《このごろ》
ダム随想 〜 北朝鮮のダム

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 北朝鮮で高さ100mを超えるダムを3年で作った、という記録ビデオを見た。4月15日の金日成生誕100年行事に合わせるためだという。説明も何もなく、画像が写っているだけなので、よくわからないのだが、新旧さまざまな工法が入り交じって使われていた。RCDに見えるところもあれば、CSGに見えるところもあった。いずれにせよ、コンクリートをダンプトラックで打設現場まで運搬し、ローラで締め固めていた。

 下流面は据付(埋め殺し)型枠で階段状に施工されているように見えたが、上流面はスライド型枠によっている。ただ、その型枠は非常にお粗末なもので、ありあわせのバラ型枠を使ったような仕上がりだ。横継目が設けられているように見えなかったが、どうなっているのだろう。

 ダムは発電用のもので、延長30kmの水路で下流の発電所に結ばれている。この水路のライニングは非常に綺麗に仕上がっていて、ダムの上流面や堤内仮排水路の壁などと比べると、とうてい同じ施工者がやったものとは思えない。

 RCDにもCSGにも見えるというのは、外見上はまともに見えるコンクリートプラントが写っているにもかかわらず、他の場面ではベルトコンベア上でコンクリートのミキシングが行われているように見えるからである。どちらにしろ、これら日本の技術を指導に行ったという話は聞かないので、文献等により、独学で勉強したのであろう。

 このような場合、とかく外見だけを真似る結果になりがちなのが心配である。3年で完成させたということは、昨今の日本の施工状況から見ると驚異的に見えるかもしれないが、昼夜兼行、週休なしという条件であれば、佐久間ダムの例からして驚くことはない。重機の数量などから見れば、人海戦術の威力であろう。事実、掘削ズリの周りに重ならんばかりに人が群がって、多分骨材用であろう岩石の小割りをノミとタガネで行なっている画面もあった。


施工中の佐久間ダム

 ダム上流に水が溜まっている映像もあったので、一応の完成を見たのであろうが、前述のように横継目が設置されていないらしいこと、上流面のコンクリートが必ずしも十分な強度を有するかどうか疑問なことと、かの地の厳しい気象条件を考えると、どれだけの耐久性を持つのかに不安を覚える。

 早く国際社会に復帰して、国際的な技術のチェックを受けないと、貯水量2億m3を超えるような貯水池らしいので、他国への影響の有無にかかわらず、大事件になりかねない。
(カット写真にビデオからのキャプチャー画面を使おうかと思ったのですが、版権などよくわからないので、佐久間ダムの写真でお茶を濁すことにしました。ご寛恕を。)

[注]RCD:Roller Compacted Dam-concrete=スランプ0の超固練り・貧配合のコンクリートを振動ローラで締め固めるもので、重力ダムの内部コンクリートとして用いられる。近年は滑走路の舗装としても応用されている。
CSG:Cemented Sand and Gravel=粒度分布を厳密に規定していない砂と砂利の混合物にセメントを混ぜ、締め固めたもの。強度のばらつきが大きいので、抑え盛土や台形CSGダムの材料として用いられる。遮水性はないので、ダムに使用する場合は別途表面遮水壁が必要とされる。

(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)

(2012.6.20、中村靖治)
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