ダム事典[用語・解説](ページ:13)

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] [12] 13 [14] [15] [16] [17] [18] [19] [20]

ダムの種類 (だむのしゅるい)
 いろいろな観点から、ダムの種類分けをすることが可能です。ダムの目的による分類については、こちら(→ダムの目的)を参照してください。
 ダムは、堤体材料、構造などにより分類されますが、よく使われる種類としては、次のようなものがあります。

アーチダム
 コンクリートで作られたダムで、上から見た形がアーチ型なのでこう呼ばれます。また、アーチ式コンクリートダムとも呼ばれます。
 アーチの持つ力学的特性によって、水圧の大部分を両岸の岩盤に伝えることにより、水圧を支える構造のダムです。重力式コンクリートダムと比べ堤体を薄くすることができ、経済的ですが、ダムの両岸の岩盤に伝わる力が大きくなりますので、両岸に良好な岩盤が必要です。
 黒部ダム(→日本のダム:黒部)、温井ダム(→日本のダム:温井)、奈川渡ダム(→日本のダム:奈川渡)などが代表的なアーチダムです。



黒部ダム(撮影:安河内孝)


温井ダム(撮影:さんちゃん)


奈川渡ダム(撮影:安河内孝)


川治ダム(撮影:犹泱)


重力式コンクリートダム
 コンクリートで作られたダムで、貯水池からの水圧をダムの重量で支える形式のダム。コンクリートダムとしては最も一般的なものです。ダムの重量を支えるのに十分な基礎岩盤上に建設することが原則です。
 奥只見ダム(→日本のダム:奥只見)、浦山ダム(→日本のダム:浦山)、宮ヶ瀬ダム(→日本のダム:宮ヶ瀬)、佐久間ダム(→日本のダム:佐久間(元))などがこのタイプです。



奥只見ダム(撮影:安河内孝)


浦山ダム(撮影:安河内孝)


宮ヶ瀬ダム(撮影:安河内孝)


佐久間ダム(撮影:ToNo)


中空重力式ダム
 コンクリートで作られたダムで、重力式コンクリートダムの一種ですが、その内部が空洞になっているダム。コンクリートの量は節約できますが、構造が複雑なので、畑薙第1ダム(→日本のダム:畑薙第1)、井川ダム(→日本のダム:井川)など昭和30年代から40年代にかけて造られたものが数例あるのみです。



畑薙第1ダム(撮影:古川美鈴)


井川ダム(撮影:ToNo)


内の倉ダム(撮影:上條政明)


横山ダム(撮影:Dam master)


重力式アーチダム
 コンクリートで作られたダムで、重力式コンクリートダムとアーチダムの両方の特性を備え、それによって水圧を支えようとするダムです。新成羽川ダム(→日本のダム:新成羽川)、阿武川ダム(→日本のダム:阿武川)など、国内に10ダム程度あります。



新成羽川ダム(撮影:灰エース)


阿武川ダム(撮影:加藤敦)


二瀬ダム(撮影:ワージャ)


湯田ダム(撮影:Kei)


バットレスダム
 水圧を受ける鉄筋コンクリート版を扶壁(バットレス)で支える構造のダム。扶壁式ダムとも言われます。構造と施工が複雑で、国内で最近建設されたものはなく、丸沼ダム(→日本のダム:丸沼)、笹流ダム(→日本のダム:笹流)など大正から昭和初期にかけて造られたものが数例あるのみです。



丸沼ダム(撮影:kanayama)


笹流ダム(撮影:保坂かつら)


恩原ダム(撮影:さんちゃん)


三滝ダム(撮影:cantam)


アースダム
 主に土を材料にして作られたダム。土堰堤とも言い、古くからあるかんがい用溜池などはこれに該当し、最近でも作られていますので、最も数の多いタイプのダムです。ロックフィルダムとともにフィルダムの一つです。堤高の高いものとしては、清願寺ダム(→日本のダム:清願寺)、長柄ダム(→日本のダム:長柄)、中里ダム(→日本のダム:中里)などがあります。



長柄ダム(撮影:sio)


中里ダム(撮影:灰エース)


川西ダム(撮影:加藤敦)


不破北部防災ダム(撮影:ToNo)


