洪水調節容量が大きい、いいかえれば洪水調節の利用水深が大きいダムでは、コンジットが設けられることがおおい。コンジットはconduitで、管路といえばすむようなものだが、通常はコンジットと呼ぶ。クレストゲートの敷高が洪水調節開始水位より低ければ、クレストゲートを用いて洪水調節後の放流を行うこともできるが、わずかな量の放流のために大きなゲートを操作するのは、余分な動力が必要となるし、流量制御の精度も落ちる。
そんなことで、コンジットなど標準装備の施設だと思っていたら、韓国のダムにはコンジットの付いているものがないという。確認はしていないが、確かに筆者の見た限りのダムには付いていなかったし、そういったのが韓国のベテラン技術者だから、多分間違いはないだろう。
韓国のDaecheong ダム コンジットが付いていない 韓国で新設ダムの設計を手伝った際、上記の理由のほかに、誤操作が生じた場合の影響がまったく違うから、コンジットを設置したほうがいいと主張したが、金がかかるという理由で却下されてしまった。何でも新しいことはまねをしたがるのに、この点に関しては妙に頑固だ。
それでいながら、排砂門は設置したがる。排砂門に関しては、日本の場合、設置してあっても、いざ閉めようとしたときに流木や土砂が挟まって、閉められなくなることを恐れて、ほとんど使っていない―したがって、最近のダムには設けられていないという実情をいって、設置しなくていいのではないかという意見を述べた。しかし、韓国の大きな川の河床は砂で構成されていることが分かった時点で、意見は撤回した。 ただし、水位を高く保ったままで排砂門を開けても、排砂門のまわりの砂がすり鉢状に排砂されるだけなので、水位を長期間にわたって下げる条件になければ、あまり役には立たないというコメントはつけておいた。
その後もいろいろ考えて、いつか―何百年後かもしれないが、排砂が必要になったときに、排砂門があることは非常にいいことなので、むしろ推奨することにしている(排砂門からの排砂が期待できなくても、水位を下げる仕掛けがあるということは何かと便利なので)。このとき、ほとんど動かすことがなく、また点検が非常にむつかしい条件にあるゲートを、どのような構造のものにしておくべきかについては、まだ結論が得られていない。
ゲート屋さんとも議論しながら標準的な設計をいくつか作ってみたいと思っているのだが、何しろ肝心のわが国で新しい設計がさっぱり出てこないから、その機会もない。昨今の状況というのは技術の継承の面でも大きな問題をはらんでいることになる。
国内で仕事がどんどん減っているから、海外で活躍するのはどうかという話が出るが、技術力あっての海外進出であり、その技術力を本国で培うことができないのであれば、相手国は何も日本の力を借りる必要はないということになり、技術の輸出もおぼつかないことになる。
自分の都合ばかり考えて、いいとこ取りしようなどという魂胆は通用しないと考えるべきである。また、技術の輸出に当たっては、相手国とわが国との条件の違いを考慮しなくてはならないことは、上に示した例からも推察できるのではないだろうか。
(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)
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