民主党政権の国土交通省大臣がほとんどのダムの建設を凍結すると宣言している。進行中の事業をストップするということは、これまで執行してきた予算がまったくムダになるということで、税金のムダづかいを徹底的になくすという党のマニフェストにまったく逆行している。
無駄なダムもあるのかもしれない。しかし、進行中の事業は、一つ一つ無駄でないことを証明した上で、法的手続きに則って予算措置をして進めてきたものである。 それを一大臣の思いつきで(まったく説明がないし、一つ一つの事業の内容を検討する時間などなかったのだから、思いつきとしか言いようがない)無効にするなど、法治国家の政治家のすることとは思えない。選挙に勝ったからといって、何でもかんでも思うようにしてよいという独裁権を得たわけではないことさえ、理解していないのだろうか。
法的手続きを経て執行している事業を止めるには、やはり法的手続きを取ってしかるべきであろう。進行中の事業を中止する法律が存在しないというのであれば、特別措置法なり何なりを作って、それに基づいて行えばよい。それが立法府の役割だろう。
完成するまでは、建設に時間がかかっていたため、今話題の八ッ場ダムと並んで、だめダムだなどといわれていた宮ヶ瀬ダムを見てみよう。 このダムは1971年に実施計画調査に着手し、2000年に完成している。ちょうど30年かかったわけだ。総事業費は3993億円。当初事業費は1700億円と見込まれていたから、倍以上に膨らんだわけだが、本格運用開始5年後の事後評価を見ると、年間135万人の人がこのダムを訪れ、洪水調節、水道用水の供給、発電に十分な効果を発揮し、洪水調節の費用対効果は事業費の増大にもかかわらず2.1となっている。発電は73400MWHの計画発電量に対し76000MWHという実績となっている。 すなわち、ダムの完成により事業の目的は十分に果たされており、また良好な環境を提供していることが、入り込み客の増大からも伺われる。水没者の生活再建も問題なく行われている。
宮ヶ瀬ダム 仮にこの事業を八ッ場ダムと同じような段階でストップしていたらどうであろう。水没地の河原で川遊びに来た人たちを相手に観光業を営んでいた人たちは、川から離れたはるか山の上に移転しているが、湖がないので、観光客など訪れない。ダムがないのだから洪水調節もなされないし、発電もできない。代わりに何かいいことがあるだろうか。何一つ思い当たることがない。ダムサイトには既設の砂防ダムがあって、もともと川は連続していないから、遡上する魚が増えるということもない。逆にダム完成後は維持流量が確保されたため、河口部のアユの遡上が増加したと報告されている。
八ッ場ダムとは条件が違うので同じことにはならないだろうが、今ダム工事を中止することによるメリットはほとんど考えられない。今まで行われている工事は、すべてダムを作ることによる影響を解消するためのものである。それがほぼ終わりかけているところで、効果を生むはずのダム工事のみを中止することにどんな意義があるのだろう。
(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)
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