《このごろ》
ダム随想 〜 水資源開発と八ッ場ダム (前編)

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 ダムによる水資源開発は、余っている時に水を貯めておいて、足りないときに足りない分だけを補給するという形で行われる。余っているとか足りないとかいうのは、各取水地点において実際に流れている水の量と、取水する量(水利権量)との差の合計である。水利権というのは早い者勝ちで、既得権が常に優先される。流域の水利用が進むと、余る量が少なくなり、足りない量(補給する量)が多くなる。同じ水量を開発するのに、より大きなダムが必要になる。結果として、開発水の単位水量あたりの単価は次第に高くなることになる。

 ならば、とりあえず水利権を取得しておいて、必要になったときにその権利を行使すればよいということになるが、日本の川の水は既に最小流量以上の水利権が設定されているので、ダムなどの施設を作って新たに開発するか、既得の水利権を振り替えするかしかない。

 振り替えるにしても、灌漑などの一定の時期に使用するものと、水道のように常時使用するものとでは等量というわけにはいかないし、使用していなかった期間に関しては何か補給をする施設が必要になることもある。

 水の手当ができてから使用するのが原則であるが、高度成長期などではそんなことは言っていられない。工場や住宅が先にできてしまい、需要のほうが先に発生してしまう。東京オリンピックの時がそうだった。世界中から人が集まるというのに、水が足りない。折からの渇水が重なり、東京砂漠とまで言われた。

 利根川の水を東京にもってくるために武蔵水路が建設され、新規水資源を早急に開発するため、水資源開発公団(現水資源機構)が設置された。水に関係する省庁は、当時の建設省、農林水産省、通商産業省、厚生省など多岐にわたり、個別に事業を進めるのでは効率が悪いからというのも設置の理由のひとつであった。

 この時、公団などという中途半端なものではなく、水省を作っていれば、その後の水行政の行方が違っていただろうと今でも残念に思う。日本の法律の作り方というのは礼儀正しくて、すでに存在する法律で取り扱われている事項については、そちらを廃止しない限り、新しい法律では取り扱わない慣例になっている。所管官庁のぶつかり合いや権限争いを避ける知恵かと思うが、その結果、国民にとって最も重要と思われる水に関するが法制が、所管官庁の多さのゆえに整理されていない。川の中の水と常に出入りしている伏流水の取り扱いなど、法的にはどうしていいのかわからないのである。

 話がそれたが、水資源開発施設が完成する前に水が必要な場合はどうするか。やむなく暫定水利権というものを設定する。豊水水利権ともいうが、文字通り、水があって取れる場合は取水してもよいが、足りなくても補給はしない、もちろん既得水利権はおかしてはならないという条件である。水資源開発施設は架空のものではダメで、確定したものでなければならない。


 八ッ場ダムは首都圏の都県に関して、その確定した水資源開発施設なのである。その水なくしては現在の水利用実態はありえない。なにがなんでも完成させなければ、今使っている水が使えなくなる。もともとダム建設を中止するという選択肢はないのだ。

(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)

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(H24.5.23、中村靖治)
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