◇はじめに
新潟魚沼地域振興局では、2015年11月7・8日に「魚沼市内ダム施設周遊モニターツアー」を実施しました。 このモニターツアーは、同地域振興局の平成27年度地域振興戦略事業「ダム施設活用推進事業」の一環として行われたもので、「ダム施設活用推進事業」は、魚沼市内にあるダムの魅力を広くPRし、誘客に繋げることを目的に進めている事業です。モニターツアーから一か月以上間が空いてしまい恐縮ですが、私は事業の企画アドバイザー及び、モニターツアーでは車内ガイドとしてバスに同乗した立場から、ツアーの概要について紹介したいと思います。
◇モニターツアーの目的
このモニターツアーは、近年、ダム見学をする観光客が増えつつある状況を鑑み、ダム施設を来訪する観光客のニーズを捉え、地域経済の活性化に結び付けることを目的に、旅行商品化に向けた課題や問題点等を検証するため実施したものです。 実施にあたってはダム管理者や観光関係機関などから協力を受け、薮神ダム(東北電力株式会社)、奥只見ダム(電源開発株式会社)、広神ダム(新潟県)、黒又ダム(東北電力株式会社)、破間川ダム(新潟県)の5基のダムの見学を計画しました。これまでも奥只見ダムでは、奥只見発電所の見学を行っていましたし、県のダムでは「森と湖に親しむ旬間」に合わせた見学会を行っていましたが、管理者の異なるダムをツアーとして見学するのはこの地域では初めての試みです。
モニターツアーは二部制とし、異なるコースを周る日帰りツアーを二日間連続で行うこととしました。通常の観光名所などは行程には入れず、アドバイザーらからの意見を踏まえ、ダムに特化したツアープランを作成しました。また、薮神ダムと黒又ダムに関しては、参加者だけがもらえるプレミアムダムカードを作り、ツアーの特典としました。 ツアー参加者募集の告知では、企画アドバイザーとして事業に携わってくださった宮島咲さんをはじめ、複数のダム愛好家の方たちからもツイッター等で告知に協力してもらいました。その結果、募集開始からわずかな時間で定員に達し、せっかく申し込みをしてくださったのにお断りしなければならない人が多くなってしまうという、こちらも予想外の事態となりました。今回お断りしてしまった方々には、この場を借りて改めてお詫び申し上げます。
◇1日目
ツアーは両日とも上越新幹線浦佐駅集合とし、1日目は薮神ダムと奥只見ダムの見学をしました。 参加者には地域振興局が作成した「うおぬまダム周遊MAP」を配布し、車内では私がマップと魚沼地域のダムについての説明をしました。(周遊マップについては、ダム便覧の「うおぬまダム周遊MAP」が完成しましたをご参照ください。)
○薮神ダム 薮神ダムでは、最初に下流にかかる橋の上からダムの写真撮影をしました。当日は既設の薮神発電所へ導水する水路の点検期間中であったため、取水口よりも水位を下げる必要から、ラジアルゲートの多くが開いた状態となり、普段とは違う様子を見ることができました。 現地では、第二薮神発電所の建設現場を見学し、ダムのゲート巻上機室にも入れてもらい、室内の様子や上流、下流の様子を見学しました。
薮神ダムの見学
第二薮神発電所建設現場を見学 薮神ダムの見学を終えると奥只見に移動し、昼食は奥只見ダム大駐車場にある店舗で奥只見ダムカレーを食べました。
○奥只見ダム 奥只見ダムの見学では、最初にシルバーライン出口からダムへ通じる冬季蓋道(トンネル)の中を歩かせてもらい、ダムへ向かいました。冬期間は、外は雪が積もるため、コンクリートのトンネルの中を通ってダムや発電所、開閉所等へ行きます。普段は関係者しか通ることができませんが、今回はツアーのために歩かせてもらうことができました。 ダムの堤体内では、ゲート操作室を見学し、その後にエレベーターで下り、地下にある奥只見発電所の見学をしました。発電所から外に出て、ダム堤体の下で記念撮影をしました。
冬季蓋道を歩く
奥只見発電所見学
ダム堤体を見上げる人たち 奥只見ダムでは、ダムが完成してから放流菅バルブを使ったことはないそうですが、今回は放流菅操作室も見学させてもらいました。
ダムと発電所の見学が終わると、奥只見湖遊覧船に乗り、ダム湖を周遊しました。奥只見湖遊覧船では、ダムカードに似た「遊覧船カード」を製作しているので、ツアー参加者には「遊覧船カード」も差し上げました。 遊覧船の乗船後には電力館に行き、アンケートの記入と館内見学をして、一日目は終了となりました。
遊覧船カード
遊覧船に乗船
◇2日目
