遥かなる木曾の谷間の牧尾ダムみなもとの水は田に張られたり 志水 孝
志水 孝著『歌集 愛知用水』(自費出版・平成18年)所収。作者は愛知県日進市在住、愛知用水土地改良区の組合員、農民作家である。
世紀の大事業といわれた愛知用水事業は、以前から干ばつや飲み水の不足に悩まされてきた知多地域の人々が、昭和23年愛知用水運動を開始し、木曽川の上流に水源となる牧尾ダムが築造され、岐阜県から愛知県の尾張東部の平野及びこれにつづく知多半島一帯に農業用水、水道用水、工業用水を供給するもので、昭和30年から昭和36年にかけて愛知用水公団(現・独立行政法人水資源機構)によって、施工された。
牧尾ダムは木曽川水系王滝川の長野県木曽郡王滝村、木曽町三岳地内に昭和36年3月に完成。その諸元は堤高104m、堤頂長264m、堤体積261.5万m3、総貯水容量7500万m3、有効貯水容量6800万m3、型式は中心遮水ゾーン型ロックフィルダムである。昭和59年9月14日に発生した長野県西部地震により、ダム湖内に大量の土砂が流入したため、その回復と周辺の災害防止を図る目的で、「牧尾ダム堆砂対策」事業が平成7年から平成18年まで実施された。
愛知用水の水は岐阜県八百津町の兼山取水口で、最大水量30m3/sが取水され、幹線水路延長112.1kmで通水されており、途中に愛知池、松野池、三好池が設けられ、さらに支線水路延長1063kmが張り巡らされている。また、昭和36年の通水から20年を経て、新たな都市用水の需要増加と水路等の老朽化に対処するために、愛知用水二期事業として水路施設の全面改築が、昭和56年度から平成16年度にかけて行われた。さらにその間、水需要増加対策のために愛知用水の新たな水源施設として、木曽川上流に味噌川ダム、阿木川ダムが建設された。
水利用の状況をみてみると、愛知用水の年間使用水量は、昭和38年度1.4億m3、平成17年度には4.6億m3と、3.3倍に増加している。一方農業用水と都市用水(水道用水・工業用水)の使用水量割合は、昭和38年度では農業用水65%、都市用水35%であったが、平成17年度では、農業用水23%、都市用水77%と、大きく変化している。当然、愛知用水の水利用は農業産出額、工業製造出荷額もまた増加を辿っている。
このように、愛知用水は先人の尽力が稔り、中部圏の文化と経済発展の大基盤を創り出した。牧尾ダム及び幹線水路は水資源機構が管理し、支線水路は可児土地改良区、入鹿用水土地改良区、愛知用水土地改良区がそれぞれ管理を担当している。この短歌のように中部圏の命の水を送り続けている愛知用水は、昭和36年の通水からまもなく50周年を迎える。
田植え終え愛知用水の有り難さ畔に座りて妻とかたりぬ 梅林で名高くなりし佐布利の地治水社知らぬ人の多かり 生涯を愛知用水建設に命を懸けたりし久野庄太郎
|