《このごろ》
ダム随想 〜 わからない言葉

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 「賦存量」という言葉を初めて見たのは、記憶によれば1970年代のことで、水資源白書(日本の水資源)の中だったと思う。知らない言葉だったので、辞書で調べてみたが出ていなかった。だいたい、賦という字自体、月賦(この言葉も死語になりかけていて、若い人にはローンの分割払いなどと解説しなければならないのだとか)あるいは賦役などという歴史的な用語でしかお目にかかれない。

 意味としては存在量あるいは現存量ということのようだが、なんのためにこんな言葉を使うのかが、今もってわからない。あろうことか、他部門でも真似をして、原石山の骨材賦存量などといいだす始末。土木地質の参考書を監修したときは、すべて存在量と書き換えさせた。

 一般用語で誤解が生じる恐れがない場合は専門用語など使うべきではないというのが私の考え方で、普通の辞書にない言葉は論文以外ではなるべく使わないようにし、どうしても使わなくてはならない場合は、注釈をつけるようにすることを原則とするようにしている。

 ところが、専門用語を使うのが専門家である証のように考える人もいるようで、ハゲ山といえば済むところを「トクシャ地」などという。トクは禿で、シャは赤という字の右に者と書く。どちらも当用漢字にはない字なので、カナで書かざるを得ないが、漢字なら見当が付いても、カナでは何のことか全くわからない。こんな言葉が施工管理技士の試験に出てくる。この言葉を知っていることも試験のうちと考えているようだが、こんな言葉を知っていたからといって、何の足しになるのだろう。仲間内の暗号のようなものではないのか。

 仲間内で暗号を使うなと言っているわけではない。ただ、それを世間に押し付けてはいけない。ジャーナリストもそのあたりを心得違いしているようで、「政局にする」などという妙ちきりんな言葉が新聞紙上に踊る。業界用語を知っていることで業界に詳しいと誤解するようにしむけているようで、不愉快だ。

 何にでも性をつければ偉そうに見えるか、はたまた、あいまいになるとでも思っているのか、方向性とか関係性とかいう言葉もわからない。性があるときとないときの違いを説明してほしいものだ。こういう訳のわからない言葉を検証する一つの方法は、外国語に翻訳してみることだ。そのうえでもう一度日本語に戻すと、言いたいことが正しく表現されているかどうか、かなりの程度、検証できる。


 ところで、カット写真に写っている設備を何と呼ぶか。ダム現場ではバッチャプラントと呼ぶのが普通である。カタカナで書くし、英語のように思えるが、英語としてはあまり見かけない。だいいち、コンクリートを製造する設備であるということをうかがわせる言葉が全く入っていない。

 なぜそんな呼び方をするのか、むかし先輩に聞いてみたが、バッチシステムでコンクリートを練るからだと教えられただけで、コンクリートプラントと呼ばない理由は教えてもらえなかった。その下にあるバンカー線も、よくわからない。堤に関係があるかとも思うが、バンカー線を盛り上げている現場などほとんど見かけないので、これも不思議である。

(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)

(2011.4.19、中村靖治)
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