雪より静かな奈良俣ダムの真昼 悪沢岳と至仏山と雪の湖守る 金子兜太
二句とも『利根川 322キロの旅』(上毛新聞社・平成9年)のなかの「利根川吟行」に掲載されている。作者は、日本を代表する俳人、現代俳句協会会長。奈良俣ダムを次のように描写する。それをそのまま引用する。
「須田貝のTEPCC電源PR館の簡潔な館内で一休みしたあと、楢俣川沿いの山道を遡って白雪のなかの奈良俣湖へゆく。ダムも同名の奈良俣ダム。石と土で積み上げて造ったロックフィルダムで、高さ百五十メートル。堤上の天端歩道から見下ろすと、ダムは冬の光をいっぱい吸い込んで、牡蠣の肉のようにつやつやと白っぽく盛り上がっていた。じつに柔らかい。それが雪の湖の藍青を堰とめていて、景全体の色調、瀟洒。 東の空を眺めると、二千メートル級の至仏(しぶつ)山と悪沢(あくざわ)岳が少し距離をおいて並んでいるではないか。仏と悪が協力してダムを守っているのだ。」
作者は、宇宙空間を浮かべさせるような大きな背景の中で、雪の奈良俣ダムを自然体で的確に詠む。俳句は世界で一番短い文学といわれるが、まさしく俳句の力を見せつけてくれるダムのうたである。
雪の奈良俣ダム(提供:奈良俣ダム管理所)
|