《このごろ》
ダム随想 〜 宮古島の地下ダム

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 宮古島に行ってきた。沖縄本島と八重山諸島との間にある、小豆島よりやや大きな島だ。小豆島にはダムが9基もあるが、この島にはひとつもない。山や川がないので、ダムを作れないのだ。一番高いところで標高115mとされているが、独立峰ではなく、単に地形の高まりのようなところだ。それでも現地の地名ではミネという名前が付けられて、最高標高部が公園や宅地になっている。

 かわりに地下ダムが作られている。地下ダムは一時期非常に関心が持たれ、あちこちに作られたが、目詰まりを起こしたり、水質が悪化したりで、成功例はあまり多くない。水没地がなく、地表はそれなりに使えるし、ダムそのものの安定計算などほとんど不要なのだから、いいことづくめのように思える。しかし、いろいろと条件がむつかしく、意外に適地は少ない。


水位・水質監視用に地表に露出させた地下ダム

 宮古島の場合は奇跡的と言ってもいいくらい条件が整っている。まず琉球石灰岩という非常にポーラスな帯水層が島尻層群という難透水泥岩層の上に乗っている。地表に降った雨は全部琉球石灰岩層にしみこんでしまい、地表を流れることはない。だから、富士山と同じように川がない。しみこんだ水は地下水となって、島尻層群の上を流れる。だから地下水が豊富で、通常の水は地下水でまかなえる。

 宮古島は斜辺を北東に向けた直角三角形のような形をしている。その斜辺とほぼ平行に何本かの断層に区切られ、断層の南西斜面は緩やかで、北東斜面はやや立っている。底辺にあたる南の海岸の道路を走ると、そういう地形の繰り返しが見られる。基盤である島尻層群は南に向けて下がっており、この辺では海面の付近にその上面がある。つまり島尻層上面はこの付近では谷地形をなしており、海岸付近に遮水壁を設ければ、その上にある琉球石灰岩の層に水をためられることになる。

 谷地形をなしているのは地下ダムを作る上での必須条件ではないが、地上のダムと同じことで、谷地形を利用すれば、締め切るための地下連壁が短くて済む。まっ平らなところだと、四周をすべて囲わなくてはならないし、囲ったところから以外の水を取り込む工夫やあふれ出た水の行き先さえも考えなくてはならない。

 宮古島は極端なことをいえば、サトウキビ畑と海しかない島である。しかし川がないから、その海を汚染することが少ない。どこに行っても小さいながら綺麗なビーチが連なっている。サトウキビという作物も、水は大量に欲するが、肥料や農薬は他の作物に比べて使用量が少ない。そんなことでこの島の地下ダムは奇跡的にといえるほど上手くいっている。

 川がないから島内には橋がないはずだ。と思ったが、記憶の隅をチクチクするものがある。丹念に見ると、海水を引き込んだ運河や工場の排水溝の出口にはあった。小なりといえども、海の上の橋である。

 海の上の橋というなら、近くの来間島と池間島に渡る長い橋は既に2本あり、現在ただいま伊良部島に渡る3本目のものを建設中である。海が荒れても島に渡れることは、帰りの飛行機の時間を心配する旅行者には便利であるが、渡ってみてもやはりサトウキビ畑と海だけの島である。

(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)

(2012.3.30、中村靖治)
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