福島原発の事故や浜岡原発の唐突な運転停止で、代替エネルギーとして、自然エネルギーが注目されている。不思議なことに、太陽光発電や風力発電についてはあれこれ論評されるのに、代表的な自然エネルギーである水力発電については、なんの話もないのは何かの陰謀だろうか。それともダムに頼らないなどといいだした手前、恥ずかしくて話題にもできないということだろうか。
G8サミット前のOECDの会議で、日本の首相が1,000万戸の屋根にソーラーパネルを設置するなどと訳の分からないことを口走り、あまりの訳の分からなさに相手にもされなかったようだが、日本の現世帯数からマンションに居住している世帯を除き、1戸に3〜4人が住んでいるとすると、これはほぼ全家屋ということになる。そんなバカなことを本気で考えているのだろうか。
こんな非常識な発言には真面目に対応することはできないが、日本の電気事業連合会のメガソーラー計画では2020年までに30地点で出力14万kW、年間発電量1.5億kWhが目標とされている。ただし、問題は発電コストがかかりすぎることで、そのほかにも、希薄なエネルギーをかき集めるために膨大な面積が必要とされ、その環境への影響についても、懸念なしとはしない。
これに対し、水力発電はどうだろうか。これまでも水力発電のポテンシャルを調べる包蔵水力調査が何回か行われているが、その一環として、新エネルギー財団による「未利用落差発電包蔵水力調査」という報告書が2009年3月に出されている。未利用落差発電というのは、既設ダムで発電可能でありながら発電に使われていないものを発電に利用しようというもの(PhaseT)と既設水路(用水路や下水処理水の放流水路)あるいは砂防ダムを流れる水と落差を利用して発電しようとするもの(PhaseU)で、コスト面を除けば大きな問題はないものと考えられる。
報告書に挙げられている数字は、全国1,397地点で、出力34万kW、年間発生電力量17億kWhというもので、メガソーラーによるものより、はるかに大きい。使われる技術は既に実用化されているものばかりで、なんの不安もない。
新たにダムを作るなどして開発する本来の包蔵水力(この報告書では「従来の包蔵水力」と呼んでいる)は、一部上記の数字と重複しているが、1,609地点、64万kW、27億kWhとなっている。別にメガソーラーなど持ち出さなくても十分に対応できる数字ではなかろうか。
御母衣ダム 水力発電は、大洋という巨大な蒸発皿から太陽エネルギーを使って天空に持ち上げられた水が再び大洋に戻る過程でそのエネルギーをいただこうというもので、太陽がある限りその循環は止まらない。砂漠の国でメガソーラーを検討するのは当然のことであろうが、起伏に富んでいて降雨量の多いわが国で、水力に目を向けず、密度の小さい太陽エネルギーや風力にうつつを抜かすのは技術者の発想ではない。
(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)
|