これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事を一部修正して転載したものです。著者は、古賀邦雄氏(水・河川・湖沼関係文献研究会)です。
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◆ 1. トンネルの中には女性は入れない
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ダム建設では、トンネル工事は欠かせない。古くから危険が伴うトンネル工事に女性は入れないと言い伝えがある。なぜなのだろうか。一つの説として、金子毅著『インフラの源流はダム−馬の背の日本列島は降雨を貯えろ!』(埼玉新聞社・平成21年)に、次のように述べてある。
「トンネルには、上から岩盤の圧力がかかり押し潰されるので、その対策として支保工という枠(古くは松材、近年は鋼材)を組んで潰れないようにして工事をするが、大きな圧力が掛かるときしみ、ピシュピシュと割合高い音がする。これは崩壊する前兆であり、危険を知らせているのだ。職人はそれをいつも頭に入れ工事をする。この割合高い音が、女性の声の高いのに似ていることから女性を避けるようになった。」とある。 |
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『インフラの源流はダム−馬の背の日本列島は降雨を貯えろ!』 |
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『奈良俣ダム工事誌』 |
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トンネルを掘り進んで最後は穴が抜ける。その最後の石が実は「安産の石」と言われる。その昔、神功皇后が三韓征伐のとき、かの地で敵を攻めあぐみ、そのとき間道に洞があり、三日三晩不眠で掘り続け、洞を貫き敵の背後より攻め大勝する。その記念に貫通の石を持ち帰り、角鹿地に上陸。御自ら産気づき、記念の石を並べて休んだところ、すこぶる安らかに男の子を出産された。これより隧道貫通点の石を「安産の石」と称し、珍重されているという。 ダム建設にはトンネル工事は多い。トンネル貫通点の石が「安産の石」になるとは驚きであり、それが古代時代まで遡り神功皇后と繋がってくるとはまた、興味がつきない。土木はそういう意味ではロマンに満ちている。
この書の著者金子毅氏は、昭和37年建設省(現・国土交通省)に入省し、その後水資源開発公団(現・水資源機構)に移り、ダム、堰の調査、建設、管理に携わった技術者である。荒川水系の二瀬ダムをはじめ、浦山ダム、滝沢ダム、利根川水系の下久保ダム、奈良俣ダム、矢木沢ダム、淀川水系の室生ダム、高山ダム、青蓮寺ダム、比奈知ダム、琵琶湖総合開発、利根川水系の利根大堰、秋ヶ瀬堰の現場を歩き、貴重な体験から、ダム造りの神髄に迫っている。「ダム造りの原点は水没者との対話から」という。
また、この書に金子氏が奈良俣ダム所長時代、群馬県水上町の山田節子町長から「所長さん奈良俣ダムを日本一のダムにしてね。波及効果が町を賑やかにしてくれるのよ」と要請されたことも記されている。ダムが水上町の町おこしに一役買うことになろうとは。では、奈良俣ダムは一体どのようなダムであろうか、水資源開発公団奈良俣ダム建設所編・発行『奈良俣ダム工事誌』(平成3年)から、そのダム建設について、追ってみたい。
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◆ 2. 奈良俣ダムの建設
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奈良俣ダムは、治水、利水上の要請から利根川上流多目的ダム群の一つとして立案された。平成3年、利根川水系楢俣川の群馬県利根郡水上町大字藤原字洗の沢、同大字藤原字楢俣地先に、水資源開発公団によって建設された。同時に水の有効利用を図るため、楢俣川に隣接した湯ノ小屋沢川から最大10m3/sの水をダム貯水池に導くための取水堰(ゴム引布製起伏堰)と導水トンネルが造られた。奈良俣ダムはダムサイト付近から採取される岩や土を盛立てて造られた。ダムは、水をせき止める役目をする遮水性の高い土(コア)とダムの安定性を支配する岩石(ロック)およびコアの細粒分の流出を防ぐ役目をする細粒岩石(フィルタ)から構成されている。
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ダムの諸元は堤高158m、堤頂長520m、堤体積1,310万m3、堤頂標高896.0m、総貯水容量9,000万m3、有効貯水容量8,500万m3、型式は中央遮水壁型ロックフィルダムである。施工者は鹿島建設、熊谷組、日本国土開発である。事業費は1,352億円を要した。
奈良俣ダムは、昭和44年に予備調査を開始し、22年を経て、平成3年に完成したが、その主なる建設経過は次の通りである。
昭和44年4月1日 予備調査開始 48年6月14日 奈良俣ダム計画調査に関する覚書(水上町・関東地建) 49年3月26日 利根川水系における水資源開発基本計画の変更(奈良俣ダム追加) 7月1日 水上町に奈良俣ダム調査所開設 7月16日 水上町に奈良俣ダム対策委員会発足 52年8月31日 奈良俣ダム建設に関する基本協定締結(水上町長・奈良俣ダム調査所長) 53年5月29日 奈良俣ダム建設事業実施方針指示 6月1日 奈良俣ダム建設所発足 12月 藤原上区共同林野組合と天恵物補償締結 54年1月30日 前橋営林局長と「奈良俣ダム国有林野内における建設工事に関する協定書」を締結 55年1月18日 ダムサイト周辺の保安林解除申請 3月24日 水上町と「ダム本体工事について」協定書締結 4月25日 保安林解除の告示 6月26日 十条木材(株)と補償契約締結 11月26日 水上町長と「工事用道路に関する協定」締結 12月20日 利根漁業組合と「漁業補償」契約 56年1月16日 奈良俣ダム建設工事契約 5月1日 仮排水トンネル工事着手 57年5月19日 奈良俣ダム起工式 58年10月15日 ダム本体盛立開始 59年7月4日 奈良俣ダム定礎式 61年10月15日 群馬県企業管理者と「奈良俣ダム利水放流設備及び奈良俣ダム発電所取水設備 に係わる共用施設並びに発電専用施設の建設に関する基本協定」締結 63年6月6日 ダム本体盛立完了 10月4日 奈良俣ダム試験湛水開始 平成3年4月1日 奈良俣ダム管理所発足 6月22日 奈良俣ダム試験湛水完了
