これは、「月刊ダム日本」に掲載された記事を一部修正して転載したものです。著者は、古賀邦雄氏(水・河川・湖沼関係文献研究会)です。
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◆ 1. 阿武隈川の流れ
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阿武隈川は、北上川、最上川につぐ東北第3の流域面積をもち、福島県を縦断し、宮城県南部の河口に注ぐ大河川である。阿武隈川は、その源を福島県西白河郡西郷村大字鶴生旭岳(標高1,835m)に発し、阿武隈山地および奥羽山脈から発する杜川、大滝根川、荒川、摺上川などの支川を合わせ、中通り平野を北上し、狭窄部を経て、宮城県に入り、さらに白石川などの支川を合わせて亘理町荒浜で太平洋に注いでいる。その流域は福島、宮城、山形の3県にまたがり、流域面積5,400km2、幹川流路延長239qにおよび、東北南部における社会、経済、文化の基盤をなし、治水と利水における役割は極めて大きい。流域の8割を福島県が占める。
阿武隈川の流域の形状は、南北に長い羽根状をなしており各支川が櫛状に東西から本川に合流している。流域の西側は、奥羽山脈の那須岳、吾妻山、蔵王山系といずれも標高1,000m以上の諸峰が連なり、阿賀野川と最上川と流域を接している。東側は、阿武隈山地の大滝根山標高1,193mを初めとして標高800m級の連山からなり、さらに、北は名取川、南は久慈川と流域を接している。したがって東西の分水嶺から流出する諸支川は急勾配で落差が大きいが、中央を流下する本川は、郡山、福島などの盆地を北流し、それぞれの盆地間は山が迫り狭窄部をなしている。このため縦断勾配は各盆地付近では穏やかであるが、狭窄部では急勾配をなしており全体的には階段状となっている。
流域内年降雨量は、上流山岳部において1,800o〜2,300o程度、平野部においては1,100o〜1,400o程度と他の河川に比べ比較的少ない。洪水は、6月中旬〜9月にかけての台風によるものが多く、前線のみによる洪水は少ないが、前線にともなった台風の場合は出水が多くなっている。冬期における降水量の多くは降雪によるが、融雪による洪水はみられない。
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◆ 2. 大滝根川の流れ
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三春ダムが築造された阿武隈川水系大滝根川についてみてみよう。 大滝根川は、阿武隈川の右支川であり、その源を大滝根山(標高1,193m)に発し、福島県田村郡常葉地区で桧山川を合流し、船引地区にて牧野川を合流し、さらに郡山市横川地区にて阿武隈山系一盃山に源を発する谷田川を合わして阿武隈川に合流する急勾配の山地河川である。勾配の急な箇所では渓谷をなしているが、比較的緩やかな箇所では、河道の両側に桑園がせまり、河道を狭くしている。大滝根川の流域面積は386.5km2、流路延長は134.6qである。
大滝根川の地形は、阿武隈山地の中部に位置しており、標高1,193mの大滝根山を中心として、起伏量400〜600mの中起伏山地が分布する。中流域及び阿武隈川合流前の下流域は、起伏量200〜400m小起伏山地と扇状地性低地、谷底平地が多くの面積を占めている。
一方、地質は、阿武隈変成帯に属しており、深成岩の花崗閃緑岩が多く分布している。三春ダムの建設地点は、小起伏山地に地形分類される。そこは、北、東、南からの雨水を集めた大滝根川がその流れを急激に速めてながれる西方渓谷の直前であり、両岸を花崗閃緑岩の山で狭まれた地域である。
大滝根川流域の気候は、平野部においては日本海式気候と太平洋式気候の中間的な気候を示しているのが、その大部分が山地であり、山間部においては、高原的な内陸性気候を示しているのが特徴である。流域年平均降雨量は、約1,200o程度であるが、時間雨量最大58oと集中型の豪雨もみられる。
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◆ 3. 阿武隈川の水害
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阿武隈川の水害は、台風性降雨が大半を占め、大規模な水害はほとんど前線をともなうものである。阿武隈川流域の降雨特性は、昭和16年7月洪水のように全流域一様型の場合もあるが、一般に奥羽山系の東側に多い。昭和16年7月洪水では、福島上流平均2日雨量は241o、岩沼上流平均2日雨量は228oに達している。支川大滝根川では、既往の最高が昭和23年9月洪水では、三春ダム上流域平均2日雨量で176.9oを記録している。
阿武隈川における主要洪水について、つぎのように追ってみた。
@ 昭和16年7月洪水 台風は22日鳥島付近で北北東に進み、東京湾を通過し、東北地方を縦断したため大豪雨となり、とくに宮城、福島両県下では日雨量100oを越え総雨量で白河331o、郡山259o、遠刈田277oとなり、本支川の随所で破堤、溢水が生じ岩沼水位観測所では最高水位8.04mに達した。その被害は流出家屋16戸を含めた全被災家屋は延21,560戸におよんだ。
A 昭和23年9月洪水 アイオン台風と前線との作用により宮城県から岩手県にかけて帯状に、記録を破る大豪雨をもたらした。総雨量は、白河で162o、福島194o、白石291oとなり、その被害は、死者11名、流出家屋148戸を含め全被災家屋延8,627戸となった。第二次流量改定の原因となった。
