たまたま訪れたところの近くに施工中のダムがあったので、見学に行った。調査中から関係したダムなので、事務所に行けば案内してくれるだろうと思ったが、あえて一般の見学者の立場で見学してみた。
ダムサイト近くには定番の見学場所があり、資料館のような説明場所も設置されていた。ただし、説明者は常駐していないようであった。見学場所はダム軸のやや下流側で、堤体の三分の一くらいは地形の関係で見えない場所に設けられていた。
自慢ではないが、数多くのダムに様々な形で関係したので、説明を受けなくてもたいていのことは分かると思っていた。ところがこのダムは一緒に行った同年輩のダム屋ともども首をひねることばかりだった。あらかじめ勉強もしないで見に行くほうも悪いが、一般の見学者などそんなものだろう。
ダムの標準断面図やどこのダムに行っても書いてあるような計画の説明はあるが、今現在目の前で行われていることの説明がまったくない。下流面の外側に土を盛って工事用道路が設けられており、その向う側(左岸側)には土が貼り付けられているように見えるが、右岸側はすでに法面処理を終わっている石の法面そのままである。植生でも施すつもりなのだろうか。
その向うに見える洪水吐きの底面は階段状になっている。カスケード型の洪水吐きはあってもおかしくないが、示されている図面にはそのように書かれてはいないし、あまり見かけないタイプなのだから、それなりの説明があってしかるべきだと思う。
さらに上流に向かうと、貯水池横断橋と見られる施工中の橋のそばに、また見学場所がある。ダム屋としては、橋よりも河床に見えるコア材のストックヤードらしきものやら、ロック材かフィルタ材の仮置場のようなものが気になる。しかし、それについては何の説明もない。せめて、仮設備平面図と施工チャート図でも示しておいてくれれば、ある程度素養のある人にはわかるし、たまたまそこに来ている素人にも説明が可能であるが、なにもなければ、あまりいい加減な説明をするのもはばかられる。
ダムに限らず、土木工事の施工現場はおもしろいものである。機会があれば見てもらえるように、そして少しでもその構造物に親しみを持ってもらえるように、差し支えのない範囲で見学してもらえる場所を用意するのが、いまや定番といってよい。だからといって、形だけ整えて、心がこもっていなければ、かえって逆効果にもなりかねない。
見る人が何を知りたがるか、何に疑問を持つかなど、1回でもお客さんの案内をすれば分かるはずのことである。それにまず誠実に応えること。こちらのいいたいことを伝えるのはその後のことだ。工事中のダムの説明板と完成して水を湛えているダムの説明板が同じであっていいはずがない。
自分たちがやっている仕事を正確に伝えることで、その工事に関する世の人の支持を得られるはずである。そういう仕事をわれわれはやっているのだという自負を持っていると思う。どこもやっていることだから適当にやるというのではなく、まじめに広報してほしい。
(これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事の転載です。)
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