岡山県の湯原ダムが完成して今年度で60周年を迎えます。その記念行事として『湯原ダムバックヤードツアー』が企画されました。このイベントは、11月中旬の金−日の各日午前と午後に分けて数回実施されます。募集人員は各回15名程度です。湯原ダムが計画された時代には、堤体内に一般見学者が多数来ることを想定していなかったため、一度に大勢の見学者を受け入れることは困難です。
1.湯原温泉ミュージアム
参加者の多くは、地元の一般の方です。私が参加した回では、ダム愛好家の方は、ピンクのうさぎさんだけのようでした。
湯原温泉 はじめに集合場所の「湯原温泉ミュージアム」で、建設中の湯原ダムのビデオ(モノクロ)が上映されました。このビデオは、水没地区のかつての生活や建設の経緯等の記録で、大変貴重な映像です。湯原ダムは、昭和27年着工、3年後の昭和30年に完成しました。ビデオによれば、湯原ダム本体着工と同時に、発電所施設、社口ダム(逆調整池)が人海戦術で作り上げられていったことがわかります。試験湛水時のクレストゲートからの放流映像では、ゲートピア上部が未完成でした。戦後の復興期の中で、電力需要が急速に高まり、一刻も早い運転開始が期待されていたのです。 湯原ダムは、中国電力の社運をかけて建設されたものでした。そのダムに岡山県の旭川洪水調節(旭川総合開発事業)が相乗りした形となり、現在は岡山県管理のダムとなっています。
湯原ダム天端橋梁左岸「中國電力株式會社」の銘版
2.湯原ダム
湯原温泉ミュージアムからダムまでは、徒歩での移動となります。うさぎさんと情報交換を兼ねた雑談をしながら、10分程度歩きます。「砂湯」と呼ばれている露天風呂の横を通過して堤体左岸直下まで到着しました。
湯原ダムに向う参加者 湯原ダムにはエレベータはありません。左岸側には「湯原えん堤発電所」が設置され河川維持放流を兼ねた発電が行われています。メインの発電用水は、右岸の地山の中を通る水管で下流の発電所に送られて行きます。
「湯原えん堤発電所」の銘版 私は、湯原ダムの右岸側に発電用の水管が通っていることは事前に知っておりました。また、その導水路は、ダム建設時の転流工(仮排水路)を使用したものだと勝手に思い込んでおりました。ところが、先程ミュージアムで上映されたビデオの内容ではダム本体と水圧鉄管・サージタンク等々が同時に着工されたことになっています。トンネル式の仮排水路で河川を迂回させる場合には、ダム本体打設以前に完成していなければなりません。ところが、ビデオの内容は、これら全てが同時進行で建設されたことになっていました。
堤体直下からの湯原ダム 湯原ダムは、川幅の狭い谷間に建設されましたが、半川締切方式で建設されたそうです。したがって、河川を転流させるためのトンネル式仮排水路は最初から存在しません。一刻も早く発電所の運転を開始したいという当時の電力事情の切実さを実感しました。
えん堤発電所の水管 参加者は、左岸監査廊入口前で、ヘルメットと軍手を受取ります。軍手は堤体内の階段を登る際に手すりに掴まるためのもので、これは本当に役に立ちました。 えん堤発電所の入口付近には、水管が設置されています。さらに、進んだ先には地震計が設置されていました。
階段を登る参加者 監査廊は、丁寧に組み合わされた木製の型枠で施工されていました。型枠として使用された材木の節目も残っています。急いで建設されたダムではありますが、慌てて施工された訳ではありません。監査廊内部は60年も前のコンクリートとは思えないほど美しいものでした。
登ってきた階段の下を望む
堤体内EL=393.07m付近 階段は急勾配です。左岸側から堤体を斜めに横切る形で、右岸側の監査廊出口に到着しました。さらにここから、外階段を歩いて天端に向います。
ダム右岸側、天端に向う参加者
3.ダムカード
このツアーの参加は有料(1,000円)です。私としては堤体内を案内していただき、それだけで十分元は取れていると思いました。見学終了後、記念品として「湯原ダム完成60周年記念ダムカート」、湯原温泉無料入浴券、真庭市施設優待券、地元土産品(お菓子)のサンプルなどが配布されました。
記念品の一部 金色のダムカードの写真は建設中の湯原ダムのものでした。写真を見ると、堤内仮排水路から水が流れ出ているのがわかります。これは、このダムが半川締切方式で建設されたという証です。
湯原温泉ダムカレーのチラシ 「湯原ダム完成60周年記念ダムカート」は、後日一般見学者にも配布されるそうです。(ただし、無くなり次第終了。)また、温泉街の飲食店では、ダムカード呈示でダムカレーが通常900円のところ、700円に割引提供となるそうです。地元のダムカードを割引券として使用できるのは、地域活性化として良い試みではないかと思います。
社口ダム 湯原ダムは、岡山県を代表するダムの一つですが、このダムがこれまでしっかり仕事をすることができたのは社口ダムの内助の功があったからです。神奈川県の宮ヶ瀬ダムで、石小屋ダムのダムカードが同時に配布されている例のように、社口ダムにも是非ダムカードを作製して欲しいと思いました。
湯原ダム情報表示板「ダムカードあります」
|