《このごろ》
ダムをうたう(13) -春の光をあびて-

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   春光にダムの巨体を仰ぎけり  田代信雄

 九州電力椛獄ア部編・発行『湖底に祈る・一ツ瀬ダム建設の記録』(昭和39年)に所収。
 九州電力鰍ヘ、宮崎県一ツ瀬川の上流に、社運をかけて一ツ瀬ダムを昭和38年に完成させた。ダムの諸元は堤高130m、堤頂長415.62m、総貯水容量26131.5万m3、型式は可動堰付越流アーチ式コンクリートダムである。施工者は鹿島建設(株)で、工事費は196.15億円を要した。水没移転家屋355戸に及ぶ。ダムサイト左岸に工事で犠牲となった尊い41名の慰霊碑が建立されている。

 一ツ瀬ダムは、一ツ瀬川の本流と支流岩井谷川、湯ノ片川、尾八重川、打越川の各河川からの取水を合わせて、ダム上流約200mの右岸取水口から延長2.7kmの導水路で、一ツ瀬発電所に導き、最大出力18万kw(常時1万9100kw)の発電を行う。

 作者は、一ツ瀬ダム建設所長であり、この書のなかで「工事の思い出」として、次のことを挙げている。
@ 昭和34年の終り頃に、フランスのマルパッセのアーチダムが破壊して、大変なショクを受けたこと。
A 36年に政府の所得倍増計画に刺激され、物価と特に労賃が高騰し、労務者が不足したこと。
B マルパッセの影響もあり、コンサルタント、ジーコ氏の勧告を入れて、ダムの安全に一段と留意したため、コンクリート量10万m3を増加して、工程が大変苦しかったこと。さらに、川床断層がコンクリート打設直前に発見され、その処理に手間取ったこと。

 このように、一ツ瀬ダムは幾多の困難を乗り越えて竣工した。完成の根底には、我が国の高度経済成長期における電力需要に対応するという、社会的使命感があり、それが貫かれたからであろう。その巨大なダムに春の光がやさしく射している。ダム建設所長として、責任を果し、その安堵感に満ち満ちている句である。

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(2009.2.6、古賀邦雄)
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 (古賀 邦雄)
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