《このごろ》
ダムをうたう(35) -奈良俣ダム-

→ 「このごろ」一覧   → 「このごろ」目次
 
   雪より静かな奈良俣ダムの真昼
   悪沢岳と至仏山と雪の湖守る
    金子兜太

 二句とも『利根川 322キロの旅』(上毛新聞社・平成9年)のなかの「利根川吟行」に掲載されている。作者は、日本を代表する俳人、現代俳句協会会長。奈良俣ダムを次のように描写する。それをそのまま引用する。

 「須田貝のTEPCC電源PR館の簡潔な館内で一休みしたあと、楢俣川沿いの山道を遡って白雪のなかの奈良俣湖へゆく。ダムも同名の奈良俣ダム。石と土で積み上げて造ったロックフィルダムで、高さ百五十メートル。堤上の天端歩道から見下ろすと、ダムは冬の光をいっぱい吸い込んで、牡蠣の肉のようにつやつやと白っぽく盛り上がっていた。じつに柔らかい。それが雪の湖の藍青を堰とめていて、景全体の色調、瀟洒。
 東の空を眺めると、二千メートル級の至仏(しぶつ)山と悪沢(あくざわ)岳が少し距離をおいて並んでいるではないか。仏と悪が協力してダムを守っているのだ。」

 作者は、宇宙空間を浮かべさせるような大きな背景の中で、雪の奈良俣ダムを自然体で的確に詠む。俳句は世界で一番短い文学といわれるが、まさしく俳句の力を見せつけてくれるダムのうたである。


雪の奈良俣ダム(提供:奈良俣ダム管理所)

[関連ダム] 奈良俣ダム(元)
(2013.11.8、古賀邦雄)
【 関連する 「このごろ」「テーマページ」】

 (ダムをうたう)
  [こ] ダムをうたう(1) -ダムの底-
  [こ] ダムをうたう(2) -雪に眠る-
  [こ] ダムをうたう(3) -ダム湖に浮かぶ湖上駅-
  [こ] ダムをうたう(4) -湖底の村-
  [こ] ダムをうたう(5) -慰霊碑-
  [こ] ダムをうたう(6) -東京沙漠-
  [こ] ダムをうたう(7) -感謝をこめて-
  [こ] ダムをうたう(8) -水源祭-
  [こ] ダムをうたう(9) -静寂な湖面-
  [こ] ダムをうたう(10) -戻れない故郷-
  [こ] ダムをうたう(11) -補償交渉の精神-
  [こ] ダムをうたう(12) -小春かな-
  [こ] ダムをうたう(13) -春の光をあびて-
  [こ] ダムをうたう(14) -未来を信じて-
  [こ] ダムをうたう(15) -ああ黒部川 第四発電所-
  [こ] ダムをうたう(16) -感謝の水・愛知用水-
  [こ] ダムをうたう(17) -故郷への回帰-
  [こ] ダムをうたう(18) -ダム竣工を祝う-
  [こ] ダムをうたう(19) -渡鳥さえ巣は恋し-
  [こ] ダムをうたう(20) -県を分かつ-
  [こ] ダムをうたう(21) -補償妥結の寂しさ-
  [こ] ダムをうたう(22) -大井川上流へ-
  [こ] ダムをうたう(23) -鳥たちの安らぎ-
  [こ] ダムをうたう(24) -風薫るダム-
  [こ] ダムをうたう(25) -大斜面を仰ぐ-
  [こ] ダムをうたう(26) -ふるさとが映る-
  [こ] ダムをうたう(27) -こころ休まらず-
  [こ] ダムをうたう(28) -さくら吹雪-
  [こ] ダムをうたう(29) -大鶴湖と鳴く蝉-
  [こ] ダムをうたう(30) -水を巧みに捌く-
  [こ] ダムをうたう(31) -渡る老鶯-
  [こ] ダムをうたう(32) -オスプレイ-
  [こ] ダムをうたう(33) -下久保ダム-
  [こ] ダムをうたう(34) -耕す-
  [こ] ダムをうたう(36) -ダム灼くる-
  [こ] ダムをうたう(37) -四季の風光-
  [こ] ダムをうたう(38) -鏡ダム-
  [こ] ダムをうたう(39) -新区画ダム-
  [こ] ダムをうたう(40) -滝沢ダム-
  [こ] ダムをうたう(41) -奥利根水源憲章の歌-
  [こ] ダムをうたう(42) -下筌ダム-
【 関連する ダムマイスター の情報】

 (古賀 邦雄)
 「このごろ」の関連記事(55 件)
 「テーマページ」の関連記事(159 件)
ご意見、ご感想などがございましたら、 までお願いします。