《このごろ》
ダムをうたう(27) -こころ休まらず-

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  ダムに明けダムに暮れたる歳月はこころ休まることもなかりき 檜山貴久枝

 この歌は、奥津町編・発行『ふるさと 苫田ダム記念誌写真集』に収められている。苫田ダムは、吉井川上流の岡山県鏡野町久田下原の地に52年を経て完成した。ダムの関係者の一人である作者は、半世紀の間、ダムのことからひとときも離れずに、「こころ休まることもなかりき」と、その心情をつぶやくように詠んでいる。

 苫田ダムは、堤高28.5m、堤頂長225m、堤体積30万m3、総貯水容量7810万m3、有効貯水容量7810万m3、型式は重力式コンクリートダムである。
 移転家屋が504戸、土地取得面積が330haにものぼり、多くの方々がふるさとを離れざるを得なかった。ダム反対闘争は激しく、38年間の長きにわたって続いた。昭和28年の調査開始から漸く平成17年に完成した。


 平成23年12月4日、私は初めて苫田ダムを訪れた。JR岡山駅から津山線にて終点津山駅で降り、国道179号線を吉井川沿いに上っていくと、水没移転者の新しい家屋が見えてきた。ほどなく苫田ダムの鞍部ダムに達し、苫田ダムの湖面に出合う。湖岸道路沿いに入ると、浮島が浮かんでいた。そこを過ぎ、広場に団結の碑があった。ダム湖を一周してみると、苫田ダムはどこから眺めても威圧感がないし、道路の凸凹もないし、荒廃地も見えてこない。橋と道路と湖面が一体のような不思議なダムの風景がそこにあった。目線を極端に見上げることもなく、見下げることもないダム空間だった。


 同書には、さらに、この作者による三つの歌が掲載されている。

  一等田地と言われし田さえ荒れゆきて淋しさまさる渓の歳どし
  立ち退きし人らと寺に出合いして去るも残るも身を案じ合う
  農を捨て家を焼き捨てふる里をい出ゆく人と残る吾らと

[関連ダム] 苫田ダム
(2011.12.14、古賀邦雄)
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 (古賀 邦雄)
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