《このごろ》
ダム随想 〜 ダムなしの治水

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 ダムなしの治水を考えるという。一見、それなりの考え方のように見えるが、これほどご都合主義の考え方はない。治水というのは、簡単にいえば、自分の住居その他の不動産や社会資本が水に浸かったり流されたりしないようにすることである。はじめから水の来ないところに住居を構えるのが手っ取り早いが、これは治水の対象にならないだけのことで、一般的には土地をかさ上げしたり、堤防を築いたりする。

 堤防というのは、真っ平らな土地に延々と作ろうとするとかなり厄介なものだが、川に面する山と山との間をつなげて囲ってしまえば、もうわが土地は水につからないというような場合なら話は簡単だ。こういう堤防は山付き堤という。山がなくても、自分のことだけ考えるなら、周囲を全部囲ってしまえばいいわけで、そのような場合は輪中堤という。これはワジュウテイと読む。堤防のどちら側が堤内かということが話題になるが、輪中堤であれば、疑問が生じることはない。堤防に囲われたところが堤内である。あとはそこから類推していけばよい。


 さて、これでこの地域の治水は完了したわけだが、今まであふれていた水はどこにいくかとなると、川に戻ってもらうしかない。あちらこちらに堤防ができると、今まで浸からなかった土地が浸水するようになる。既設の堤防をかさ上げする必要も出てくるかもしれない。

 このいたちごっこを永遠に続けるわけにはいかない。それで改修計画がたてられ、どういう手順でやるかという整備計画も作られる。どこかの地域の整備が進んだとたんに、他の地域の安全度が極端に落ちるということがあってはならないから、こういう場合、当然下流のほうから整備が進められなくてはならない。上流で氾濫を防止した流量は下流へ流れていかざるを得ないからである。

 これはよく考えてみると、始終浸水している地域の整備は、それより下流部の整備がすべて終わらないと手がつけられないということである。実際には力関係や地域ごとの資産の状況により、この原則どおりに整備が行われるわけではないが、原則の考え方は正しいし、本来遵守すべきものである。この原則を守ったまま、今現に水に浸かる地域を守ろうとする場合に、手段の一つとして考えられるのがダムである。

 ダムにより、現在浸水する地域の洪水量を直接減らして浸水を防除するという場合もあるし、浸水していた地域で氾濫するという形で引き受けていた洪水量を、下流に先送りすることなく、ダムで代替するという場合もある。激特事業などでは、改修する期間が限られているため、この手法がしばしば取られる。

 いずれにせよ、その効用が世界的に認められており、何千年という歴史を持つダムという施設を頭から排除するというのは、どういう感覚なのであろう。いいことずくめで他に何の悪影響も与えないなどという施設はありえないのに。情緒のみで、論理をもたない主張には気をつけなくてはならない。

 ダムはいろいろな効用を持ち、それも代替が利かないことが多いと考えられるのに、なぜこれほども嫌う人がいるのだろう。渓流釣りの釣り人にはもともと嫌われる立場にあったが、それでも仲良くする道筋はあるというのに。

(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)

(H22.5.11、中村靖治)
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