限り無き未来え継なぐ故郷は唯水没の二字と消え行く 山口宣子
「はたせ」記念誌発行委員会編・発行『はたせ−故郷を偲んで−』(平成9年)に所収。 人生は生老病死といえども、三つの坂があるという。上り坂、下り坂、そして真坂に出くわす。水没者にとっては真坂、ダム建設によって、故郷は湖底に沈み、故郷を永久に失うこととなるとは。その何ともいえない、哀しさはこの歌のように現れる。作者は、現在佐賀県嘉瀬川に建設中の嘉瀬川ダムの水没者の一人である。
嘉瀬川ダムは、国土交通省によって、左岸佐賀市富士町大字小副川、右岸同大字畑瀬地点に、平成23年3月の完成に向けて建設が進んでいる。その諸元は堤高97m、堤頂長460m、堤体積100万m3、総貯水容量7100万m3、有効貯水容量6800万m3、型式は重力式コンクリートダムである。ダムは、洪水調節、流水の正常な機能の維持、灌漑用水の補給、都市用水の供給、発電の5つの目的をもっている。主なる補償は水没面積310ha、水没戸数160戸、水没農地106haとなっており、水源地域対策特別措置法に基づくダム指定を平成4年1月24日に受け、平成7月1月には損失補償基準妥結調印を終え、水没者は佐賀市内等に移転した。
数々の思い出残せし故郷の水となりゆく運命悲しき 嘉村みね子
数々の想い出残す故郷を失くす辛さは、一般の人にはなかなか理解できない。
鶯のさへづり筧の水の音故郷の朝の目覚め清しき 光野和子 故郷の山河の緑ダムとなり去りゆく人ぞ悲しき 納富賢智 ダムの為移転せざる得ぬ我が家せめて息子の職場近くに 畑瀬キタミ
ダムに沈みいく清らかな山河の愛惜はつのるばかりであろう。これからの生活が豊かで、幸福でありますように。
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