B 昭和33年9月洪水 27日台風22号が伊豆半島に上陸し、福島県中通り南部から浜通り中部を通って太平洋に抜けたため、阿武隈川流域は記録的な豪雨となり、特に、吾妻山系、阿武隈山地東側では300oを越え、筆浦では時間雨量が45oに達した。このため各水位観測所とも警戒水位を突破し岩沼で最高水位7.35mに達した。引き続き22号の襲来により暴風雨に見舞われ被害は一層おおきくなった。
C 昭和41年6月洪水 27日から台風4号により梅雨前線が活発になり同夜半から降雨があり、28日夜半には台風が接近して大雨となった。降雨量は阿武隈山地で140o前後、奥羽山系で100o〜180oであった。岩沼水位観測所の最高水位は、6.64mに達し、農作物に被害が大きかった。
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◆ 4. 三春ダム建設の必要性
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三春ダムは、阿武隈川治水計画の一環として、阿武隈川の右支川大滝根川(福島県田村郡三春町大字西方地内)に、建設省(現・国土交通省)によって、平成10年3月に完成した。三春ダムの建設について、財団法人東北建設協会編・発行『三春ダム工事誌』(平成10年)、同編・発行『阿武隈川水系三春ダム写真集』(平成10年)、三春ダム本体建設工事奥村・大日本土木建設共同企業体編・発行『三春ダム本体建設工事 工事記録』(平成10年)、三春ダムパンフレットより追ってみたい。
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『三春ダム工事誌』 |
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『阿武隈川水系三春ダム写真集』 |
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『三春ダム本体建設工事 工事記録』 |
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阿武隈川の治水計画は、昭和49年3月に工事実施基本計画の改定がなされ、福島および岩沼基準点における基準高水流量をそれぞれ7,000m3/s、10,700m3/sとし、三春ダムを含むダム群により、洪水調節を行い、計画高水流量を5,800m3/s、9,200m3/sと策定した。
一方、福島県の中央部に位置し、安積平野を有する郡山地区は、南東北の開発拠点として、昭和39年新産業都市の指定を受けて以来、都市用水の需要増加は深刻な問題となり、また、東部地区に大規模な農業開発事業が計画され、早期実施のため水資源確保が急務となってきたため、大滝根川流域、福島中央部及び北部の広い地域から多目的ダムによる治水、利水両面からの総合開発が強く要望されていた。以上のようなダムの必要性から、昭和43年度から、福島県及び建設省において三春ダムの諸調査が行われてきた。
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◆ 5. 三春ダム建設の経過
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三春ダムの建設及び管理の経過は、次の通りである。
昭和43年12月 ダムの予備調査を開始 47年5月 大滝根川調査事務所設置 49年4月 地質調査用地の測量開始 50年4月 三春ダム工事事務所に組織改正 52年3月 水没者地権者会の創立 53年11月 用地一筆調査測量開始 54年8月 ダム基本計画告示 55年4月 水特法による指定ダム告示 8月 三春ダム対策連絡所開設(三春土木事務所内) 59年3月 土地等級確認調印式 12月 ダム建設に伴う損失補償基準の妥結(158戸の移転) 61年9月 代替農地対策覚書交換調印
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63年11月 ダム本体工事着工 平成元年8月 仮排水路トンネル貫通 2年10月 ダム本体コンクリート打設開始 3年5月 三春ダム定礎式 4年12月 ダム本体コンクリート打設完了 5年4月 「地域に開かれたダム」に指定 6年5月 ダム湖名「さくら湖」に指定 7月 春田大橋供用開始 8年9月 ダム湖底祭開催 湖底に沈む故郷の碑建立 10月 試験湛水開始 9年7月 三春ダム資料館オープン 12月 試験湛水完了 10年3月 三春ダム竣工
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4月 三春ダム管理所に移行 8月 洪水において、東北地建で初めて但し書き操作(全量カット)を実施 11年5月 土砂還元試験スタート 12年6月 ダム管理において弾力的管理(リフレッシュ放流)をスタート 11月 「さくら湖自然環境フォーラム」スタート 13年4・5月 初の渇水補給(阿久津の維持流量を守るため) 14年7月 台風6号による洪水の際、2回目の但し書き操作(全量カット)を実施 19年2月 「さくら湖水源地域ビジョン」を策定
三春ダムは、昭和43年予備調査開始以来、30年の歳月を経て、事業費1,200億円余を要して竣工式を迎えた。この30年間という歳月は、ダム建設に向けての諸問題に係る合意形成の積み重ねであり、ダムに携わった人々、即ち、水没関係者、地元行政関係者、起業者、それに施工者など、その家族を含めた喜怒哀楽の連続であっただろう。そして、ダムが管理段階に入っても、洪水や渇水時のダム管理運用、水質問題などその課題をひとつひとつ対処していかねばならないのが現状である。