2日目は午前に広神ダム、午後に黒又ダムと破間川ダムを見学しました。
○広神ダム 広神ダムに行くまでのバス内では、魚沼地域振興局地域整備部の部長より、広神ダムをはじめとする、新潟県のダム事業の概要について説明をしていただきました。 広神ダムでは、最初に堤体の上から下流側やダム湖を見下ろし、堤体内をエレベーターで下りました。広神発電所の内部などを見学し、堤体下からダムを見上げました。 ダム見学の後は、管理所の見学もさせてもらい、監視カメラの操作なども体験させてもらいました。
広神ダムを見上げる 広神ダムの見学が終わった後は、道の駅いりひろせに移動し、昼食をとりました。 昼食は「鏡ヶ池堤食」と銘打ち、ツアー客のための特別ダムカレーと豆腐サラダを提供してもらいました。このダムカレーには、守門岳をイメージした魚沼産新米コシヒカリのおにぎりがつき、秋のきのこや山菜がたくさん入ったカレーです。 昼食休憩の際に、希望者は道の駅いりひろせに隣接する鏡ヶ池の堰堤を見学しました。鏡ヶ池は、かんがい用水を確保するためのため池として利用されています。堤高が15mに満たないので法律上のダムではありませんが、下流側は堰堤となっています。
鏡ヶ池堤食
鏡ヶ池の堰堤 ○黒又ダム 昼食休憩を終えると、黒又ダムの見学をしました。 この日は、黒又ダムを管理している東北電力株式会社のご厚意により、黒又ダムの越流をしていただきました。黒又ダムから取水している上条発電所の点検日とツアーの実施日が近かったので、取水制限をして越流している様子を見学させてもらうことができました。 黒又ダムの越流はなかなか見ることができないので、ツアー参加者の方たちはとても喜んでいました。柵に囲まれているので通常は入れない、沈砂池や取水門の周りなどにも入れてもらい、間近で堤体等を見学することができました。
黒又ダムの越流
黒又ダムの越流 ○破間川ダム 破間川ダムに行くバスの中では、魚沼地域振興局地域整備部の部長から、破間川ダムの建設時のお話を、ご自身の思い出と共に話していただきました。 破間川ダムでは堤体下で記念撮影をした後、堤体内に入り維持放流設備の見学などをしました。主ゲート室では、地域整備部長が主放流菅のラジアルゲートを操作してくださったので、ゲートが動いている様子を目の前で見ることができました。
破間川ダム
ゲートが動く様子を見学
◇モニターツアーのプラン
このモニターツアーを総括すると、ダム管理者、観光協会ら観光関係機関、ダム愛好家が協力体制を築き、充実したプランを練り上げることができた点が大きな成果だったと私は思います。 ツアーでは、魚沼市内にある5基のコンクリートダムを見学することにしましたが、ただ「ダムを見て回る」というだけでは魅力的なツアーにはなりません。事前の打ち合わせ段階では管理者側から、「ダムのツアーをするといっても、自分たちはお客さんがどんなところが見たいかはわからないので、教えてほしい」といった旨のことを言われることがありました。そこで、管理者側が想定していた見学箇所やルートに加え、奥只見ダムの冬季蓋道や黒又ダムが越流しているところなど具体的な見学したい箇所をこちらから提案し、それらを管理者側で検討していただいた結果、概ね希望に沿った内容にすることができ、非常に充実したプランを出せました。 奥只見ダムの場合を例にあげると、奥只見ではこれまで、奥只見発電所の見学は行っていました。しかし、発電所見学の際は、ダム自体はエレベーターで通過するだけでダム内部の施設は見学対象としていませんでした。これには防犯上の理由などもあったのですが、ダムに興味がある人にとっては、発電所と共にダム内の施設の見学もできるとよいと思い、ダム内施設の見学もできないかと提案しました。また、奥只見ダムには冬季蓋道(トンネル)がありますので、そこを歩かせてもらえないかという提案もし、ツアーで実現できました。
これらの提案をするためには、ツアーを企画する側が見学対象となるダムの特徴などをある程度わかっていなければできません。ダムの管理者側は観光事業を行っているわけではありませんので、見学者がどのような場所を見たがるのかわからないのは当然です。また、よくいわれることではありますが、ダム管理者側は自分たちが管理しているダムのことはよく知っていますが、他の地域や管理者のダムについてはどのような事業やイベント等を実施しているのか知らない場合が多いようです。観光関係機関も、「このダム湖では美しい紅葉が見られます」といった通常の観光名所としてのダム関係の情報は持っていても、ダムの構造や特徴などについて詳しく知っているわけではありません。そこで、ツアーの具体的なプランを作る上で、ダム愛好家の存在が大きくなってくると思います。 ダムの愛好家は色々なダムを見学に行き、どんな部分がダムの見どころとなるのか、他のダムではどのような見学会を行っているのかなどを詳しく知っている方が多くいます。そういった視点から、ツアーのプランを検討する際に、いわば“目利き”のような存在としてアドバイスをもらうことで魅力的なプランを作り上げることができるのだと思います。
