錦秋をダムに映して湖上駅 森田祐次
有馬朗人他編「水の一句」(角川書店・平成15年)所収。俳聖・松尾芭蕉のふるさと、俳句のくにづくりに取り組む三重県が「水」をテーマとした全国俳句募集を行った。その入選作の一句である。
作者は静岡県川根町在住とあるから、このダムは大井川上流に造られた長島ダムである。昭和初期、大井川流域のダム建設のために大井川鉄道が敷設された。昭和34年井川ダム完成を機に一般鉄道に変わり、今ではSL鉄道で知られ観光客でにぎわう。駅名には塩郷、千頭、奥泉、長島、井川とそのままダム名もみられ興味をひく。
列車はアプトいちしろ駅から巨大なコンクリートの要塞が眼前に迫り、まもなく長島ダム駅に着く。駅舎は白い壁、三角屋根、尖塔の時計台などアルプスの雰囲気を醸し出す。それから2キロ程先にレインボーブリッジのなかの奥大井湖駅に着く。
ダム湖に浮かぶ駅は全国的に珍しい。ここからの眺めはまるでメルヘンの世界へ誘い込むようだ。この句のように四季を映し出すダムの水景美は、誰もが感嘆する。
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