岩燕犇(ひし)めくダムの大斜面 柊 愁生 山襞(ひだ)の雪解水みな湖(うみ)に入る 山口波津女
二句とも、角川文化振興財団編『北陸・京滋ふるさと大歳時記』(角川書店・平成6年)の福井県九頭竜ダムの項に収められている。
福井県おいて、九頭竜川は最も重要な河川である。福井県の政治、経済、文化の発展の土台を九頭竜川が担っているからだ。九頭竜ダムはその上流福井県大野市長野に、起業者国土交通省・電源開発(株)の共同で、昭和43年に造られた。施工者は鹿島建設である。
ダムの諸元は、堤高128m、堤頂長355.0m、堤体積630万m3、総貯水容量3億5300万m3を誇る。型式は土質遮水壁型ロックフィルダムで、その目的は洪水調節と発電である。
JR福井駅から越美北線に乗って、一両のディーゼル列車は朝倉氏の一乗谷、水の都大野を過ぎ、やがて終点九頭竜湖に到着。ここから国道157号線を遡ると、ほどなく美しい、風格のあるアーチ式の鷲ダムに着く。さらに長野発電所と九頭竜ダムが右手に見えてきた。一目万本の桜並木の急な坂道を登りつめると、雄大な九頭竜ダムである。
九頭竜ダムを上池、鷲ダムを下池として、上池で落水し長野発電所で発電し、その使用した水は鷲ダムで貯め、また九頭竜ダムに汲みあげ、揚水発電を行っている。
ダムの高さは128mを誇っており、余水吐の真下、長野発電所から仰ぐとそのダムの大斜面が迫ってきて圧迫される。ダムサイト法面は大きな岩石で覆われている。そのあたりを岩燕が舞っている。岩燕は、ツバメ科の渡り鳥で、3月から4月にかけて飛来し、繁殖する。山地や海岸の切り立った岩場に集団で営巣するので、この名があり、ツバメよりやや小さい。九頭竜ダムの岩場に棲みついているのだろうか。次の句は、九頭竜ダム湖の周囲の山々から雪解水がダム湖に入る様を詠んでおり、雨だけてなく豪雪地帯は、雪が大きな役割を持っていることをうかがわせる。岩燕、雪解ともに、季語は春。
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