ロックフィルダム
 岩石を多く使ったダムです。中央部に遮水を受け持つ遮水性ゾーン(コア)を持つタイプのロックフィルダムが多いですが、上流側の堤体表面をコンクリートアスファルトなどで遮水するタイプもあります。高瀬ダム(→日本のダム:高瀬)、奈良俣ダム(→日本のダム:奈良俣)、手取川ダム(→日本のダム:手取川)などがロックフィルダムです。



高瀬ダム(撮影:Dam master)


徳山ダム


奈良俣ダム(撮影:安部塁)


手取川ダム(撮影:Dam master)


重力式コンクリート・フィル複合ダム
 重力式コンクリートダムとフィルダムとの二つの型式のダムが連続して一つのダムを形成している構造のダムです。竜門ダム(→日本のダム:竜門)、大川ダム(→日本のダム:大川)、忠別ダム(→日本のダム:忠別)などがこれに当たります。



忠別ダム


永源寺ダム(撮影:Dam master)


御所ダム(撮影:灰エース)


月光川ダム(撮影:北国のNAGO)


台形CSGダム
 日本で開発された新しい技術に基づくもので、堤体の断面が台形で、材料にCSGを使用したダムです。条件さえ合えば、コスト縮減、環境の保全などに有効です。まだできあがったダムはありませんが、建設中のものがいくつかあります。


 種類分けの基礎となっている考え方は以下の通りです。
______________________________________
(機能により)
■貯水ダム
■取水ダム
■砂防ダム
貯砂ダム

これから下の種類分けは、貯水・取水用のダムを念頭に置いたものです。

______________________________________
(目的の数により)
■専用ダム
■多目的ダム

______________________________________
(構造により)
■可動ダム
 一連のゲートが主体となっているダム。
■固定ダム
 本体の主要部分が固定されているダム。通常のダムはこれに該当します。

______________________________________
(固定ダムについて水理機能により)
越流式ダム
 堤頂から洪水を越流させる方式のダム。
■非越流式ダム
 堤体外に洪水吐を持つダム。

______________________________________
(堤体材料により)
■フィルダム
 土や岩石を材料とするダム。通常、ダムサイト周辺で採取される土や岩石を材料として使用します。
 ■アースダム
  土を主体にしたダム。
  土堰堤とも言い、古くからあるかんがい用溜池などはこれに該当します。
 ■ロックフィルダム
  岩石を多く使ったダム。
■コンクリートダム
 コンクリートを材料とするダム。

■台形CSGダム
 CSGを材料とするダム。

______________________________________
(フィルダムについて遮水方法により)
■均一型
 堤体を均一な細粒材料で構築したダム。
■ゾーン型
 堤体内部を、遮水を受け持つ遮水性ゾーン(コア)、堤体の安定を受け持つ透水性ゾーンなどにゾーン区分をしたダム。
■表面遮水型
 上流(貯水池側)の堤体表面をコンクリート、アスファルトなどで遮水するダム。
 ■アスファルト遮水
 ■コンクリート遮水

______________________________________
(コンクリートダムについて水圧の支え方などにより)
■重力式コンクリートダム
 貯水池からの水圧をダムの重量で支える形式のダム。コンクリートダムとしては最も一般的なものです。ダムの重量を支えるのに十分な基礎岩盤上に建設することが原則です。
■アーチダム
 アーチの持つ力学的特性によって、水圧の大部分を両岸の岩盤に伝えることで、水圧を支える構造のダム。上から見た形がアーチ型なのでこう呼ばれます。重力式ダムと比べ堤体を薄くすることができ、経済的ですが、ダムの両岸の岩盤に伝わる力が大きくなりますので、両岸に良好な岩盤が必要です。
 数は少ないですが、複数のアーチダムが連なっているマルティプルアーチダムというものもあります。国内では、大倉ダム(宮城県)と豊稔池(香川県)がこれに該当します。
■バットレスダム
 水圧を受ける鉄筋コンクリート版を扶壁(バットレス)で支える構造のダム。扶壁式ダムとも言われます。構造と施工が複雑で、国内で最近建設されたものはなく、大正から昭和初期にかけて造られたものが数例あるのみです。
■中空重力式ダム
 重力式コンクリートダムの一種で、その内部を空洞にしたダム。コンクリート量は節約できますが、構造が複雑なので昭和30年代から40年代にかけて造られたものが数例あるのみです。
■重力式アーチダム
 重力式コンクリートダムとアーチダムの両方の特性を備え、それらによって水圧を支える構造のダム。