奈良俣ダムは、管理段階に移行し、すでに20年を経ている。
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◆ 3. 奈良俣ダムの目的
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奈良俣ダムは、次のように4つの目的を持った多目的ダムである。
@ 洪水調節 利根川本川の洪水調節は、基準地点八斗やった島じまにおける基準高水のピーク流量を22,000m3/sとして、上流ダム群により6,000m3/sとするように計画されている。奈良俣ダムはこの一環として、洪水期(7月1日〜9月30日)において、標高881m以上の貯水池容量1,300万m3を利用して、ダムサイトにおける計画高水流量370m3/sのうち360m3/sを調節する。
A 流水の正常な機能の維持 標高800m以上の貯水池容量のうち、洪水期にあっては、250万m3、非洪水期にあっては1,550万m3の容量を利用して、利根川の既得用水の補給等、流水の正常な機能の維持を図る。
B 新規利水 (イ) 農業用水 千葉県の東総用水地区の農地に対する灌漑用水として、毎年4月26日から9月30日までの間において、平均0.69m3/s、毎年10月1日から翌年4月25日までの間において、平均0.08m3/sを供給する。 (ロ) 水道用水 800m以上の貯水池容量のうち、6,950万m3の容量を利用し、次のように新規利水を図る。 i. 群馬県の水道用水として、最大1.39m3/s、及びこのほか別途手当される農業用水の合理化により行われる灌漑期における用水の確保と合わせて、通年通水を可能とするため毎年9月26日から翌年5月31日までの間において最大0.35m3/sの取水を確保する。 ii. 茨城県の水道用水として、最大0.179m3/sの取水を確保する。 iii. 埼玉県の水道用水として、0.951m3/sの取水を確保する。 iv. 千葉県の水道用水として、最大2.41m3/sの取水を確保する。 v. 東京都の水道用水として、最大2.07m3/sの取水を確保する。 (ハ) 工業用水 群馬県の工業用水として、最大0.65m3/sの取水を確保する。 以上の都市用水の合計は、最大9.385m3/sである。
C 発電 群馬県奈良俣発電所により、最大11m3/sの水量を利用して、最大出力12,400kWの発電を行う。
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◆ 4. 奈良俣ダムの補償
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奈良俣ダムの補償について、前掲書『奈良俣ダム工事誌』により見てみたい。補償の特徴は水没家屋移転はなく、補償対象地は、国有林が74%の大部分を占め、民有林は26%に過ぎず、その民有林も十条木材(株)がほとんど所有していた。一般補償は林野庁所管の国有林の取得が主であり、事業用地の立木の処理については、林野庁の取り扱いを優先して、立木計画伐採区域内にある立木は、国が直接収去し、区域外及び幼令木は山元価格での補償を行っている。用地取得面積は水没敷地287.5ha、工事用道路敷地等26.1haで、合計313.6haに及んだ。
特殊補償として、楢俣川及び湯の小屋川に係わる漁業補償を利根漁業組合に対し、ダム本体工事、ロック材採取、資材運搬道路の造成、湯の小屋川からの導水施設等により生じる汚濁影響に伴う漁業権の消滅及び一部制限の補償をおこなった。さらに補償工事として、楢俣林道、矢田沢林道、歩道を施工した。
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◆ 5. 地元水没者・地権者の言葉
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奈良俣ダム建設では、水没家屋は生じなかった。前掲書『インフラの源流はダム』のなかで、金子氏はいくつかのダム建設の補償交渉で地元に入り、いろいろな話を聞かされている。それをいくつか拾い上げてみる。起業者にとっては耳の痛い、厳しい言葉である。
@ 老翁は言う。この歳になって町へ出ったって、(移転先に)友達がいない。このままにしておいてくれ。 A そんなにダムを造りたければ、私の家だけビニールで囲い、水が入らないようにしてやれば良い。 B アンタところ(水資源開発公団)は、前の人(転勤した人)の言った事と、今言う人の事が、表現は違ったにせよ、芯があっていない。それは駄目だよ。 C ダム専門で他のところでやった経験があるんだから、その中の一番良い事をやってくれよ。 D 私どもはダムを造ってくれとは言っていない。 E どうせ造るのなら日本一のダムにしてよ。 F 立木の調査記録は、ホチキスを打ったが木に跡が残り木の値打ちが下がる。どうしてくれる。 G ダムは自然を破壊するばかりでなく、一枚岩の人間関係まで破壊してしまう。 H 二〜三年で代わって(転勤)何がわかる。 I 無用の者立ち入りを禁止する(家にそんなステッカーを貼られた)。 11 やり方がうまいよ、ダムの進み具合に合わせて、それに合った人をよこしている。
