ダムの型式はどうやって選ぶのですかという質問をよく受ける。いろいろ比較して一番経済的なものを選ぶのですよと答える。でも選んだ型式が結果的に一番高くなるようですがねと付け加える。もちろんこれは冗談である。冗談ではあるが、嘘というわけでもない。
選んだ型式に対応した調査を進めていくと、それまで分かっていなかったことが次々発見され、それに対応するための費用が加算されていく。例えば基礎地盤の風化が思っていたより進んでいて、掘削量が大きくなるとか、破砕帯が見つかって、基礎処理費がかかるとか…。
調査の内容は選んだ型式によって異なる。重力とフィルでは、たとえダム軸が同じであっても、調査すべき範囲が異なるし、調査結果の評価も異なる。仮排水トンネルの位置も規模も異なる。フィルの場合は洪水吐きの調査も必要となる。コンクリート骨材の必要量は大幅に異なるし、盛立て材料はフィル特有のものである。
このような調査を併行して進める訳にはいかないので、ある段階からは想定した型式に基づいて調査する。調査が進むにつれ、こんなことなら別の型式のほうが良かったかと思われることもあるが、通常はそのまま進める。 当初の想定と調査結果とがあまりに違った場合は、改めて型式の比較を行う。違う型式のほうが安いという結果となることもある。だからといって、直ちに型式変更するかというと、必ずしもそうならない。
もともと型式による工事費の違いは1割程度のものであり、それが逆転したからといって、新たに調査をやり直す費用や時間、あるいは用地絡みの問題などあり、全体的に見れば、変更することが必ずしも得策とはならないからである。それがあまり例が多くないことや、冒頭の冗談につながるわけである。
それでも新たに発見された事象が、ある型式にとっては致命的な欠陥となる場合もあり、その場合は決然として変更を行う。致命的欠陥といっても、現在の技術をもってすれば、金と時間をかければ解決不可能ではないが、これまた、全体的に見れば得策ではない。
筆者の関係したダムでいえば、浦山ダムは河床部に軟弱層があり、フィルダムが適当であるということで調査が進められていたが、洪水吐きをどう配置しても大規模な地すべりの裾を払う形になること、透水性の高い岩盤の止水処理にはコンクリート重力式ダムのほうが適正があることなどから、コンクリート重力式ダムに変更された。
当初フィルダムで調査が進められた浦山ダム この場合は用地問題などかなり実害の伴う変更であったが、紙の上だけでのことなら、宮ケ瀬ダムでもアーチダムに変更しかけたことがある。宮ケ瀬ダムの左岸は70°という急崖で、そのままではコンクリートを載せられない。堅硬な岩盤を大量に切り取って勾配を調整しなければならない。しかも200万m3という大量なコンクリートが必要なことになっている。 これはアーチダムとしたほうがいいのではないかと概略設計したところ、右岸が比較的なだらかで左右非対称の地形であるため、アーチダムとしても100万m3のコンクリートが必要という結果がでた。これでは勝負にならないということで、今の形になっている。
(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)
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