大鶴湖佳(よ)き名ぞつくつくぼうし鳴く 米谷静二 霧のダム鶴田の天の笛ひびく 脇本星浪 ダム壁を忍者の登る秋意かな 大野宏峰
これらの三句は、<師弟三人句碑>として、川内川上流に位置する鶴田ダムサイトに建立されており、次のように解説がなされていた。
米谷静二氏は鹿児島大学の地理学の教授として、各地の風土に学問と俳句の画面から光をあてたのである。<つくつくぼうし>は法師蝉のことだがダム周辺では、<オオツルコ、オオツルコ>と鳴く感じである。固有名詞にいのちを通わせた一句といえよう。
脇本星浪氏は俳句雑誌<朱欒(ざぼん)>を主宰し、再三にわたり鶴田の地を訪れている。鶴田から宮之城へかけての奥ゆきが、霧のダムの神秘的な情緒に結びついている。霧深い鶴田ダムの天空から、天然の笛の音が降りそそぐ感じである。昼にも夜にも通じる一句といえよう。
大野宏峰氏は鶴田町神子で精米業を営む。民俗研究者、ボランティア活動家、伝記作家、俳人など多様な活動をしている。ダム壁を登る忍者の影は、心眼によってとらえたふるさとの風景である。<秋意>は秋のこころ、秋のおもむきの意。
鶴田ダムは、昭和40年川内川の鹿児島県薩摩郡さつま町鶴田に完成。ダムの諸元は、堤高117.5m、堤頂長450m、堤体積111.9万m3、総貯水容量1億2300万m3、型式は重力式コンクリートダムで、治水と発電の多目的ダムである。平成18年7月の豪雨は、鶴田ダム下流の薩摩川内市、さつま町、上流の大口市、菱刈町、湧水町などに多大な被害を及ぼした。このため、現在発電容量と死水容量を洪水調節容量に振り替え、夏場の洪水調節容量を現行の7500万m3から9800万m3に増量する、再開発事業が施工されている。工期は成19年度から27年度の予定である。
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