実際にダム水没者との会合では、さまざまのことが言われている。金子氏は「ダム造りの原点は水没者との対話から」をモットーに事に当たっている。そして、戦後のデモクラシー体制をふまえて、「三十年も経つとデモクラシーが、根付き始め、個人の自由が何より強い世の中に変わってきていた。ダム造りには水没という現象が伴い、個人の土地を提供してもらわなければならない。さらに、生活の場を失うので、生活再建の道を拓いてやらなければならない。などの大きな問題が山積されている。これには両者の合意がないと先には進めず、つまり人と人との話で決まる。」と分析し、あくまでも「ダム造りの原点は水没者の対話から」と主張する。長年のダム造りの経験から出た心境であろう。
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◆ 6. 奈良俣ダムの技術的な特徴
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前述したが、奈良俣ダムは堤体積1,310万m3のわが国で最大級のロックフィルダムである。 ダムサイトの地質は粗粒黒雲母花崗岩で、その一帯は積雪3mを超える豪雪地帯で、冬期の施工が不可能な上、土工量が大きいことから施工の短縮を図るため大型重機を採用する等、施工の合理化がなされた。その結果、月間盛立量を著しく増加(最大86万m3;従来45万m3)させることに成功し、本体盛立てを実質37ヵ月で終了させる等、ロックフィルダムの施工に関する技術の発展に多大の貢献を果した。このことが評価され、平成2年度土木学会技術賞を受賞している。奈良俣ダムの技術的な特徴について、水資源協会編『水を拓く−ダム・堰・湖沼開発の技術史』(水資源開発公団・平成14年)に、次の6点を挙げている。
@ 堤体積日本最大級フィルダムの合理化施工 奈良俣ダムサイト地点は、日本海性気候であるため冬期の積雪深が2〜3mにも及び、12月から翌年の4月まで盛立て施工ができず、コアゾーンの年間施工日数は約100日、ロックゾーンでは、約175日と少ない。このように年間施工日数が少なく、しかも大量の施工量を短期間で施工することが最大の課題であった。そのため施工機械のうち、特に運搬機械を大型化し、施工の効率化と工期の短縮を図った。即ち、材料運搬トラックを大型化し(ダンプトラック77トン、78トン)、効率的なサイクルタイムを確保するために、積み込み機械も大型化した(ホイルローダ10m3)。そして積み込み機械と運搬機械の組み合わせをおこなった(77トン、78トンダンプトラックには10m3ホイルローダ、45トンダンプトラックには7.7m3ホイルローダ)。このように運搬機械を大型化したために、工事用道路の橋梁2橋を架けかえた。
A 堤体挙動解析による基礎掘削の縮減 ダムの設計は、震度法にもとづく設計震度、材料の強度定数及び物性値を用いて、二次元の円弧すべりによる安定計算によって、堤体の法面勾配や堤体内部のゾーニングを決める。しかし、この手法では堤体内部の細部の応力、変形状態や安全率の分布を把握することはできない。特に奈良俣ダムでは上流ロック部の基礎に尾根上の岩盤が残ることから、この突き出した基礎岩盤によるロック材、フィルタ材、コア材に対する安全性を評価する必要が生じた。そこで、水資源開発公団で初めて有限要素法を用いた築堤解析を実施し、堤体内特に上流の突き出した基礎岩盤付近の安全性を検討した。その結果、尾根の岩盤基礎を残すことによりロックゾーンに影響は生じるが、掘削除去しなくても堤体の安全性が確保されることを確認することができた。 また、地震時における堤体の安全性、ならびに上流の突き出した尾根岩盤付近の安全性を評価するために動的解析を実施した。その結果、尾根岩盤の頂部で安全率が低下するが、堤体の安全性を脅かすようなすべりは発生しないことを確認した。
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B RIを利用したフィルダム遮水材の急速施工管理 フィルダムのコア材料に必要とされる遮水性や強度は、含水比と密度に支配される。このため、コアの盛立てにおける品質管理は、通常これらに着目して行われ、このうち密度管理は、いわゆるD値を用いて行われる。一般にコアゾーンは、極限値管理として品質管理が行われるため盛立て各層ごとに合否を迅速に判定することが必要となる。このため、現場密度と施工含水比はもちろん、盛り立てられた材料の最大乾燥密度や、最適含水比をも速やかに把握しなければならない。現場密度と施工含水比は、現場RI法を用いて精度よく求められる。 一方、D値管理のための最大乾燥密度を求めるためには、突き固め試験方法が唯一の方法である。このような背景を踏まえて、室内突き固め試験における含水比を精度よく、かつ迅速に測定する装置として、RIを利用した水分測定器の実用化を行うとともに、現場と室内の測定値をパーソナルコンピュータで一括処理することによって、現位置と室内を連携した迅速な施工管理システムを開発した。このシステムにより大幅な時間の短縮と省力化が図られ、コア材盛立てにおける施工管理に大きく貢献した。なお、奈良俣ダムでは、このシステムのほか、現場透水試験機の2件の特許を取得した。
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C 矢田沢砂礫層処理工 ダムサイト上流の貯水池左岸には、矢田沢〜湯ノ沢にかけて、最大層厚約130mに及ぶ厚い砂礫層が堆積している。この砂礫層は、予備調査の時点でその存在が指摘されており、関東地方北部のいくつかのダムも同様な砂礫層が存在し、漏水対策が行われてきた。調査の結果、砂礫層は常時満水位(EL.888m)以下50mと厚いものの、当初想定した以上によく締まっているうえ、遮水工事費も相当程度に上ると推定された。対策工法については、グラウト注入工法、コンクリート連続地中壁工法、表面遮水壁工法(土質、アスファルトほか)及び土質遮水壁工法を検討したが、確実性の高い工法である点から土質遮水壁工法を採用した。 この工法によれば、ダムサイトの掘削ズリが使用でき経済的に有利であり、工程的にも施工可能であった。遮水材料として、ダム本体用コア材料(角礫混じりマサ質堆積物)とダムサイト基礎掘削発生材(マサ土)と考えられたが、掘削ズリの有効利用という点を考慮してマサ土が使用された。設計透水係数は、基礎岩盤や砂礫層の透水係数等をもとに、漏水防止のための土質遮水壁の透水係数は、5×10−5p/s以下であると判断した。
