足です。



    夜間の浦山ダムの状況

    その後、2月26日に利水放流管の工事が早期に完了したため、予定よりも早く常用洪水吐きからの放流は終了しました。ダム愛好家としては残念なことですが、工事が短期に終わることは経費節減につながります。これはこれで良しとしなければなりません。


  3. 宮ヶ瀬ダム
  4. 低位常用吐洪水の点検放流は、平日(平成31年2月21日実施)の日中に行われました。


    洪水調節中の宮ケ瀬ダム

    宮ヶ瀬ダムには、2門の高位常用洪水吐(左岸側=1号、右岸側=2号)と1門の低位常用洪水吐が設置されています。通常55トンまでの洪水は利水放流で処理しています。3つある常用洪水吐はそれぞれ最大100トンまでの放流が可能です。これら3門の常用洪水吐は、設置位置に関わらず操作規則上すべて「常用洪水吐」として同じ扱いであり、特に優先順位は定められていないということです。実務では「前回の出水で1号を使用したので、今回は2号で放流する」というような感覚で、55トンを超える洪水はその時の担当が使用する常用洪水吐を決めているそうです。ただ、下流への影響を考慮して、比較的水温の高い高位常用洪水吐を使用するケースが多いということでした。また、定期的に行われている観光放流でも、2門の常用洪水吐が使用されます。これらの理由からか、ダム便覧のフォトアーカイブスには低位常用洪水吐からの放流写真は見当たりませんでした。



    宮ヶ瀬ダム低位常用洪水吐からの点検放流開始

    点検放流は、予定通り午前11時00分から開始され、ほぼ11時07分過ぎに100トンの放流に達しました。観光放流では、高位常用洪水吐2門で30トンの放流ですから、その3倍を超える流量となります。会話が聞こえないくらいの轟音と迫力に魅了されました。



    低位常用吐から100トンの放流状況

    約20分間の放流シーンは、観客を呑み込み無事終了しました。



    低位常用吐からの点検放流終了段階

  5. 宮ヶ瀬副ダム(石小屋ダム)
  6. 宮ヶ瀬副ダムの堤頂部からの放流は、平成31年2月25日から3月1日まで行われました。


    発電所点検による代替放流(写真提供:み・か・ん)

    この放流は、愛川第2発電所(神奈川県企業庁)の点検による代替放流です。この点検では配管内の水をすべて除去する必要が生じたため宮ヶ瀬副ダム上流面の予備ゲートが降ろされることになりました。このため、残された放流手段は堤頂部の越流のみということになります。



    代替放流、左岸側から(写真提供:み・か・ん)

    洪水期に流入量が多い時ときの石小屋ダムの状況です。



    石小屋ダムからのバルブ放流


    洪水期の石小屋ダム越流

    今回の代替放流は、バルブからの放流がないため、静かに越流していたそうです。



    石小屋ダム全面越流(写真提供:み・か・ん)

  7. 草木ダム

 草木ダムでは、発電所の点検整備に伴い、平成31年3月4日から8日(予定)まで、日中(9時30分から16時30分)クレストゲートによる代替放流が行われました。

 ところが、草木ダムにおいて早期に点検が完了し、代替放流は初日のみ(3月4日)で終了してしまいました。
 今後、レアな放流があるときには、早めに見学に行く方がベターかもしれません。



2013年の点検放流の状況

 地球は『水の惑星』と呼ばれるほど水が豊富です。しかし、そのほとんどは海水で、人類が利用するのには適しておりません。私達が必要とする淡水は、実際はごく僅かしか存在していません。「水」は決して「有り余って」いないのです。川に水が流れていることは、当然のことではないのです。住環境が整備された下流に住む人々は、ダムが貴重な水資源を適切にコントロールしていること、そのおかげで安心して生活ができることに本当に感謝して欲しいと思います。


[関連ダム] 浦山ダム  宮ヶ瀬ダム  石小屋ダム  草木ダム
(2019.3.28、ダムマイスター 01-024 安部塁)
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