◇地域資源としてのダム
本稿の冒頭で述べたように、「ダム施設活用推進事業」では魚沼地域振興局管内にあるコンクリートダムをまとめた周遊マップを製作し、ダムを見学するモニターツアーを実施しました。これらを実施できたより根本的な背景として、この地域にはダムの数が比較的多いという点があげられます。 魚沼市内にあるダムについて詳しく見ていきますと、周遊マップで紹介している7基のダムのうち、5基は電力会社が管理する発電用ダムです。発電用ダムが多いことがこの地域の特徴の一つといえるのではないかと思います。 発電用ダムは水力発電をするために建設されたものです。発電用ダムが多いということは、水力資源が豊富な地域という言い方もできると思います。発電用ダムは川の水を堰き止め、ダムで貯めた水を発電に利用します。ダム湖に貯まる水は周囲の山々を源としていますが、この地域の場合は冬期間にたくさん降る雪が重要です。山々に降った雪はとけると水となり、谷筋から川へ流れダム湖に貯まり発電に利用されています。すなわち、ダムはこの地域において、冬期間に沢山降る雪を水力資源として利用する施設、という面もあると思います。 このように、一定地域にあるダムをまとまりとして見ていくと、「雪がたくさん降る」という地域の特性を考えることにもつながります。そして、奥只見ダム等に設けられている冬期蓋道も地域の特性に対応した施設として把握できるのです。
魚沼地域は県内でも早い時期に建設された黒又ダムから、新潟県で最も新しい広神ダムまで、幅広い年代に建設されたダムが存在する点も特徴の一つとして指摘できます。 魚沼地域に存在するダムのうち、古いものに属する黒又ダムや薮神ダムは、現在は東北電力株式会社が管理していますが、もともとは長岡に存在した電気会社「北越水力電気株式会社」が建設したダムです。この会社は長岡を中心とする中越地区に電気を供給しており、黒又ダムや薮神ダムで貯めた水で発電した電気は、長岡を中心とする中越地区で使われていました。黒又ダムや薮神ダムが建設された時期には、破間川流域は中越地区の電源地帯として位置づけられていたといえると思います。 その後に建設された奥只見ダムや黒又川第一ダム、黒又川第二ダムは、電源開発株式会社が建設したダムで、発電した電気の多くは関東へ送られます。奥只見ダム等が建設された時期になると、この地域は東京を中心とする関東の電源地帯として位置づけられていきます。 本稿ではこれ以上詳しくは述べませんが、上記の諸点を踏まえて考えると、当該地域は長岡を中心とする中越地区の電源地帯から、東京を中心とする関東の電源地帯へと、電力面での地域の位置づけが変化していると私は思います。これらのことは、どこか一つのダムだけではわからないことです。一定地域にあるダムを「まとまり」として考えることで、ダムを通じて地域の位置づけの変化を知ることができるのだと思います。
ダムの構造や役割を説明することは大切なことですし、基本なのですが、私はダムは立地する地域の特性を語ることができる素材、すなわち「地域資源」の一つとしてとらえることができると考えています。その一例として上のような見方を紹介しました。 今回は新潟県魚沼地域を事例として述べてきましたが、ダムから地域の特性を語ることは、恐らくどこの地域でも可能だろうと思います。立地する地域の特性を表す「地域資源」としての観点から、ダムの活用が図られていくことを期待しています。
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[関連ダム] 薮神ダム
奥只見ダム
広神ダム
黒又ダム
破間川ダム
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(2015.12.25、目黒公司)
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