ダム工学会と大ダム会議共催の現場見学会に参加して、韓国のクンナム(郡南)ダムとハンタンガン(漢灘江)ダムを見てきた。ハンタンガンは首都ソウルの中心を流れるハンガン(漢江)の支川イムジンガン(臨津江)の支川の名前だ。イムジンガンは流域面積5108.8km2で、その約2/3が北朝鮮の中を流れる。
イムジンガン本川の北朝鮮地域には5つのダムがあり、それらのダムからの放流により、下流の韓国地域にしばしば洪水被害が発生する。その放流を受け止めるのが本川に建設されたクンナムダムであるが、湛水線が北朝鮮地域に入らないようにという制約のため、十分な容量が取れない。
そこで、支川のハンタンガンにもダムを作り、両者あいまってイムジンガン下流部の洪水防御をするというのが計画の概要である。クンナムダムは私たちが見学に行った前日に竣工式典をやったそうで、ゲートのところには大きな大韓民国国旗が掲げられていた。貯水池内ではハンタンガンダムとをつなぐトンネルが建設中であった。
クンナムダムの流域面積は4191km2であるが、実にその97.4%が北朝鮮地域となっている。高さ26m、堤頂長658mという比較的小さなダムだが、貯水容量は0.7億m3もある。右岸側に回遊式庭園のような立派な魚道が整備されていた。
ハンタンガンダムは現在韓国初のRCD工法によるダムとして建設中のダムで、このダムも流域面積1279km2の1/3が北朝鮮地域となっている。筆者が初めて調査に入ったときは、ダムサイト直上流が軍事施設となっており、原石山の調査に行くには衛兵のチェックを受け、途中には戦車の掩蔽壕が並んで、緊迫感を覚えたものだ。演習の大砲の音なども聞こえ、これなら横坑調査には苦労しなくて済むななどと下らないことを考えた。
現在それらの軍事施設は貯水池外に移転中であり、現場に行く途中でも真新しい兵舎などを見かけた。現場に行けば分かることなのであるが、その位置などは機密ということになっていて、地図には載っていない。これは大統領府なども同じで、有名な青瓦台は市内地図には記載されていない。つくづく日本は平和だと思う。
施工中のハンタンガンダム ハンタンガンダムは完全な治水ダムで、高さ83.5m、堤頂長690m、貯水容量2.7億m3と日本と比べると羨ましいようなサイトだ。基盤は片岩であるが、右岸の段丘は厚さ2から5mの未固結層の上に乗る厚さ40mの玄武岩からなっている。この未固結層は当初からその処理が問題になっていたが、連壁のようなもので止水したようだ。止水のみで足りるかどうか疑問の残るところだが、議論する材料も時間もなかった。
現場に行くと、スリットの入った上流仮締切がそびえているが、カット写真に観るように本体はその手前にある低い部分だ。まだ最下段の洪水吐きの天井もふさがっていないので、RCDの現場の様相は呈していない。中段の洪水吐きには高圧ラジアルゲートが設置されることになっているが、これは韓国ではじめてのものだ。これまでは洪水調節も全てクレストゲートを操作して行うような設計がなされていた。 これが契機となって、コンジットの効用に目覚めてほしいと期待している。
(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)
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