《このごろ》
ダムをうたう(23) -鳥たちの安らぎ-

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  色鳥や霧の晴れゆく相模ダム  中川冬紫子
  相模湖に吊橋うつり秋彼岸   園田渓邨

 山田春生編『新編 地名俳句歳時記』(東京新聞出版局・平成17年)所収の句である。色鳥、霧、秋彼岸ともに季語は秋。霧が消え、ダム湖の周辺の吊橋も徐々に視えてくる。その湖面にむかって鳥たちのさえずりも聞こえて来る。時間的には朝がたであろうか。


 平成22年10月、JR中央本線新宿駅から快速に揺られ、1時間ほどで相模湖駅に着いた。ダム湖の駅名は珍しい。甲州街道を横切って下ると、間もなく広々としたダム湖に出遭う。かもめの形の遊覧船がのどかに浮かび、ボートをこいでいる人も、ブラックバスの釣り人も楽しいそうである。

 相模ダム(相模湖)は、相模川の上流神奈川県相模湖町与瀬に位置する。堤高58.4m、堤頂長196.0m、堤体積17.4万m3、総貯水容量6320万m3、有効貯水容量4820万m3、型式は重力越流直線式コンクリートダムである。水道用水、工業用水、発電を供給する多目的ダムで、神奈川県の社会、経済、文化の発展に大いに寄与している。

 相模川河水統制事業によって、昭和15年に着工したものの、太平洋戦争で物資不足により一時中断を余儀なくされ、昭和22年に完成した。戦時中、労働不足で学徒動員、地元民動員のほか強制連行の朝鮮人、中国人捕虜の就労がなされ、22名の死亡者が出ており、その慰霊碑がダムサイトに建立されている。昭和32年、ダムの増強工事がおこなわれたが、この工事を含めて約160戸の水没により故郷を離れた人々がいることも記憶にとどめなければならない。

 平成23年現在、ダム完成後既に64年過ぎた。建設時の苦難と悲哀は湖底のなかに秘そみ、静かな湖面は山容を映し出し、鳥たちの安らぎのゾーンを醸し出している。

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(2011.3.7、古賀邦雄)
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 (古賀 邦雄)
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