室原知幸が志向する真の民主主義とはどのようなものがあったのか。 強制執行を目前にして日田市で開かれた講演会で、彼は次のように語り始めている。「わたしの民主主義という解決は、情に叶い、理に叶い、法に叶い、こういう三本立てであります。で、建設省、いかに大きな屋台であると致しても情けを蹴り、理を蹴り、法までも押しまげて来るというならどんな強力な力を持っていようともこのじじいはその奔馬に向かって痩せ腕を左右に差し延べて待ったするのであります」(中略)昭和39年6月蜂の巣城落城後3日後にその心境を語っている。「法にかない、理にかない、情にかなう、これが民主的なやり方でそれを破った建設省を歴史の審判が許すはずがない。いやしくも国家がやる事業は裁判が確定してやるべきだ。それがダム建設事業認定無効確認の訴えにせよ、収用裁決取消の訴えにせよ、裁判はまだ進行中で、なにひとつ片づいていないのに既成事実だけで押してきて、あとは金銭で片づければいいというのはあまりに官僚的で、だれが考えても筋が通らぬ」
公共事業を行う者は関係住民に法の遵守を主張すると共に、自らも関係諸法制度を正確に認識し権限の行使、義務の履行を誤ってはならない。地質の悪いこの地域にダムを造ることは玖珠川水系にダムを考えず大山川水系のみに二つのダムを造るのは理にあわない。水没住民の生活再生に対する十分な配慮なしに工事を強行するのは情に反する。
「多目的ダムの建設を目的とした事業認定でありながら基本計画の成案すらなく、土地収用法の事業認定を行った被告の処置は不当の識を免れないが、事業認定の効力が争われている本訴では基本計画の未定からくる本件事業計画中の発電効果の不確定等の不備はあるけれどもそれをもって土地収用法第20条各号の要件の具備を否定させるに至るものとはいい難く、本件事業認定に当然無効又は違法として取り消すほどのかしがあるとは解されない。 なお、原告等の違法として主張する地質上の諸問題、計画高水流量のとり方、ダムサイトの選定その他本件事業計画の技術的欠陥不合理性等についてはその多くは技術的、合理的見地から起業者の自由裁量に親しむ余地が多分に含まれており、当、不当の問題とはなっても裁量権の濫用と認める証拠のない本件では当然無効又は取り消すべきかしがあるものとは認められない。」