A 流水の正常な機能の維持 猪名川沿岸の既成農地に対する灌漑用水のほか、魚族保護、河川景観など流水の正常な機能の維持を図る。そのために、虫生地点で灌漑期最大2.724m3/s、非灌漑期1.10m3/s、軍行橋地点で灌漑期最大3.103m3/s、非灌漑期1.10m3/sを確保する。
B 水道用水 兵庫県水道用水として、尼崎市、宝塚市、伊丹市、川西市、猪名川町に対し、あわせて1.922m3/s、池田市水道用水として0.365m3/s、川西市水道用水として0.116m3/s、豊能町の水道用水として0.097m3の合計2.50m3/sの供給を行う。これによって約50万人〜60万人の水道水供給が可能となった。
C 発電 ダム管理用発電として、副ダム下流左岸地点において、発電設備を設置し、最大使用水量4.0m3、最大有効落差をもって、出力1,900kWの発電を行う。
A 用地調査立ち入り(二代所長下平典夫) 「地形測量が終わり、どうしても用地調査にはいっていかなければいけない。ところが用地調査に入れてくれ、と言うと「調査する前に補償単価を言え」と。そんな単価が言えないのですが「そんなことでは用地調査をさせるわけにはいかない」と。……そんなこともあって、調査に入らせてもらえるまで半年かかったわけです。」 「代替宅地の決定で用地交渉が前進しました。結果的には昭和49年に等級合意までやって、50年の1月に基準発表という段階になりました。ちょうど49年、50年というのは石油ショックで予算的に抑制される時期でございました。これで本当に補償交渉をやっていいのかな、ということで妥結するためには資金を用意しなければならない。」(昭和50年8月一庫ダム補償基準妥結調印) 「補償妥結までのところで、移住地とかいろいろな要件のなかで、公団にというだけでなく県、市への要求なんですが、知明山の開発というのが前から話がありまして、ゴルフ場を国崎のところに一つと、知明山に一つもってきてくれというような要求になりました。移住地は決まっていましたから、芝の手入れだとか、水撒きだとかキャディさんだとか、将来の生活につながるという意味で要求するんだということでした。(ときわ台カントリーの開設)」
B 上流からトンネル掘削(三代所長服部政二) 「仮排水トンネルの掘削に入ったわけですが、これも特筆すべきことかもしれませんけれども、上流から掘ったんです。本来、下流から掘っていくのが常道なんですが、たまたま一庫温泉さんの音の問題がありまして、下流から掘ると音が直接こっちに来るわけです。それから下流にもその他の家がいくつかありますので、なるべく御迷惑をかけないという考えのもとに、ちよっとこれは冒険だったかもしれませんけれども、上流からトンネルを掘っております。実際には出水がなくてトンネルは助かって順調に掘れたということです。それが昭和52年9月に貫通しました。」 また、服部所長は、仮設備の位置をダム上流側の引っ込んだ所に設置した。それについて、「そうすると音の問題から、粉塵の問題から、いろんな公害面が緩和できるということがありました。そのかわりベルトコンベヤーが長くなりました。」また、一庫ダムの基礎処理は透水性のかなり高い部分が存在したため、入念に行われた。特にコンソリデーショングラウト工において、基礎岩盤の均一化のみでなく、透水性の改良も配慮され、基礎処理の延長は約50,000mに達したという。
C 白鳥を守りながら試験放流(四代所長桶谷明憲) 「実は小戸井堰は以前から問題がございまして、ダムをつくったために井堰の上流が堆砂したのではないか。したがってダムのせいだから公団で土砂を撤去せよ、というような話が出てきたわけです。うちではご存じのとおり濁水も流していないし、掘削土も全部外に運び出している。そういうことは到底できない、ということで御理解を得まして、兵庫県で浚渫していただいたわけですが、そこに白鳥が住んでおりましたので、最上流の洲だけ残したわけです。ところが今度は放流試験をするということになると、その白鳥が流されるのでは。たまたま昆陽池から飛んできた白鳥のつがいでございますが、恋の逃避行をしてその愛の結晶が巣の中に卵として残っているわけです。いかにして白鳥の巣を守るかが問題になりまして、最終的には、川西市も一緒になって白鳥の巣を守ろうじゃないかということになり、堰の水位を嵩上げしていたものを取り払って水位を下げて、放流しても巣が流れないようにしたわけです。これは一時騒がれまして……」
D 湛水試験の結果(五代所長大西健彦) 「本来ならば1日に20pあるいは30p程度の水位を降下させていくわけですが、1日に2mの降下を2日連続やりまして、2日間で4m下げる。これはどういうことかといいますと、将来、洪水があってサーチャージ水位まで水位が上がった時に、次の洪水を迎えるまでに制限水位までさげなければいけないわけですが、ほぼ1週間あればなんとか次の洪水に間に合うだろうという前提のもとに、1日2mで1週間で14mということで、149mから135mまで1週間あったら下げられるようなことを考えまして、1日2m、2日連続でやりまして、貯水池の各地区の地滑り等を調査したわけでございます。その結果は、お蔭さまで急降下の水位低下に対しての地滑りという挙動はほとんどありませんでした。」