______________________________________
(単一構造か、複合構造かにより)
■単一ダム
 大多数のダムはこれに該当します。ロックフィルダム、重力式コンクリートダムといった一形式の構造のダムです。
■複合ダム
 二つの型式のダムが連続して一つのダムを形成しているような場合です。重力式コンクリートダムとフィルダムの混合が多いようです。

ダムの水質保全 (だむのすいしつほぜん)
 近年ダムの水質保全が重視されています。
 ダムは、都市用水、かんがい用水などを生み出しています。また、ダムからの放流水は、下流河川の水質に大きく影響を与えます。貯水池や放流水の水質は、これらの用水利用や下流河川の環境保全に支障のないものでなければなりません。さらに、ダム湖自体が、動植物の生息の場、レクリーエーションの場などとして、良好な環境を保持する必要があります。

●ダム貯水池の水質現象

【冷水・温水現象】

 貯水池内の表層水は、春から秋にかけて、太陽輻射などにより暖められ、温かい水の層が形成されることがあります。そして、水温成層と呼ばれる垂直方向の層が形成され、暖かい流入水は表層に流れ込み、下層は冷たいままで維持されます。このような現象を冷水・温水現象と呼びます。
 このような現象が起きると、ダムの放流口が中・低層にあると放流水の水温が低くなり、下流河川の生物や農業などに悪影響が生じることがあり、逆に、表層水を取水している場合には、放流水が流入水よりも高温となることがあります。

【濁水長期化現象】

 洪水などの時に周辺の土壌を洗い流した水が河川に流れ込んで、河川の水が濁度の高い状態になることがありますが、これを濁水と呼びます。
 ダムのない河川の場合、濁水はそのまま河川を流下し、洪水が終われば元の状態に戻る一過性のものであるのが一般的です。しかし、貯水池があると、そこに濁水が貯留され、洪水後徐々に放水されるため、下流河川の濁りが長期化する現象を生じることがあります。これを、濁水長期化現象といいます。濁水長期化現象を防ぐため、選択取水設備が利用されることがあります。

【富栄養化】

 生物が成育・生活をするために外から取り込む必要のある塩類を栄養塩類といいます。植物では土中の水などに溶けている栄養塩類が体の表面や根などから、動物では主に餌に含まれて体内に取り込まれます。
 湖沼などについて、水中の栄養塩類が豊富になることを富栄養化といいます。富栄養化が進行すると、そのほかの条件と相まって、水中のプランクトンが増殖し、水質汚濁の原因となります。富栄養化で問題となる代表的な栄養塩類としては、窒素(N)とリン(P)があります。

●水質保全対策

 ダムの水質現象に応じて、様々な対策が取られます。(→日本のダム:水質保全

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 冷水・温水対策としては、選択取水設備の設置が一般的です。

【選択取水】

 ダム湖の水は表層・中層・下層で温度や濁度などが異なります。必要に応じて取水する高さを変え、深さにより異なる性質の水を目的に応じて取ることを選択取水といい、下流の冷水対策、濁水対策などとして利用されます。例えば、農業用水ならば温かい水の方が作物の育成によいので、太陽の熱で暖まった表面近くの水を取水します。選択取水のために選択取水設備が設けられますが、最近では大規模なものも出てきています。(→日本のダム:選択取水設備



選択取水設備−日吉ダム(撮影:KENBO)


選択取水設備−灰塚ダム


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 濁水長期化対策としては、選択取水設備の設置が一般的です。さらに、濁水バイパスや清水バイパスを整備する方法もあります。

【濁水バイパス】

 濁水長期化対策の一つで、洪水時に濁水をダム下流へ直接流し、濁質の貯水池への流入を抑制するために整備されるバイパス水路です。奈良県の旭ダムでは排砂バイパスが設置されていますが、これは濁水バイパスの役割も兼ね備えており、濁水バイパスの先駆的事例といわれています。(→日本のダム:旭

【清水バイパス】

 貯水池から濁水が流れ出るのを抑制するため、選択取水設備により濁度の低い水を放流するようにしますが、貯水池の濁度が大きい場合にはこの方法のみでは不十分なことがあります。このようなときに、貯水池の上流で、流入する濁りの少ない水を取水して、貯水池を迂回するバイパス水路を経由して、直接ダムの下流に放流することが有効です。このバイパス水路を清水バイパスといいます。(→日本のダム:浦山

