「今後の治水対策のあり方についての有識者会議」の中間とりまとめが9月27日に発表された。昨年12月に第1回の会議が開催されてから、12回にわたる会議がもたれての報告であるが、非常に良識的な内容であることにまず安心した。
何より与えられたテーマが「できるだけダムにたよらない治水」という、はじめから偏ったものだから、ダム屋としては心中穏やかではなかった。河川に関する有識者だから、今後はダムを造らないようにするなどという、とんでもない結論は出るべくもないとは思っていたが、他の委員会の例など見ると、必ずしも楽観視はできないと思っていた。
しかし、結果は長年ダム計画にかかわってきたものの目から見ても違和感がなく、むしろ、こういうことを取り入れることはできないだろうかと考えていたようなところまで、整理して取り込まれている印象を受けた。
この「中間とりまとめ」は意見募集後の修正案で73ページにもなるものであるが、中心は個別ダムの検証方法となっている。ここで検証の対象となっているダムは、特定多目的ダム法に基づく、あるいはそれに準じた手続きを経て事業化されているものであるから、どのダムも基本的にはこの検証をクリアできるものであるはずである。
「できるだけダムにたよらない」という限定が付いているから、当然代替案に重点が置かれることになるが、もともとダムを採択するには様々な代替案を検討したうえ、最適なものとしてダムを選定している。最終的な基本計画や全体計画に記載されていなくても、その過程抜きにダムを採択することなどありえないといっていい。
ただ、時代や社会情勢の変化により、新しい代替案を考えうるようになっていたり、評価基準が変わっているものもあろう。そういった部分を積極的に取り入れ、見直しを行えばよい。従来、専門家の目で診れば検討するまでもないとしていた案についても、できるだけ数値化して示す必要も出てこよう。
代替案の比較において、従来ともすればコストのみの比較に陥りがちだったものを、この「中間とりまとめ」では6項目にわたる「評価軸」を持ち出して、総合的判断を行おうとしていることは賞賛に値する。この評価軸については現在のところ数量化できないものも含まれており、実際の運用に当たってどのように適用するかの方法論については、今後の評価作業の中で詰めていくことになろう。
この「中間とりまとめ」に関するジャーナリズムの反応はどうか。報告書などまったく読まないで書いているのではないかと思われる典型的な記事が9月28日の一般紙のM新聞東京朝刊で、「治水対策:脱ダム、立案開始へ 事業検証手順を決定」という見出しのもとに、「コスト最重視でダム事業と比較する」などと書いてある。
こういうデマに近い記事が平気で横行し、それが世間の常識になり、マニフェストになったり、事業仕分けの根拠になったりして、世の中を混乱させるのは許せない。新聞記事など報道の評価基準がほしいものである。
(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)
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