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◆ 6. 三春ダムの諸元
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三春ダムは、阿武隈川水系大滝根川の福島県田村郡三春町大字西方地内に造られた。その諸元は次の通りである。
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@ ダムの諸元 型式は重力式コンクリートダムで、堤高65.0m、堤頂長174.0m、堤頂幅9.0m、堤体積19.5万m3、堤頂標高EL.336.0m、堤体勾配 上流面1:0.00 下流面1:0.80となっている。放流設備として、コンジットゲート 幅3.0m×高さ3.2m1門、クレストゲート 幅10.5m×高さ8.0m4門が設置されている。
A 貯水池の諸元 貯水池諸元をみてみると、総貯水容量4,280万m3、有効貯水容量3,600万m3、堆砂容量680万m3、洪水調節容量2,800万m3、サーチャージ容量1,620万m3、非洪水期利水容量1,980万m3、洪水期利水容量800万m3、不特定容量60万m3、灌漑容量370万m3、上水道容量365万m3、工業用水道容量5万m3となっている。 さらに、流域面積226.4km2、湛水面積2.9km2、湛水延長4.3q、サーチャージ水位EL.333.0m、常時満水位EL.326.0m、制限水位EL.318.0m、最低水位EL.308.8m、洪水調節水深15.0mとなっている。
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◆ 7. 三春ダムの目的
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三春ダムは5つの目的をもった多目的ダムである。
@ 洪水調節 三春ダム地点における計画高水流量700m3/sのうち、600m3/sの洪水調節を行う。洪水期(毎年6月11日〜10月10日)においては、洪水調節を行う場合を除き、水位を標高318.0m以下に制限する。 なお、阿武隈川における計画高水流量は、須賀川において2,800m3/sであり、釈迦堂川、大滝根川、荒川等の支川を合わせて福島において5,800m3/s、さらに摺上川、広瀬川、白石川等の支川を合わせて岩沼において9,200m3/sであり、河口まで同流量となっている A 流水の正常な機能の維持 三春ダム下流の既得用水の補給等、流水の正常な機能の維持と増進を図る。
B 灌漑用水 阿武隈川及び大滝根川沿川の郡山東部地区(国営総合農地開発事業)及び三春南部地区(福島県営農地開発事業)の4,055.6haの農地に対する灌漑用水の補給を、専用施設を新設して行う。
C 水道用水 福島県郡山市周辺の各市町村は、人口の増加と都市の発展がめざましく、さらに生活水準の向上により、水道用水の需要が高まってきた。このため、郡山市に新たに最大87,200m3/日、三春町に12,100m3/日、船引町に5,900m3/日、白沢村に2,100m3/日をそれぞれ水道用水として、ダム地点において取水を行う。
D 工業用水道 三春町にある従来から多種類の工業薬品を生産している日本化学工業(株)に対し、工業用水として、ダム地点において新たに最大2,100m3/日の取水を行う。
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◆ 8. 三春ダムの用地補償
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ダム建設における難題の一つは用地補償の問題である。この補償解決がダム建設の工期を大きく左右することになる。水没地となる三春町は、東北本線郡山駅から15q、車で25分という至近距離に位置する。郡山市の生活圏内にあり、町の産業基幹である農業は、葉たばこ、養蚕、米を中心とする農家がほとんどで郡山市に職場をもつ兼業農家も多い。用地補償の諸元は以下の通りである。
三春ダムの補償地区は、蛇沢29戸、春田17戸、貝山3戸、狐田9戸、西方8戸、蛇石46戸、根本18戸、滝2戸、柴原25戸、込木0戸、過足1戸、樋渡0戸の計12地区158戸(人口697人)にのぼった。また、土地取得面積は貯水池280ha(内訳:宅地16ha、田65ha、畑69ha、山林・原野等130ha)、付替道路等50ha(内訳:宅地3ha、田3ha、畑18ha、山林・原野26ha)である。全体の取得面積は330haで約47%が農地を占め、里山のダムといえる。
公共補償として、三春町立中郷小・中学校の移転補償、郵便局1件、駐在所1件、農業協同組合支所1件、地区集会場7件、浄水場1件、それに付替道路として、県道3路線延長11.25q、町道19路線延長15.18q、林道0.54qの補償を行っている。
また、特殊補償として、漁業権1件・阿武隈川漁業協同組合田村支部第5種共同漁業権 発電所3ヵ所・日本化学工業(株)所有自家発電所(滝・柴原・西方)、工業用水取水施設1ヵ所・日本化学工業(株)所有、送電線1基・東北電力(株)、配電線300本・東北電力(株)、通信線380本・日本電信電話(株)、有線放送193本・三春農業協同組合に補償を行っている。
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昭和59年12月24日に紆余曲折を経て、損失補償基準が妥結し、個人ごとの契約は昭和60年2月16日から契約が開始された。昭和60年度に入ってから逐次移転がなされ、完了した。家屋移転先158戸は、三春町町内103戸、郡山市49戸、その他6戸となっている。