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 富栄養化対策は、流域対策、流入河川対策、貯水池内対策に分類できます。
 流域対策は、流域内の生活系、畜産系、農業系などの汚濁源を対象にして、流出の低減を図るもので、下水道の整備、畜産廃水処理設備の整備などです。
 流入河川対策は、ダム貯水池への流入水に含まれる栄養塩類を低減するためのもので、前貯水池による有機性懸濁物質の沈殿除去、水生植物による浄化、礫間浄化などです。また、バイパス水路により貯水池下流へ流入水を直接放流する流路転換対策もあります。
 貯水池内対策としては、曝気による対策が代表的です。

【曝気】

 水の中に空気を吹き込んで溶けている酸素の量の増加を図ることをいい、水質の改善のために行われます。そのために用いられる装置には二つのタイプがあります。
■低層曝気装置
 貯水池の深水層で酸素が不足すると、低質から鉄、マンガン、硫化水素、栄養塩類などが流出し、赤水・黒水現象が発生したり、富栄養化による汚濁の原因になったりします。これを防ぐため、深水層に空気を供給する装置が低層曝気装置です。
■曝気式循環装置
 貯水池の水は、夏期などの温かい時期には、表層に温かい水が滞留して表水層を形成し、深い部分には冷たい水の深水層ができます。これらの中間は、温度などが急激に変化する部分で、躍層と呼ばれます。曝気式循環装置は、この躍層で曝気により水の流動を起こし、循環混合層を形成するための装置で、これにより表層に集積しやすい植物プランクトンを光の届かない下層に拡散し、植物プランクトンの増殖・集積を抑制します。浅層曝気装置とも呼ばれます。
(→日本のダム:水質保全

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 以上の他に、最近調査研究されている対策として、人口浮島の設置、生物的浄化、貯水池水位低下・干し上げによる水質浄化などがあります。
 人口浮島の設置は、人口浮体に植物を植えた構造物を貯水池に浮かべるもので、景観改善などとともに水質の改善も期待されています。
 生物的浄化は、ヨシ、マコモ、ホテイアオイなどの植物を植え、刈り取るなどによって、栄養塩類の低減を図ろうとするものです。
 貯水池水位低下・干し上げによる水質浄化は、日本では古くから農業用溜池で行われてきており、最近では、渡瀬貯水池で藻類発生によるカビ臭対策として行われた事例があります。

ダムの耐用年数 (だむのたいようねんすう)
 これまでの経験から、ダム堤体コンクリートについては100年程度経たダムでもほとんど強度は低下しておらず、場合によっては強度が増していることもあることがわかっています。一方、ダムの各種設備はそれぞれ耐用年数がありますから、それらについて適切に補修・更新をしていけば、ダムは半永久的に使用可能と考えてよいものと思われます。

ダムの造り方 (だむのつくりかた)
 ダムはとても大きな構造物で、建設による地域社会や周辺環境への影響も大きなものがあります。そのためダムを造るときは、安全性や経済性はもちろんのこと、地域社会や環境への影響にも最大限の配慮をしなければなりません。コンクリートダムの本体の一般的な建設手順(工事段階の手順)です。

■工事の準備
 資材を運搬する道路をつくったり、川を工事に影響のない場所に切り替える工事(仮排水路の建設)などを行い、ダム工事の準備をします。

■仮設備の設置
 ダム工事から発生する汚れた水をきれいにする濁水処理施設を設置したり、コンクリートをつくるための設備を整備します。これらは工事が終了したら撤去されるので「仮設備」とよばれます。

■基礎掘削
 ダムの基礎地盤を露出するため、河床や堤体側面を掘削し、弱い岩盤やゴミ・泥などを取りのぞきます。

基礎処理
 基礎岩盤の軟質部分や割れ目を補強し、ダムと基礎地盤を密着させるためにボーリングした穴にセメントミルクを流し込みます。専門用語で『グラウチング』といいます。

■コンクリートの打設
 コンクリートをクレーンやダンプなどにより運び、あらかじめ設置した型枠の中に打設します。

■管理設備の設置
 ダムを使用する際に必要な管理設備(取水設備、警報設備など)を設置します。

試験湛水
 工事が完了したら、水をため、異常がないことを確認します。

【建設事例】
重力式コンクリートダム(→知識を深める:ダム建設工事(福智山ダム)
ロックフィルダム(→知識を深める:ダム建設工事(金峰ダム)

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] [12] 13 [14] [15] [16] [17] [18] [19] [20]