《このごろ》
ダムをうたう(12) -小春かな-

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  灼けて居る湖底の村に父の声  室原清子

 この句碑は、下筌ダムの直下、熊本県小国町志屋地区に、平成14年4月に建立されている。

 私は、平成20年10月10日、筑後川上流の下筌ダムを訪れた。アーチダムの下筌ダムは満々と水を貯め、湖畔の蜂の巣公園にはコスモスが秋を装っていた。ダムサイトの右岸から杖立温泉へ向かって、天鶴隧道を過ぎると、左側に湖へ下る道があり、杉の美林の中にお茶の花とカボスの実が植わっている。

 まもなく赤い屋根の志屋神社が見えてくる。神社の東屋の片隅に、掲句の句碑があった。作者は室原新の二女清子とあり、下筌ダム建設の際、蜂の巣城を築き、国家と対峙した室原知幸の縁者であろう。神社から少し戻ったところに、「公共事業は 法に叶い 理に叶い 情に叶うものであれ」の真新しい碑があり、「信念に生きた室原知幸を偲び記念碑を建立する」と刻まれている。さらに記念碑の先に、杉林を背景に室原知幸の墓があった。あたりは静寂である。私は先ほど、道すがら手折ったお茶の花とカボスの実を飾り、手を合わせた。

 この地は松原ダムのバックウォターにあたり、眼前に下筌ダムの勇姿が立つ。ここはまた蜂の巣城が構築されたところでもある。昭和40年前後、激しく攻防を繰返したダム建設であったが、今ではその面影も失せ、静かに湖面を映す。

  下筌のダム満々と小春かな  大坪イツ子

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(2008.12.18、古賀邦雄)
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 (古賀 邦雄)
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