なお、集団移転地として、三春町宮北地内に23戸が移転、郡山西田町大網地内に約19.5haの未開墾地を購入し、このうち宅地1.4haの宅地造成を行い、残りは水田、畑地を造成し8戸が移転した。同様に郡山市日和田町鹿島地内に、未開墾地4.8haを購入し、宅地、水田、畑地を造成し、6戸が移転している。
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◆ 9. 三春ダムの特徴
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三春ダムの建設に係る特徴について、次のことがあげられる。
@ 水没地が一般的には山林が大半を占めるが、三春ダムでは、農地が約50%を占め、郡山市から至近距離に位置し、里山のダムであり、その意味で、地域に開かれたダムとしての重要性が高いといえる。
A 水没世帯が158世帯と多く、その補償の合意形成まで県や市町村の行政としての協力体制が大いにその役割を果たしたといえる。
B 三春ダム周辺の農業は、施肥量の多い葉たばこ、桑畑となっており、また家畜については牛や豚の飼育が盛んであることから、三春ダムに流入する汚濁負荷量は多く、貯水池の特性として植物プランクトンが増殖するのに滞留日数もあり、水深も比較的浅く、水質汚濁対策が課題である。そのため、大滝根川及び蛇沢川などに前貯水池を設け、SS性の負荷汚濁を沈殿除去している。流入水バイパス管、浅層循環、深層曝気、流入水浄化施設を設置して、水質改善を行っている。
C 三春ダムの堤体施工法は、中小規模ダムとしての合理的な施工法である拡張レヤー工法を採用したことである。拡張レヤー工法とは、縦継目を設けない、いわゆる従来のレヤー工法をダム軸方向に2ブロック以上拡張する工法であり、従来のダム用コンクリートをインナーバイブレータを用いて締め固める一連の打設システムである。現在わが国ではRCD工法で、全面レヤー工法を採用しているが、三春ダムのダムサイトは、地形が急峻(V字型)で、かつ、河床幅が狭く、堤体積も中規模であり、監査廊等堤内構造物の占有度も大きいことなどから施工面積が小さくなる。このため、運搬、敷均し、締固め、目地造成に多機種が錯綜するRCD工法は、施工性、安全性からも、そのメリットが生かされないことから、従来工法とRCD工法の中間的工法ともいえる拡張レヤー工法で施工した。
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D ダム下流の河川は、一定量の水しか流れないために、夏場は川底の石に藻が付いたり、臭いの原因となる「よどみ」ができやすくなり、環境、景観に悪い影響を及ぼす。そこで放水量を増やして定期的に川の汚れを洗い流そうというリフレッシュ放流を、洪水期(6月〜10月)に2週間に1回程度行っている。
E 三春ダムでは、上流から流入する懸濁物質を一旦滞留させ、土砂とともに沈殿させる目的で前貯水池を設置している。前貯水池には堆積した土砂が累積していくために、定期的に土砂を撤去する必要がある。また、ダムの建設により上流からの流出土砂がダムで遮断され、下流河川に土砂が供給されないため、河床低下や周辺環境への影響が懸念される。三春ダムでは、前貯水池から撤去土砂の処理または再利用として、土砂還元試験や各種産業へのリサイクル砂管理を行っている。
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◆ 10. お わ り に
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ダムが管理段階にはいって、わざわざ「水質課」を設けているのは三春ダムが唯一のダムではなかろうか。前書『三春ダム工事誌』のなかで、大藪勝美所長は、最大の課題は水質対策であるとして、次のように、述べている。
「流域面積226km2の土地に約34,000人の人が住み、約5,500頭の牛と約400頭の豚が飼育されており、さらに山林面積は60%を下まわっているという悪条件のため、流入河川水のSSは13r/l、T-Nは2.1r/l、T-Pは0.11r/lという大きな値を示しています。(略)貯水池の水質を守るに当たっては、ダム管理者のみでは限界があり、流域の皆様方の水質浄化の協力が不可欠でありますが、幸い福島県におかれては、「大滝根川水環境改善総合計画」を策定され、地域全体での取り組みがなされるようになりました。」
水質浄化のための前貯水池の建設もまた、三春ダム以外ではなかなか見られない。
私は、平成24年6月22日に三春ダムを訪れた。資料館から眺めるさくら湖はやはり薄い灰色の姿をみせていた。このダム地点は福島第一原発から約50qの距離にあるという。ダムサイト入口周辺には、平成23年3月11日東日本大震災に遭遇した移転者の仮設住宅が並んでいた。複雑な気持ちを抱きながら、青々とした葉桜となった「三春滝桜」を観て郡山駅へ戻った。
おわりに、阿武隈川に関する書をかかげる。 ○橋貞夫著『阿武隈川の風景』(歴史春秋社・2005) ○竹川重男著『阿武隈川の舟運』(歴史春秋社・2005) ○阿武隈川下流水回廊構想懇談会歴史・文化を語る会編『阿武隈川下流域の地名・伝説の考察』(仙台工事事務所・2002) ○国土庁土地局編・発行『阿武隈地域主要水系調査書』(1976) ○仙台工事事務所編・発行『阿武隈川下流改修史』(1982) ○仙台工事事務所編・発行『阿武隈大堰工事誌』(1983) ○福島工事事務所編・発行『61.8豪雨(台風10号)による阿武隈川上流水害写真集』(1986) ○東北地建河川部編・発行『吉田川・阿武隈川61.8水害写真集』(1986) ○福島県西郷村編・発行『西郷村災害誌H10.8.27集中豪雨』(2001)
