ダムの高さなど,難しいことを言わなくても自明のことだと思うだろう。ところが実はなかなかに難しい。天端の標高は分かっているのだから,基礎の一番低い所の標高をそれから引けば高さになるはずだ。基本的にはそれでよいが,ダム敷の中で一番低い所であればどこでもいいかというと,そうではなくて,ダムの機能という点に着目して,止水線上で一番低い所と定義されている。止水線というのは,簡単に言えばカーテングラウチングの軸線だ。だから,コンクリートダムの中央部や堤趾部に低い所があっても,その値は採用しない。趾などという漢字はほとんど見かけることはないが,ほぼ直角三角形に近い重力ダムの断面を足の断面に見立てて,その爪先という意味だ。
これでもう疑義は生じないかというと,なかなかそうは行かなくて,カットオフがある場合はどうするのだという話が出てくる。カットオフというのはこのごろはあまり採用されないが,止水線付近の堤敷をある幅で掘り込んで,止水に万全を期そうというものである。その幅が広ければ,カットオフの底部を基礎掘削線と考えればよいが,幅が数mという薄いものの場合,グラウトカーテンとどこが違うのだという疑問が生じる。
こんなものは約束事だから,エイヤッということで,幅(カットオフの上下流方向の長さ)が10m以上ある場合は,その底部とするということにしている。カットオフは下すぼまりになっていることが多いから,上の方は10m以上あるが,底では数mになっていることもある。その場合は,カットオフの幅が10mになる所の標高をとるということにしている。
堤高日本一の黒四ダム(撮影:NAUTIS) これでコンクリートダムの場合はおおむね疑義が生じないはずであるが,フィルダムの場合はどうなるか。フィルダムの天端は設計余盛りや施工余盛りがあって,水平ではないし,土質遮水壁の場合はコアの上に保護層などというものが置かれるので,どこを天端としていいかが分からない。まあ,これも決めればいいことだから,計画上の非越流部高さを天端高とすることにしている。
遮水層の底部の岩盤を掘り込んで,通廊が設けられ,そこからカーテングラウチングが行われることが多いが,その場合,止水線の最低部は通廊の基礎ということになる。しかし,これはダムの形式の定義上,遮水層の最低部ということに決めている。
そんなこと何をごちゃごちゃ言う必要があるかということになるが,たとえばどっちのダムのほうが高いかなどというときに,大いに問題になるのである。まあそんなことは本質的なことではないといえばそのとおりであるが,決めておけばいいことは,決めておくほうが何かといいのである。そのほかにも,河川管理施設等構造令などの政令を適用しなければならないかどうかを判断する場合も,高さ15mというのが基準となっていて,いささか怪しげな設計というのがいいすぎであれば,斬新な設計をする場合に,構造令の適用を逃れるために,高さを14.5m程度に抑えたりすることもある。
ダムの高さという単純と思えることでも,詳しく見ていくと,いろいろと話題になることがあるものである。
(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)
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