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D 放流設備に日本で最大級のフィックストコーンバルブ(φ2,100o)を採用 奈良俣ダムの利水放流設備は、経済性を考慮して2号仮排水路を利用して設置することを検討した。放流設備の構造は、取水部、導水部、調整部・バルブ制御室、放流部に分類され、これに発電用設備(水圧鉄管、予備ゲート)が併設された。 放流設備の設計は、水理的設計条件、工期(仮排水路や場内道路としての使用期間の延長)、工事費、維持管理費などを総合的に検討し、調整部をダム軸付近のトンネル内に設けることとし、放流バルブは国内最大級となるフィックストコーンバルブ(φ2,100o)を採用した。
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E 湯ノ小屋取水堰にゴム引布製起伏堰(ラバーダム)を採用 湯ノ小屋取水施設は、奈良俣ダム貯水池のより効率的利水運用を行うため、楢俣川支川の湯ノ小屋川に取水堰を設置した。取水堰では下流維持用水として、1m3/sを魚道及び常用水路により放流しつつ、最大10m3/sを取水し、導水トンネルにより奈良俣貯水池に貯留するものである。取水堰について、経済性と維持管理の容易性を考え、流量調節をゲート調節などをともなわない自動化とし、取水堰には排砂機能を有し、設備操作の容易性と下流放流時における下流水位上昇の安全性の確保、それに急流河川であることから堆砂、転石に対し構造的及び操作性で優れていることを重視した。排砂機能については、従来の排砂ゲート付き固定堰型式では十分でないことが確認され、河川幅前面の可動堰型式の採用が必要となった。
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可動堰型式について、引き上げ型式と起伏型式が考えられるが、流下転石に対する耐久性、放流・取水・排砂に関する操作性、建設及び維持管理費用の経済性を考慮し、ゴム引布製起伏堰(ラバーダム)の採用となった。なお、ラバーダムの諸元は、堰高2.63m、堰長10m、袋体内圧2,300ohg、ラバー厚16.5o、設計水深3.0m、クッションゴム厚30o、ゴム引布の引張強度56kgf、起伏装置:空気膨張式、袋体振動防止:デフレクタ(堰高×0.8位置)である。
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◆ 7. おわりに
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前述のように、山田節子水上町長から「金子所長さん、奈良俣ダムを日本一のダムにしてね。波及効果が町を賑やかにしてくれるのよ」…奈良俣ダムは堤体積が1,310万m3で完成時は日本一の堤体積を誇った。良いことに係わる日本一は何であれ、その地域の人々にとっては誇りを感じるものだ。
水上町は、関東の北部の群馬県最北部に位置し、谷川岳、三国山の麓、利根川の源流域であり、自然に恵まれた町である。水上温泉をはじめ、法師温泉、川古温泉、赤岩温泉などの温泉は旅人の心に残り、また出かけたくなる温泉でもある。このような地に新しい名所として、奈良俣ダムが加わった。日本一のダムとなれば、人々は必ず訪れてくれる。山と川とダムと温泉のある町、水上町はやはり日本一の町であり、ダムが町おこしの一端を担っていることは確かだ。
平成22年の現在、合併によりみなかみ町と表記されるようになったが、ダムカレーの発売など、町おこしの気運は廃れていない。
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[関連ダム]
奈良俣ダム(元)
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(2011年9月作成)
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[テ] ダムの書誌あれこれ(64)〜揖斐川のダム (下)(横山・徳山)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(65)〜長野県・味噌川ダム 〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(66)〜飛騨川のダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(67)〜木曽川水系阿木川ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(68)〜桃山発電所、読書第1発電所、賤母発電所、落合ダム、大井ダム、読書ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(69)〜木曽川水系丸山ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(70)〜牧尾ダムと愛知用水 (上)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(71)〜牧尾ダムと愛知用水 (中)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(72)〜牧尾ダムと愛知用水 (下)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(73)〜呑吐ダム・加古川大堰〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(74)〜一庫ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(75)〜利根川水系神流川・下久保ダム、塩沢ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(76)〜阿武隈川水系白石川・七ヶ宿ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(77)〜利根川水系渡良瀬川・草木ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(78)〜利根川最上流・矢木沢ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(80)〜神流川発電所(南相木ダム・上野ダム)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(81)〜雄物川水系玉川ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(82)〜北上川水系江合川鳴子ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(83)〜北上川水系雫石川・御所ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(84)〜北上川四十四田ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(85)〜米代川水系森吉山ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(86)〜阿賀野川水系大川ダム・大内ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(87)〜東京都のダム(村山上貯水池・村山下貯水池・山口貯水池)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(88)〜東京都のダム(小河内ダム)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(89)〜筑後川水系・藤波ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(90)〜江の川土師ダム、太田川高瀬堰〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(91)〜遠賀川福智山ダム・遠賀川河口堰〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(92)〜江の川水系馬洗川支川上下川 灰塚ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(93)〜九頭竜川 九頭竜ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(94)〜九頭竜川水系真名川 笹生川ダム・雲川ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(95)〜九頭竜川水系真名川・真名川ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(96)〜ダムマニアの撮った写真集〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(97)〜吉井川水系苫田ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(98)〜旭川水系旭川ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(99)〜利根川水系薗原ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(100)〜淀川水系琵琶湖支川野洲川ダム・青土ダム・姉川ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(101)〜川内川・鶴田ダムとその再開発事業〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(102)〜筑後川・筑後大堰〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(103)〜阿武隈川水系大滝根川・三春ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(104)〜豊川水系宇連川宇連ダム・大島川大島ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(105)〜安里川水系安里川 金城ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(106)〜荒川水系中津川 滝沢ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(107)〜鹿児島県の川辺ダム、大和ダム、西之谷ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(108)〜肝属川水系串良川支川高隈川 高隈ダム〜
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(古賀 邦雄)
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