《このごろ》
ダム随想 〜 流域平均雨量

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 ダム計画を立てるには、流域平均雨量というものを設定しなければならない。流域内あるいはその周辺にひとつしか雨量計がない場合は、話は簡単で、その値を基準に考えるしかない。複数の雨量計がある場合はいろいろな考え方があるが、何らかの形でそれぞれの雨量計の値に重み係数をかけて平均する。もっとも単純なのが、重み係数を等しくした単純平均であるが、平面的に見ればいかにももっともらしいティーセン分割法とか、等雨量線法などというものもある。


 もっともらしいものが正しいかというと、そんなことはなくて、流量データがあるところで検証してみると、恣意的に重み係数を設定する方法がもっとも真値に近いように見える。この方法は恣意的であるがゆえに、誰がやっても同じ結果になるということにはならないし、特別名前がついているわけでもない。

 恣意的といっても、ヤミクモに数値を決めるわけではない。まず降雨のパターンと流量データのパターンを見比べて、影響の大きそうな雨量計の値の重みを大きくして流出解析を行う。その結果を再び降雨パターンと見比べて、重みの値を修正していく。流出解析というのは降雨を流量に変換する作業のことである。

 ダムを河川の流量を測る装置と考えると、その精度は非常に高い。洪水時のピーク流量など瞬間値に関しては議論があるにしても、一定期間内の総流出量や年間総流出量などに関しては文句のつけようのない精度を持っている。そこで、流域平均雨量から算定される流出量と、ダムからの流出量を比べてみると、雪国のダムで多く見られることだが、ダムからの流出量が多いということが少なくない。これは流出解析法には関係なく、総量での話である。

 本来、流域内に降った雨は、地下に浸透したり、蒸発散が行われるため、全量が川に流出するわけではない。流出解析を行う場合は、損失雨量としてその分は差し引いている。それなのに、降った以上の流出があるというのはどういうことか――単純に流域平均雨量の算出方法が適当でないというだけのことである。雪国でこのようなことが多いのは、雪の量を正確に把握することが難しいのと、雨量計の配置が雪の少ないところに偏りがちなためだと考えられる。

 だから、このような場合、重みの合計を1とせず、1.1とか1.2だとかにする。そのうえで損失雨量は損失雨量として差し引く。なぜそんな面倒なことをするかというと、損失雨量は降り始めに大きく、徐々に減っていくという性質を持つものなので、流出波形に影響するからである。

 こう見てくると、世界各国の平均降水量は○○mmだなどといろいろなところに書いてあるが、どの程度信頼できる値なのかわからない。スペインの雨は主に平野に降るという言葉があるが(これは別に事実を述べた言葉ではないにしろ)、単に山の上に雨量計が少ないことを意味しているのかもしれない。

 わが国の年間降水量について言えば、少なくとも雪国のダム流域では今言われている数値よりも軒並み大きくなるものと考えている。これは各々のダムの実力にもかかわることなので、各ダムでぜひ検証してもらいたいと思う。

(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)

(2011.5.25、中村靖治)
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