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[関連ダム]
三春ダム
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(2015年6月作成)
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[テ] ダムの書誌あれこれ(44)〜山形県のダム〔下〕(月光川、荒沢、月山、温海川、横川)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(45)〜千葉県のダム〔上〕(山倉、高滝、亀山)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(46)〜千葉県のダム〔中〕(片倉、郡、矢那川、保台、山内)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(47)〜千葉県のダム〔下〕(印旛沼開発、利根川河口堰、東金、長柄)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(48)〜ダムの事典、ダムの紀行〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(49)〜ダムの切手、ダムの話、緑のダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(50)〜ダムの景観〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(51)〜ダム湖の生態〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(52)〜ダムの堆砂〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(53)〜茨城県のダム(飯田・花貫・小山・緒川)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(54)〜矢作川のダム(矢作・雨山・木瀬)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(55)〜埼玉県荒川のダム (上)(二瀬・有間)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(56)〜埼玉県荒川のダム (下)(浦山・合角・滝沢)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(57)〜長崎県のダム (上)(本河内高部/低部・土師野尾・萱瀬再開発)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(58)〜長崎県のダム (下)(相当・川谷・下の原再開発)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(59)〜熊本県のダム (上)(竜門ダム)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(60)〜熊本県のダム (下)(石打・上津浦・緑川・市房)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(61)〜鬼怒川のダム (上)(五十里・川俣)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(62)〜鬼怒川のダム (下)(川治・鬼怒川上流ダム群連携・三河沢)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(63)〜揖斐川のダム (上)(川浦・川浦鞍部・上大須)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(64)〜揖斐川のダム (下)(横山・徳山)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(65)〜長野県・味噌川ダム 〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(66)〜飛騨川のダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(67)〜木曽川水系阿木川ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(68)〜桃山発電所、読書第1発電所、賤母発電所、落合ダム、大井ダム、読書ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(69)〜木曽川水系丸山ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(70)〜牧尾ダムと愛知用水 (上)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(71)〜牧尾ダムと愛知用水 (中)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(72)〜牧尾ダムと愛知用水 (下)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(73)〜呑吐ダム・加古川大堰〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(74)〜一庫ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(75)〜利根川水系神流川・下久保ダム、塩沢ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(76)〜阿武隈川水系白石川・七ヶ宿ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(77)〜利根川水系渡良瀬川・草木ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(78)〜利根川最上流・矢木沢ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(79)〜利根川水系楢俣川・奈良俣ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(80)〜神流川発電所(南相木ダム・上野ダム)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(81)〜雄物川水系玉川ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(82)〜北上川水系江合川鳴子ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(83)〜北上川水系雫石川・御所ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(84)〜北上川四十四田ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(85)〜米代川水系森吉山ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(86)〜阿賀野川水系大川ダム・大内ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(87)〜東京都のダム(村山上貯水池・村山下貯水池・山口貯水池)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(88)〜東京都のダム(小河内ダム)〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(89)〜筑後川水系・藤波ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(90)〜江の川土師ダム、太田川高瀬堰〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(91)〜遠賀川福智山ダム・遠賀川河口堰〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(92)〜江の川水系馬洗川支川上下川 灰塚ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(93)〜九頭竜川 九頭竜ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(94)〜九頭竜川水系真名川 笹生川ダム・雲川ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(95)〜九頭竜川水系真名川・真名川ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(96)〜ダムマニアの撮った写真集〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(97)〜吉井川水系苫田ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(98)〜旭川水系旭川ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(99)〜利根川水系薗原ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(100)〜淀川水系琵琶湖支川野洲川ダム・青土ダム・姉川ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(101)〜川内川・鶴田ダムとその再開発事業〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(102)〜筑後川・筑後大堰〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(104)〜豊川水系宇連川宇連ダム・大島川大島ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(105)〜安里川水系安里川 金城ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(106)〜荒川水系中津川 滝沢ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(107)〜鹿児島県の川辺ダム、大和ダム、西之谷ダム〜
[テ] ダムの書誌あれこれ(108)〜肝属川水系串良川支川高隈川 高隈ダム〜
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(古賀 邦雄)
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